第60話 名前をつけてやる、いつか

轢かれた野良猫死んでるだろ?

一瞬で見て一瞬で通りすぎた。

運転中は急に止まれない。たかだか名も知らぬ猫のために止まれない。

それでも寂しかったらかわいそうだからついていくことにする。

ハンドルを目一杯大型トラックの方に回すと簡単にことは済んだ。


あの世の入り口で知っていたかのように待っていた。

白黒の猫が大きな扉の前でちょこんと座り行儀正しい。

伸びきってない猫の体はこんなに小さいのか。

さっき見た赤色は付けてきてない。

あの世の特権か?自分の体もバラバラでないし…

ニャアと澄んだ鳴き声。まだ若いのか?

名前も知らない。

俺の名前はもう要らないがお前の名前は付けてやりたい。

最後のわがままだ。

思案したまま時間のない空間で時間だけが過ぎていく。

思い付きもしないよ、自分の名前も本当に忘れてしまったよ。

そうこうしているうちに扉が開いて吸い込まれるように名前もないままあの世行き。

俺ららしいな。

最後にニャアと鳴いてくれ。

もう聞こえないとしても。


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