第59話 地を這おうが、泥水を啜ろうが、こちらが救済を求めているなどとは露ほども思うなよ

身体中のぜんまいを巻いたはずだが動きが悪いようで立つのも、歩くのもままならない。

仕方がなく地を這いながらもガシャガシャと進む。

アスファルトや土や雑草の匂いや姿が近くて身体中に張り付いてくる。

地べたを這うとはこういうことなのだ。

見下ろす人間たちの顔。

ひとつとして忘れない。


時折助けの手を差しのべようと近づくものには「あんたに俺がみじめに見えているんなら助けなんかいらねぇよ」と云い睨む。

地べたからやつらの予想外の表情が見えて唾棄すべき思いになる。

五体満足なだけの人間の憐れみには吐き気がする。

俺の前進する気持ちも、姿も、誰にも憐れまれるところなどない。


憐憫も救済も共有も侮蔑も同情もいらない。もちろん邪魔などしてくれるな。

自分一人のために、自分一人の力だけでそこに行きつく。

そこの景色はこことはそう変わらない。

そう分かっていても、もう「大丈夫」「いつか」「きっと」「必ず」「絶対に」「誰かは」「私を」「見ていて」「くれている」「はず」というやつらが何の根拠もなく自分達を慰めるために使う唾棄すべき単語はとうに捨ててきてしまったのだから連帯などに頼る気などさらさらない。

ここの景色も良いものだぜ。


ガシャガシャと音を立て、この体は地べたを這いつくばりながらただただ進むのみ。


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