第54話 嘘ほど醜いものはない

「きれいに描かないで」

彼女はそういうと図画工作室で裸で描かれるのを待った。

土曜日の誰もいない校舎の中には夕日が差し込んで彼女を照らしている。

もう剥がせなくなった絵の具にまみれた机に彼女は乗っている。

僕は、夕暮れ時しか絵を上手く描けない。

今日描き終わる。


絵の中の彼女は、顔は剥がれて肌は溶けて手足はもがれていた。

きれいだなと僕は思う。

夕日に照らされてなくてもそう思っただろう。

彼女も完成した絵を見る。

「私らしいね」と彼女は笑った。

僕は彼女に服を着せてから車椅子に乗せる。

「嘘ほど醜いものはないから」という彼女のことが好きだった。

彼女のその口癖も。


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