第六章 治水と灌漑

第三十話 破・一

 「わたし」なんていてもいなくても同じ。本当にそう思っていたかどうかなんて「わたし」にも、もうわからない。

 ずっと、ずっと一人だった。

 「彼女」が現れなければ「わたし」はずっとそのまま一人でいられた。

 悲しいも淋しいも虚しいも憎いも知らないままで、「わたし」はずっと立っていられた。

 楽しさは一瞬で消える。「わたし」は結局一人のままで、嬉しいを分かち合う相手もいない。幸せとは別離したままの時間は「わたし」にはただの苦痛で、そのことに気付いたとき、「わたし」は「彼女」のことを酷く恨んだ。

 それでも。もう「わたし」は「それ」から手を離してしまった。

 後悔も懺悔も、悔恨も「わたし」には届かない。

 誰か。誰でもいい、誰か。「わたし」の過ちを救ってくれる誰か。

 呼びかける声すら持たないと知って、「わたし」は己の無力を知るだけだった。

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