第六話 差出人の謎
「色は」
「極めて濃い紅だ。
「内容は」
「私にもよくわからんが、確かなのは治水工事の為に派兵した
急ではないが、湖水でこのような状況に陥ることは近年類を見ず、何らかの変化をきたしていると思われるため、土木工事を司る工部治水班が調査を始めていた。それが今から十日ほど前のことだ。
岐崔・
測量組とは言うが、工部もれっきとした
その測量組全員と連絡が付かないというのはおかしなことだと文輝も思う。
何らかの想定外の事態が起きた、と考えるのが妥当だ。野獣の出没も怪異の発生も報告されていなかったから、山崩れか何かの類だろうか。そんな自分に都合のいい解釈を導き出しながら、ふ、と文輝は気付いてしまった。
「『鳥』を出したのは沢陽口の通信士か」
通信士は通常、一班に一人の割合で配置される。今回のように先遣隊として派兵される場合には、十五人の組であっても一人が配置される。だから、測量組十五人の他に最低でもあと一人、通信士がいる筈だ。だが、それならもっと仔細な記述があるだろうに子公はそれに触れようとはしない。つまり、今届いている伝頼鳥にはそのような記述がない、と認識するのが正解だろう。
となると、伝頼鳥を送ってきたのが測量組の通信士ではない、と解釈するほかない。
であれば、沢陽口に配置されている城郭所属の通信士か、と思ったがその問いにも子公は難色を示した。
「それが、どうもおかしい。
「見様見真似で? そんなことが可能なのか」
「だからおかしい、と言っているだろう。そもそも、『鳥』は通信士が宛先を指定しなければ飛べぬ。民間の才子にこちらの情報が洩れているのだとすれば、これはただごとでは済まぬぞ」
子公の声色に苛立ちと怒色が混じる。言いたいことがあるのならば最初から言え、と常々言っているのにこの副官殿はいつもこうだ。文輝が「自ら気付き」「自ら動き」「自ら答えを出す」ことを何よりも求めてくる。面倒臭いやつを副官にしたものだ、と嘆いた時期もある。それでも、文輝は子公を諦めようとは思わなかった。
出世街道から外れたとはいえ、文輝には
それでも。だからこそ、文輝は知っている。子公にはその後ろ盾どころか、彼を庇護してくれるものは何もないのだ。周囲の全てが他人で、誰の言葉を信じ、誰の為に尽くせばいいのかがわからない。だから、子公はいつでも文輝を試している。貴様は本当に信用に足るのか、と。
今、子公は文輝を試している。少ない情報の中から何を選び、何を拾い、何を見つけるのか。その、子公の顔色を窺っているわけではない。ただ、溜息を吐く副官殿から危機感を察したから、あまり軍略には長けていない頭を必死で回転させた。
「念の為に聞くけどよ、『誰宛』だったんだ?」
「ふん、肝心なところで期待を裏切らん男だな、貴様は」
及第点だ、と子公が表情を緩める。
そして、彼は言った。出来れば一番聞きたくなかった答えを。
「そうだ、貴様宛だ。『
誰だ、そんな「鳥」を飛ばしたのは。どうして文輝がここにいることを知っている。宛名の要素の中にはどこの
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