第2話
「ただいまーー!!」
騎士団長にお菓子をもらって悠々と帰宅。騎士団長様はお菓子をくれたいい人だから、また来るときは協力的な態度を取ってあげようと思っていたら、母さんと父さんが抱き着いてきた。
「もー、おつかいから帰ってきただけなのにうれしいの?」というと、父さんから「騎士様に会わなかったかい?」と聞かれた。
「会ったよ!お菓子をもらって帰ってきたの!!あとこれ、おつかい頼まれてたやつ」
父さんと母さんは顔を見合わせて笑ってる。だってお菓子は欲しいよね。
大事な話をするから、と言ってご飯を食べる机に座らされた。きっと騎士団長様にお菓子をもらったことだろうなと思っていたらやっぱりそうだったみたい。
「ルカ、お前を王女様の影武者として雇いたいという話が来たんだ。」
重々しく父さんが告げる。なんだか思ってたのと違う話が来た。知らない人からお菓子をもらってはいけません、って話かと思ったのに。なんでも、私と王女様は目の色が違うだけで身の丈も髪の色も同じらしい。そして、一番都合が良かったのが私が平民であるということだそうだ。命令したら済むからな、って父さんが言う。そして、母さんが私に頼んだおつかいは偉いひとにお願いされたから頼んだらしい。偉い人そんなに私が買ってきたやつが食べたかったのね、って思ったらそれも違うらしい。
そういえばお菓子をもらう前にごちゃごちゃと何か言っていた気もする。私も結構頭を使ってまた来てねって言ったんだっけ。お菓子がおいしすぎて忘れてた。騎士団長様はなぜか私が欲しくて、そのことは母さんも知ってて、団長様と協力しておつかいを私にさせた。で、団長様が動くということは団長様に命令できる人が私を欲しがっているということだなーって考えたんだった。だいたい合ってたみたい。
「お菓子で私は釣れないよって言って帰ってきたんだった。お菓子が美味しすぎて忘れてた!」
私がそう言うと父さんは良く言った!それでこそ俺の娘だ!と言ってくれたけど、母さんは震えあがっていた。命令に逆らうというのは結構だめなことらしい。
「たぶんまた来てくれるよ!だって私有能だからね!!」
「連れてこれなかったというのは、本当か。」
謁見の間で、私は詰められている。嫌すぎる。幼気な少女を騙して魑魅魍魎が跋扈する宮廷に連れて来るだけでも嫌なのに、それを王からの命令として断れないよう少女の両親に圧力をかけたのもばかばかしい。
「私の影武者、連れてこれなかったの……?」
涙目で私を見る少女は、先ほど会った利発な少女によく似ている。金髪に、背の丈も同じくらい。ただ、理知的な光を称えた緑の目が違っているくらいか。青く深く透き通った目。王族の証である。
「少女に断られました。まず、私が騎士団長であるということがばれていました。そして、カマを掛けられおつかいの内容を知っている、つまりは両親と共謀していたことも知られました。その後、騎士団長という立場の人間が動いていることから、私に命令できる人間は限られている、つまりは王命ではないかということまで看破されました。そして、密命であるということを逆手に取られ、助けてと叫ぶぞと脅されました。筋を通して来い、とも言われました。その後お菓子だけ回収され、彼女は帰って行きました。」
我ながら驚くほどの失態である。起こってしまったことはしょうがない。彼女があの時私よりも一枚上手だったということだ。
「今なら10歳に見合わない頭脳も付いてきますよ、とも言っていました。その言葉通り、彼女は頭が切れる。もう一度筋を通して影武者の依頼をしたほうがよいのではないかと思われます。」
沈黙。痛いほど静まり返った謁見の間はどんな拷問よりもつらい。やめてほしい。
「そうか。ますます欲しくなったな。」
「えー、父様の命令を断るなんて。そんな子大丈夫なの?」
結局もう一度彼女の家を訪問することとなった。胃が痛い。会いたくない。
ただの平民ですが姫の影武者になりました 獺。 @yunachin
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