ただの平民ですが姫の影武者になりました

獺。

第1話

「分かった?このメモに書いてある通りにおつかいしてくるのよ?できるよね、ルカ?」

お母さんが何度も確認してくるから、少し面白い。

「できるよ、だってもう10歳だもの!あ、メモは要らない、お母さんが百回くらい言うんだもん、覚えちゃうよ。」

「あら……そう?でも忘れるといけないから、一応持っていきなさい?」

「はーい……」


家を出ようとしたとき、見ていただけのお父さんがガバっと抱き着いてきた。もう10歳なのにおつかいに行くだけで心配なのかな?私はちゃんとできるってところ、見せてあげないとね!

おとうさんに続いてお母さんも抱き着いてきた。


「も~苦しいよ~~!ちゃんと帰ってくるから、大丈夫だって!いってきます!」

しぶしぶ離れていったのが、面白くって笑いながら家のドアを開けた。近所の人に見られてないといいなぁ。


***********

「これで、良かったのよね……」

「ああ……。でも何故よりによってうちの娘が……。」

「姫の命と平民の命では、重さが違うのでしょうね……。悪い夢でも見てるみたいだわ……。」

***********


誰かが、付けてきているみたいだ。私が立ち止まると足音も止まる。走れば足音も走ってくる。とりあえず、怖いから人通りの多い道で市場に行こう。


市場について、知り合いのおばあちゃんのお店にお客さんが来ているのが見えた。


「これはいくら?」

「これはねぇ、値打ちものだから銀貨10枚は欲しいかな。」

「そうか、じゃあこれを買うよ、おばあちゃん!1,2,3,4,今何時だっけ?」

お兄さんは銀貨を懐から一枚づつ数えながら出している。

「今かい?メーアの5時だよ。あそこの時計みりゃわかるじゃないか」

「そうか、ごめんな。6,7,8,9,10 これで足りるな!」

「ありがとうねぇ」


「ちょっとまって!!!!」

おばあちゃん店主とお兄さんの会話に思わず口をはさんでしまった。だって、詐欺じゃん。

「お兄さん、その品物見せて!」

「どうしたんだいお嬢ちゃん、これはこのおばあちゃんから僕が買ったものだよ。」

「いいから!早く!」

お兄さんはにこにこしながら商品を渡してくれた。商品をジロジロ見る私。

「おばあちゃん、あのね……」

「この人お金足りてないよ。10枚って言ったのに9枚しか払ってないもの。」

ニコニコ人の好さそうな顔から一転、お兄さんは狼狽している。

「え、ちゃんと数えて払ったじゃないか?ねぇ、おばあちゃん」

「数えてみて、それ。銀貨一枚減らすなんて、ひどいわ」

あ、お兄さん、顔をゆがめて走って行っちゃった。商品だけ持ち去られなくて本当に良かった。私はおばあちゃんに商品を返す。おばあちゃんは、この銀貨9枚、どうしようかねぇと困った顔をしていたけど、騎士さまにでも報告して渡せばいいんじゃない?と言っておいた。


とりあえず妙な詐欺は撃退したし、私のおつかいも頑張らないと!後ろにいた人も今はいないみたいだし、今のうちだね!


「これ欲しいです!どれが一番おいしいですか!」

私がお店のお姉さんに聞くと、お姉さんは笑顔で大きいのが一番おいしいと持論を語ってくれた。一つしかおつかいのメモに入ってなかったから、お姉さんと私はできるだけ大きいのを選んでどっちが大きいか勝負をしたら、私の方が大きかったからそれを買った。お店のお姉さんというプロに勝ったのがうれしくて、お店の前でクルクル回ってしまったが、そのおかげでいいことが知れた。尾行者さんは騎士さまらしいということだ。クルクル回っていた私を笑顔になって見ていた周りの人もいたが、その人たちとは違ってその騎士さまはにこりともせず遠くからクルクル回っている私をずっと見ていたからだ。私は目がいいのだ。その騎士さまは、鎧の右肩の辺りに黄色い何かが付いていた。


騎士さまが私を尾行している?意味が分からない。私を尾行したところで何が得られるんだと思ったが、不審人物すぎるから、騎士さまの詰め所の前を通って帰ることにする。まだつけてきているみたいだ。

詰め所の前の騎士さまに敬礼したら敬礼し返してくれた。

「あの!」

変な騎士さまに後をつけられてるの、と言おうとしたら、もう後ろには誰もいなかった。私の気のせいだったのかもしれない。


「騎士さまの肩のところについてるのは何ですか!その、赤いやつです!」

「ああ、これは徽章って言うんだ。騎士の中の身分を表しているんだよ。僕は赤だから一番下っ端だね。騎士をまとめている騎士団長は黄色で、将軍様とかになると青色になるんだよ」

騎士さまは笑いながら教えてくれた。

「ふーん、騎士さまの証明みたいなもの?」

「そういうことになるね」

私と下っ端騎士さまがお話していたら、詰め所の中から、「サボるなー!」という怒声が。

「怒られちゃったよ。またね」

「教えてくれてありがとう!さよなら!」

私は騎士さまに敬礼をした。


知りたいことも知れたし、お家に帰ろうとしたら、また後ろからつけてきている人がいる。どう考えても同じ人だね。帰り道を変更して、人気のない裏道に入って物陰に隠れた。


ずーっと私をつけてきていた人、もとい黄色い徽章の騎士さまが来た。私は物陰から飛び出して、騎士さまの前に立つ。

「こんないたいけな女の子をつけ回して、何の用かな?」

できるだけ、不敵に笑って。ここからは相手の出方次第だ。

「何の用かなお嬢ちゃん?私にはさっぱりわからないが。ごっこ遊びか何かかね?」

しらばっくれる騎士さま。目線を私に合わせるためにしゃがんでくれた。肩についている徽章はやはり黄色だった。

そっちがその気なら、私にも考えがある。

「そうだったの。ごめんなさい、騎士さま。じゃあ私には何の用もないのね。さよなら」

騎士さまが私に用があるなら、引き留めてくるはず。

「ちょっと待ってくれ、どこに行くんだ!」

「ここの道には、特に用はないの。だから、をしなきゃ。」

にっこり笑って騎士さまの方を見ると、あわてている様子。

「おつかいはもう終わったはず……。あっ」

あわてて口を閉じる騎士さま。でも、もう遅い。

「どうして私のおつかいが終わったことを知っているの、騎士団長様?」


「なぜ、それを……」

「あなたの徽章が黄色だから。」

図星を突かれて顔が青くなる騎士団長さま。でもどうして私のおつかいを知ってたんだろう。おつかいを頼まれたのはお母さんから。つまり、お母さんと団長さまが繋がってたということになる。でも、団長さまは多分貴族。商人の妻であるお母さんと知り合いという線はないだろう。だってお父さん貴族のこと嫌いだし。じゃあどうして私のおつかい内容を知っていたのか。これは予想だけど、『誰かがお母さんに命令して私におつかいを頼ませた、そしてそのおつかいの途中か帰りにおかしか何かで釣って私をどこかに連れて行く手はずだった』みたいな。でも、この場合かなり厄介だ。団長さんはかなり上の方の身分のはずだから、団長さんを動かすことができる人というのはそれなりに限られている。なんで私なんかがそんな人に狙われているんだ、ほんと。


「どうして私なんかが偉い人に必要なの?」

「何故そこまで知っている!まさか、親から聞いたか!」

「考えただけだよ、合ってたみたいだけど。お菓子で釣るだけの簡単な密命だと思った?残念、私はそんなに甘くないよ。」

「ぐぅ……っ!なぜ密命だと知っている!おかしいだろう!」

「だから考えただけだって、騎士さまの詰め所に私がいたとき、隠れてたもん。見つかったら困るんでしょう?」

「そ、それがどうした!」


それが重要なところなんですよ、団長さま。

「実はここ、表通りの一本入っただけの裏道で、表通りに声がきちんと通るところなんだよ。『助けて~!』とかね。だからこの道、悪い人がいないの。表通りにある騎士さまの詰め所がとっても近いから、すぐに駆け付けてもらえるんだ。誘拐されそうだな~怖いな~、助けて~って叫ぼうかな!」

ニコニコしながら団長さんを見ると、百面相していてとても面白い。

「くっ……それで、どうしてほしいのだ、私に」

なかなか飲み込みがはやいですね、団長さまは。

「雇い主様にこうお伝えください。『きちんと筋道立てて手続きを行ってください。脅迫・誘拐まがいのことをしないのなら、こちらも最大限協力しましょう。』と。あと、『今なら10歳に見合わない頭脳も付いてきますよ』とお願いします」

団長さまは悔しそうな顔をしている。


あ、忘れてた。

「あとお菓子ください。お家で食べます」

少し考えた後、お菓子の詰め合わせの袋を渡してくれたので、団長さまは良い人だ。

「ありがとうございます」と言ったら、団長様は恥ずかしかったのか、さっさと走り去ってしまった。

「また会うんでしょうね、嫌だけどお菓子くれたので頑張ります」

私は走り去る背中にそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る