第21話 言われた通りにしたのに……4
僕と稲森さんは隣同士で、真希ネエはローテーブルを挟んだ先で対面する形で座っている。
テーブルの真ん中にはお菓子が詰まったカゴが。そして飲み物がコップに入ってそれぞれの前に。紹介の場がここに整う。
思い踏みとどまって直前で着替えてくれた……のか? いや、のか? じゃなくて実際着替えてるから自信を持って着替えてくれたでいいんだけども……じゃあなんで初っ端あんな格好していたの? って疑問が当然でてくるわけで。
稲森さんを幻滅させ別れさせようって魂胆じゃないとすれば…………ダメだ全然思いつかない。こうやって僕に心理的動揺を与えるのが目的だったのか? それならもうとっくに成功してる。なにがしたいのかわからなすぎて怖い。嫌がらせならそうだと言ってほしい。
「――郁ちゃん?」
「え、あ、え? な、なに?」
真希ネエに呼ばれ僕は慌てて反応した。
その様を見て真希ネエは困ったように笑う。
「なに? じゃなくて――彼女さん、すっかり手持ち無沙汰な様子だけど?」
言われて僕は稲森さんに視線を向ける。コップに入った飲料をボーっと見つめていた彼女は肩をぎくりとさせ、頭に手をやって「たはは」とぎこちなく笑った。
真希ネエがなにを企んでいるかわからない。けど、だからってペースに巻き込まれてたら崩れなくていいものまで崩れてしまう恐れがでてくる……たとえば稲森さんは彼女役としてここにいるとか。
それだけはなんとしてでも避けなきゃいけない!
僕は「んんッ」と咳払いしてから真希ネエに視線を戻した。
「紹介するね――僕のクラスメイトで稲森美鈴さん! えっと……僕の、その、彼女、です……なんかこっぱずかしいな、えへへ」
「稲森さんね! よろしく! 郁太の姉の桐島真希です!」
「あ、はい! よろしくです!」
真希ネエと稲森さんが交互に頭を下げた。初対面ってこともあり、二人の間にほどよい緊張感があるよう。
「早速なんだけど、お姉ちゃん、二人の馴れ初めが聞きたいなー」
「べ、別に聞かせるような内容じゃないって。普通だよ普通」
「普通のエピソードだとしても、聞きたいの」
テーブルの上に肘をつき、組んだ手に顎を乗せて、上目遣いで僕を見つめてくる真希ネエ。温かい
さながら僕は睨まれたカエル……か。けどただ蛇の肥えになるカエルじゃあない。この展開は既に織り込み済み。なんら焦ることはない。
僕は頬を人差し指でかきながら稲森さんの方に顔を向け、予め作っておいたエピソードを語る。
「高校っていう新しい環境で、同じクラス、隣同士になって、初めのうちは一言二言交わす程度の仲だったけど、日を重ねるごとにお互い打ち解けあっていって……その、稲森さん良いなって思って僕から告白して……今に至るというかなんというか……」
「――――ッ⁉」
我ながら完璧だと思った。どっからどう見ても彼女できたての
僕だけじゃなく、稲森さんも完璧。恥じらいを装う為に体をもじもじさせ、耳まで真っ赤にして俯くその姿はまさしく彼氏できたての初心な女子高生。
初心×初心とくればさすがの真希ネエでも見抜けないはずだ!
「そんな……感じかな」
僕は真希ネエに向かってそう言い、照れ笑いを浮かべる。
そんな僕らを真希ネエは値踏みするかのごとくじっくり見つめ、やがて静かに口を開いた。
「それだけ? まだまだあるでしょ? たとえば……付き合ってどれくらいとか、告白した場所とか、ね」
「そりゃ、あるよ」
「聞かせて」
そこからは僕と真希ネエの質疑応答のうような時間が続いた。
告白した場所は? 初デートはどこに行った? どこが好き? チューはした? それらすべてを僕が答え、その度に稲森さんは相槌を打っていた。
紹介、というよりは尋問に近いな……そう感じながらも僕は答え続け――そして、
「ふぅん……なるほどね」
ようやく真希ネエからの質問が途切れた。
引くなら今しかない! そう思い僕は稲森さんの手を取り立ち上がろうとする。
「――まだ終わってないよ? 郁ちゃん」
が、真希ネエは見逃してくれない。
「お、終わってないよって、もう十分語ったじゃんか」
「十分語ったのは郁ちゃんだけ……稲森さんの話は全然聞けてないから、まだ帰っちゃダメ」
真希ネエは僕から稲森さんへと視線を移し、あざとく首を傾ける。
「私に語って聞かせて? 稲森さんの気持ち」
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