第13話 ただパンツを求めただけなのに……4
真希ネエがなにを考えているか見当がつかない、つけようがない。この狭すぎる写真館は真希ネエにとっても知られたくなかった秘密のはず、現に部屋に戻ってきてすぐ「バレちゃったか」と零していたし…………なのに今、こうして僕の手を引っ張って自分から晒している。これはなに? ひょっとして僕は試されているの? それともどっかの有名な大学が僕たち姉弟を勝手に被験者にして心理学の実験してるとか?
真希ネエの真意が掴めない。さらに言葉も出てこない。ただ目を泳がせているだけ。
そんな無能極まりない僕に真希ネエは追い打ちをかけてくる。
「郁ちゃん……ほんとは充電器探しにきたんじゃないんでしょ? 最初から私の下着目当てできたんでしょ?」
「ち、違う違うよ真希ネエ! あ、もしかして僕が探しても探しても下着しか見つからないって言ったから? あれは冗談だってば~、いやだな~もう~」
「――私、知ってるんだよ? 郁ちゃんが〝ベッドの下〟に隠れていたのを」
「え――――」
突然顔を近づけてきた真希ネエに耳元でそう
「な……なにを言ってるのか、さっぱり……」
「……「真希ネエ――ヤバッ」ってちゃんと聞こえたよ? なにがヤバかったの? …………ナニが、ヤバかったの?」
すっと上体を引いた真希ネエは僕と目を合わせるなり、ふふっと色っぽく微笑んだ。
その表情は十五年という決して短くない年数を共に過ごしてきた真希ネエが、僕に初めてみせたものだった。
「ど、どうしてそれを……だって、え? ま、真希ネエはあの時、気のせいだって流
したじゃんか」
「気付いてない振りしてただけだよ。というか、あれだけ大きな声出されたら嫌でも気付くよ」
桐島郁太、ここに散る。
終わった。完全に終わった。僕はこれからどう生きていけばいいんだろう。これからも桐島家で住まわせてもらえるんだろうか。いや、仮に住まわせてもらえたとしても僕の方が音を上げると思う。たとえ父さん母さんがこのことを知らなかったとしてもだ、真希ネエがいる、意識してしまう、態度に出てしまう、いずれバレてしまう…………ならいっそ家を出れば――。
「――絶望しないで? 郁ちゃん」
「――――ッ」
真希ネエは呆然とする僕の頬に優しく手を添え、耳をくすぐるような甘い声でそう言った。
こんなこと思うのは気持ち悪いかもしれない、自意識過剰かもしれない。けど、一度生じた疑念は簡単に振り払えない。
実の弟に抱いちゃいけない感情が、僕を見つめる真希ネエの瞳に渦巻いているような気がしてならない。
「誰にも言わないから。お姉ちゃんとの約束」
「あ、う、うん……ありが、と」
真希ネエが、真希ネエの皮を被った別人に思えてしまい、僕は怖くて後ずさる。
「どうして逃げるの? 私が信用できない? 私を信用してくれないの? 郁ちゃんは私のことが嫌いなの?」
「いやッ、そういうわけじゃないんだけど――」
後ろにベッドがあることを忘れていた僕は、足を取られベッドの上に尻を打った。
その上を真希ネエが覆いかぶさるように
「そう怯えないで? 私はね、お姉ちゃんはね――ただ郁ちゃんのことが好きなだけなんだよ?」
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