第12話 ただパンツを求めただけなのに……3

「……な、なに言い出すかと思えばそんな――当たり前じゃんか! そんなの確認するまでもないよ……僕と真希ネエはこれからもずっとずっと仲良し! 絶対に!」


 と、僕は写真から目を背けて言った。


 仲良くできるかな? って僕の写真提示されながら聞かれても困るんですけど! というか言ってることに対してやってることがもう答えになっちゃってるんですけど! とても『仲良くできるよ!』って返答を求める言動じゃないんですけどッ!


 そう心中でツッコんでいると、不意に僕の目の前に複数の〝僕〟が現れる。


「ちゃんと見て」


 目を離していたうちに近づいてきていた真希ネエが、僕に見せるよう目の位置に写真を掲げる。


「えっと……うん……」


 眼前には口を半開きにして寝ている僕、洗面所でお着替え中の僕、歯を磨いている僕の写真が。


「これ、あれだよね? 将来、僕が結婚する時に式で使うための写真だよね? あの……あれ、スラッシュアックスじゃなくて……」


「スライドショー?」


「そうそうそれそれ! 余興で流すのに集めてくれてるんだよねッ! いや~真希ネエにはほんと頭が上がらないよ~。僕のためにありがとねッ!」


「……………………」


「でも、そこまでされちゃうと変にプレッシャー感じちゃうな~。絶対結婚式挙げないと! みたいな? これで式挙げる相手ができずに独身ルート行っちゃった日にはもう土下座もんだよね、ハハハッ」


「……………………」


 もう辛い。この写真が人生のハレの日に使われるわけがないってわかっていながらとぼけているのも辛い。真希ネエの『郁ちゃんなに言ってるの?』って言いたげな視線も辛い。今俺の身に降りかかっている要素すべてが辛い。


 けど他にどうすれば良かった? 『え……どうして僕の写真をあんなに持ってるの? ちょっと引いたんだけど』って率直に伝えれば良かったの? そんなの口が裂けても言えないよッ、なにされるかわかんないしッ!


 へらへらと笑いながら思考はやけくそ。そんな状態の僕に打開策が思いつくわけもなく、対して真希ネエはといえば不気味なほど落ち着いている。


「そっか。あくまでしらを切るんだね……それじゃ――」


 真希ネエは写真を持つ手を下げ、もう片方の手で俺の腕を掴んできた。


「こっちきて」


「ちょ、急に引っ張んないでよ真希ネエ~、危ないだろ~?」


 そう軽い調子で言いつつ、僕は踏ん張りをきかせて抵抗してみせる。


「いいからこっちきなさい」


「あ……はい」


 キリッと睨みを利かせ、厳しめの口調で言ってきた真希ネエはまるで銃を構えた警官のよう。銃口を向けられた僕は泣く泣く両手を上げ、抵抗するのをやめた。


 結果、真希ネエにクローゼット前まで連行される羽目に。


「……これ見ても同じことが言える?」


「え、あ、いや、う~んと…………」


 言葉がうまく出てこなかった。日常から切り取られた僕がたくさん保存されているクローゼット内部は、二度目であっても怖すぎたから。

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