第9話 普通ってなんだっけ……

 僕は今、布団を被って自室の天井を見つめている。もう一度、暗闇に慣れてきたこの目は〝天井〟に向いている。ベッドの下で息を潜めて~なんてことはないのであしからず。


 …………。


 チラと壁時計に目をやると、長針と短針があと少しで重なろうとしていた。あと数分もしない内に日付が変わる。


 …………。


 再び視線を天井へと戻す。


 子供の頃はよく、天井に人の顔を見つけてはおびえてたっけ。今じゃただの模様にしか視えないし、たとえ視えたところで『はいはい錯覚ね』で片づけられちゃうけど。


 …………。


 どうしてもうおやすみモードなのかって? そうだよね気になるよね。


 …………。


 結論から言うと、今日一日〝なにもなかった〟。


 普通にだらだらしたり、普通に好きなことしたり、普通にピザ注文して普通にテンション上がって普通にピザ食べたり、普通にお風呂入ったり、普通に今に至ったり――要は普通に休日を謳歌おうかしたってこと。


 …………。


 真希ネエもたらふくピザ食べられて満足気だったし、ほんと良い一日だったな。


 …………。


 けど、なんだろ…………この、肩透かしを食らったような感じは。


 ――――――――――――。


 翌朝、目が覚めたら真希ネエの寝顔が目と鼻の先に! なんてラブコメみたいな展開が訪れることもなく、昨日と変わらず普通に時間が過ぎていった。


「――ちょっとコンビニ行ってくるけど、郁ちゃんなにか買ってきてほしい物とかある?」


「う~ん、特にないかな」


「そっか。じゃ行ってくるね!」


「行ってらっしゃい」


 もう間もなく両親が帰ってくるだろう時間に、真希ネエは買い物があると家を出て行った。


「はぁ……結局なにも起こらなかったなぁ……いやまぁそれが普通なんだけどさ」


 一人残された僕はソファーに寄りかかって天を仰ぐ。


「真希ネエにとって家に誰もいない時が絶対条件なんだろうなぁ……まぁ、それも極めて普通のことかぁ」


 人には見せられない一面っていうのは誰にだってあるはずだ。墓場まで持っていきたい秘密もあるはずだ。それが感情を持たされた人の宿命、なんらおかしなことはない。


「普通って……なんだっけ?」


 それは僕にもある。デキたてホヤホヤの、誰にも知られたくない性癖が。


「……………………」


 屋内無人の条件をクリアし、僕は自由の翼を手に入れる。


「…………いざ、参らん」


 思い立ったが吉日、僕の足が欲求に従って動き出す。


 え? どこを目指しているかだって? そんなの決まってるじゃないか。


 ――――真希ネエの部屋、だよ。

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