第6話 現場を押さえようとしてたのに……3

「ん……んぅ……んはぁッ」


 真希ネエの官能かんのう的な声とベッドのギシギシ音が真上から、それも目と鼻の先から降り注いでくる。4D映画、VRよりも迫力が凄い。


 しかも視覚から得られる情報が一切ない状況ときた。ここに思春期男子が加わればどうなるか……膨らむ想像が余裕でコンプライアンスに触れる。現に僕の脳内真希ネエはとても卑猥ひわいな姿になってしまっている。


 …………ち、違う。僕は想像力を養うためにこんな暗くて狭い場所に入ったんじゃない! 目的を見失うなッ!


 迷いを晴らすべく僕は頬を強めにつねる。


 ここから出なくちゃ……出て現場を押さえなくちゃ……それが目的で僕はここにいるんだろ? じゃあ出なくちゃ――。


「あっ――んん――気持ちいいッ♡」


 やっぱ無理いいいいいいいいいいいいいいいッ!


 事態に直面して初めて気付かされた。男では――女性の一人エッチを邪魔することができないと。


 ここで『それは違うよッ!』って反論してくるような男はきっと会議室にいる側の人間、ニワカ野郎だ。僕のように現場の空気を吸ってる人間とは違う。


 そしてもう一つ気付いたことがある……僕は、極限の状況下で正常を保てる人間じゃない。


 否、僕はおかしくなりにきたんだッ!


 現場を押さえようなんてのは建前たてまえで、本音はおかしくなりたかった……だって、思春期なんだもん。


 玄関の鍵を閉めたのも、わざわざ靴を仕舞ったのも、ティッシュ箱片手にベッドの下に潜ったのも、全部そのため。


 3日連続で真希ネエのあられもない姿を見せられて、男の僕に我慢できるわけないじゃないか。


 言ってしまえば僕は被害者、会議室で座してる側でもなければ現場に出向いている側でもない……現場で横たわっているただの被害者なんだ。


 だから……これは仕方のないことなんだ。


 僕は呼吸すら忘れそうな集中力で両手を下腹部へともっていき、ベルトを緩め、パンツごとズボンを脱ぎそして――理性を生贄にもう一人の僕を通常召喚する。


 …………これより、バトルフェイズに移行する。


 僕は少量の唾液を手のひらに垂らし、その手でもう一人の僕を握った。

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