第2話 家族の前では普通なのに……
その日の夜、桐島家の食卓。
「――受験勉強の方はどうなんだ? 真希」
「う~ん、まぁぼちぼち、かな?」
「うむ。部活が終わって遊びに走ってしまう気持ちもわかるが、大学受験が後に控えているといことを――」
「念頭に置いておけ……でしょ? わかってるよ、お父さん」
「なら、いいんだが……」
「もう、心配しすぎですよお父さん。真希なら大丈夫――だって真希ですもの」
「そうか――真希だから大丈夫かッ!」
「ちょっと~、私だから大丈夫って意味わからないよ、二人とも」
僕以外の家族がアハハハハッと声を出して笑う。今日も今日とて賑やかな桐島家の食卓だ。
普段なら僕も会話に参加して家族と楽しいひと時を過ごすのだけど、今日は加わらずにいる。
それどころか食欲もまったくわかず、大好物の焼き鮭を前にしてもテンションが上がらない。
真希ネエが……真希ネエが……僕の部屋で制服を乱してとろけてた。
あの光景が頭から離れず、おかげで夕方から心がフワフワしたままだ。
女性の一人エッチって、間近で見るとあんなにエロいんだ……じゃなくってッ! どうして真希ネエは僕の部屋で……。
勇気がでず、自室に足を踏み入れることができなかった僕に理由がわかるわけもない。
けど、僕の人生で一番エロかった瞬間が今日で更新されたのは確かだ。あの時、もう一人の僕(チ〇コ)も背を伸ばしてそうだと主張していたから間違いない。ちなみに更新される前は小学生の頃、音楽の授業中にクラスで一番可愛かった女の子がリコーダーの先端から唾液をたらぁ、と垂らしているところを目にした時だ。もう一人の僕(チ〇コ)の先端からもドピュッ、と出ちゃいそうになったのを今でも覚えている。
話が逸れちゃったけど、とにかく興奮したことは伝わったと思う。
でも……同時に怖くもあった。ベッドの上での真希ネエが、僕の知る真希ネエのイメージとあまりにかけ離れていたから。
ダメだ、食欲がわかない居心地もよくない。知らない家の食卓に招かれたような気分だ。帰りたい……いや、既にもう帰ってるから部屋に戻りたい。
それにしても不思議だ。
「あ、お父さんまたご飯粒落してるよ」
「むッ、またか」
「もう、お父さんたらだらしないんですから。真希の箸使いを見習ってくださいな」
「だな!」
どうして真希ネエは平然としていられるんだろう。弟のパンツを嗅いでおきながらどうして食事をとれるんだろう。弟のベッドの上でとろけておきながらどうして父さん母さんと普通に会話できるんだろう。
「――どうしたの? 郁ちゃん。私の顔になにかついてる?」
しまっ――見すぎたッ!
「え、あ、ううんッ、なにもついてないよッ!」
僕の視線に気付いたんだろう、隣に座っている真希ネエに声をかけられ思わず口から心臓が飛び出そうになった。
「どうしたの? 郁ちゃんの大好きな焼き鮭なのに、全然箸が進んでないよ?」
「う、うん……なんか、食欲なくてさ」
「なにを甘ったれたこと言ってるんだ郁太。男たるもの、出された飯は残さず……そう教えてきたろ?」
「お父さんの言う通りですよ郁太。ほら、真希の食べっぷりを見習いなさい」
「ご、ごめんッ、ほんとに今日は無理でッ――ご、ごちそうさまッ!」
「郁ちゃん!」
真希ネエと同じ空間にいることが耐えられず、僕はダイニングを飛び出て自室へと駆け込み、ベッドにダイブした。
「…………真希ネエ」
真希ネエから逃げてきたはずなのに、真希ネエがすぐ近くから感じられる。
「めちゃくちゃ良い匂いがするよぉ……」
もう一人の僕もまったくもってそうだと身を固くして主張した。
――――――――――――。
「スウウウウ――――ハアアアアアアアアァァァ…………郁ちゃん」
翌日の放課後、学校から帰ってくるとまたしても――真希ネエが僕の部屋で✕✕✕していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます