第3話 エイクロイドとの戦争の回想
俺達のいる控えの間は護衛、侍女でごった返している。
何せ全学年の生徒が今日は集まっており、各生徒に2人づつ護衛や侍女が付くとして300人以上はいる。
全員同じ控えの間って訳じゃないが、それでもここに50人は居るだろう。
隣で主がパーティを楽しんでるんだから多少のおしゃべりは許されると思うんだが、皆控えめにしている。
控えの間から広間の様子を伺える隠し窓があるんだが、そこから仕える主の様子を静かに見守っている者がけっこういる。
俺達ももう少ししたら主の様子を見ないとな。
殿下は自分の婚約者のジャニーン=ハールディーズ公爵令嬢にこの卒業パーティの宴もたけなわ、の時に婚約破棄を突きつけるって、どう考えても無茶で野蛮な行為をするつもりなんだが、殿下は何故だか昔から自分の身を危険に晒したり、立場が悪くなったりされるのを厭わない。
8歳の頃に逗留していたフライス村がワイバーンに襲われそうになった時も、安全な場所への避難を勧めたドノバン先生やハンスの言を容れず、自ら危険に身を晒してワイバーンを撃退した。
殿下の作戦で結果皆無傷でワイバーンを撃退することができたが、普通なら王族がそんな前面に立つ必要なんてないんだ。
最も俺は、自分の世話になってる村を自分も守りたいって思ってくれる殿下が好ましいと思ったから、真っ先に殿下の意に賛成しちまったけどな。
まあ今回の婚約破棄についても、殿下は多分自分とジャルラン殿下の武名を比較して、今後ふざけた国内貴族連中を従わせるにはジャルラン殿下が国王を継ぐのがふさわしいと考えた上でやろうとしてるんだろうと俺は思う。
ジョアン殿下が気にしているあのこと……5年前のエイクロイドの侵攻で敗戦の責を負ってしまった、そのせいだ。
魔法学園の設立を国策で進めるきっかけになったあの敗戦。
あれは殿下のせいじゃねえ!
誰がやっても無理だった。
後から状況がはっきりしてからだったら防衛手段でも何でも完璧なことが言える。落ち度をあれこれ
実際あの戦場に参加していた貴族共が戦後ジョアン殿下に全ての責任を擦り付けたのは、俺は忘れねえし今でも許しちゃいねえ。
そんな俺の気持ちをジョアン殿下は諫められるけどな。
「ダイク、国内貴族を憎む気持ちが伯父上をあんな行動に走らせてしまったんだ。ダイクも私の為に憤ってくれるのは嬉しいけど、貴族に憎悪を向けるのは止めてくれないか」だってよ。
あの戦いは、
エイクロイドへ寝返った公爵様ってのが殿下の伯父上ディラン=ニールセン公爵様だ。
エイクロイドとの外交実務はこの公爵様が一手に担っていた。
現国王ダニエル=ニールセン様の兄だからな、多分他とは違って本当に全て任せていたんだろう。
今思えばエイクロイド共和国成立の頃から、この公爵様はエイクロイドと気脈を通じて機会を見計らっていたんじゃないかって思う。
そうじゃなきゃ、ああいう敵ながら鮮やかな動きってのはできないんじゃないか。
ディラン=ニールセン公爵様がエイクロイドへの寝返りを明らかにしたのは1763年の9月。
当然王都アレイエムでは対策のための軍事会議がすぐに持たれた。
なんせ国境のリルズ河を挟んで睨みを利かせていたヘーレンっていう城塞都市がエイクロイドの手元に渡った訳だから、これをこのままにしておいてはエイクロイドの侵入を防いでくれていたリルズ河の恩恵が無くなってしまう。
捨て置くなんて訳にはいかない。
ダニエル国王はなんせ裏切ったのが実の兄だから、翻意を促そうと何度も使者を出した。だがそんな態度を弱腰と侮り、即時討伐あるのみ、という強硬意見を主張する貴族は多くいた。
まあここからニールセン王家の対応が後手に回ったってのはあるだろう。
そのうちに領都へーレンにエイクロイドの皇帝が直々に駐屯しに来るという情報が何処からかもたらされた。
更にはエイクロイドは全方位に侵略の手を伸ばしているため、皇帝の元に軍が終結するのがかなり遅れていて、とりあえずの手兵をまとめてヘーレンに来るって情報もあわせてだ。
どれだけ都合がいいんだよ。普通疑うわ。
しかし、それを鵜呑みにしてくれたとある公爵様を始めとする領地経営が上手く行ってないお貴族様たちは千載一遇の好機、かの暴虐不遜な奴ばらに正義の鉄槌を下しネーレピアに静謐を、なんて軍事会議で言い出して、ニールセン王家を引きずる形でヘーレン攻撃がここに至って決定した。
実際に情報通りの部分もあった。
エイクロイド帝国の皇帝ポルナレフ=ボンバドルが実際に来ていたことと兵数だ。
へ―レンに駐屯していたエイクロイドの軍は皇帝直轄軍のうち精鋭3万。
元公爵様の手兵を合わせても4万強だ。
対して全土の貴族に動員をかけたアレイエム王国軍は、各貴族家の部隊で構成された第1軍だけで30万を数えていた。ただこの30万は各貴族家が手柄だの保身だの各貴族家の思惑で勝手に動く烏合の衆だった。統率なんてあったもんじゃない。うちの国の軍のそうした事情ってのは寝返ったディラン=ニールセン公爵様からしっかりエイクロイド皇帝ポルナレフ=ボンバドルにはもたらされてたんだろうな。
ディラン公爵様と皇帝ポルナレフ=ボンバドルは手柄を上げようと血気に逸った貴族の軍が自分たちのへの攻略の主軸に収まることを想定しており、そんな烏合の衆の軍を徹底的に叩き殲滅する腹積もりだったんだろう。
それにまんまと乗っかって領都へーレン近郊の平原で10月に決戦とあいなったわけだ。
歩兵がぶつかり合い弓兵が矢を降らせ、騎士が突撃し切り崩す。
そして敵の指揮官である騎士を討ち取る、捕らえる、退却させることで勝敗がつく。
これまでの戦争は、規模こそ大小の違いはあるが、ほとんどはそうした形で決着がついた。
だが、エイクロイドは違った。
正確には一部が違った。
違った一部が何かというと、エイクロイド帝国の皇帝直属軍だ。
奴らは、それまでの戦争の常識を変えた。
攻城戦の時にしか威力を発揮しないとそれまで思われてきた大砲を軍の中心に据え、野戦で使ってきたのだ。
大砲は一発打つと次の弾を撃つのに非常に時間がかかる。
正確に大砲で連撃するには、一発撃った後、反動で後ろに下がった大砲を乗せた運搬車ごと元の位置に戻し、筒内の煤を払い、火薬と砲弾を詰め直し、ズレた仰角を調整し、導火線に点火し発射する。これだけで結構時間がかかる。
その上複数の大砲を並べて運用するとなると、上記の一連の作業を行ったとしても、前回発射した時に上がった火薬の煙が滞留しているので、煙が晴れないと正確に距離を測って発射できない。
そのため次弾の発射が熟練兵で3分強、平均で5分かかる。
そんな訳で大砲は攻城戦では大いに使えるものの、野戦では主力になりえない。各国の認識はそんなものだった。
そんな大砲の運用をエイクロイド皇帝ポルナレフ=ボンバドルは、魔法を組み合わせることで劇的に変えた。
言われれば何だそんなことかよってくらい単純な話だが、大砲筒内に風魔法で風を吹き付け煤を払う時間を短縮。火薬の着火も導火線ではなく火薬に直接火魔法を用いて着火。それで次弾発射までの時間を短縮したのだ。
大砲が吐き出す視界を遮る煙も、風魔法で吹き飛ばしあっという間に視界を晴らすのだ。
エイクロイド帝国は防衛戦争から懲罰戦争とここ8年ずーっと僅かな次の戦争への準備期間を除いて戦い続けて来た。
その間に各部隊ごとに使っていた大砲に魔法を組み合わせる発想が生まれた。
平均2分に1発の高速射撃で砲撃の連撃性を高め、野戦での使用も既に経験していたエイクロイド帝国の皇帝直轄軍は、我が国への侵攻作戦時には500門の大砲を一斉運用するという常識破りな戦法を取った。
戦場で血風を巻き起こすためにエイクロイド皇帝直属軍が用意した魔法使用者の人数は、筒内清掃、煙払い、着火と各大砲に3人と計算しても1500人はいた。多分魔法使用回数を考慮して予備もいただろうから3000人以上だ。
我が国の貴族やその家族を総ざらいした人数の半分は軽く超えている。
当然エイクロイドの砲兵全員が貴族のはずはない。貴族は軍、部隊の指揮官に多く取られているはずだから、砲兵の大多数が平民のはずだ。その事実が脅威だった。
エイクロイドの大砲はヘーレンまでの街道をまたいだ原野上に、前面に守備の歩兵部隊も、逆茂木などの防御設備も置かずに配置されていた。
ずらっと並ぶ大砲は異様だっただろう。50門を1列とし、大砲と大砲の間隔は10m開けており、端から端までは500m。それが10列をなしている。
その後方には有人熱気球を上げて、アレイエム王国軍の動きを観測して伝えていた。
アレイエム王国軍の当初の想定では数で圧倒的に勝るアレイエム王国軍に対しエイクロイド軍はヘーレンでの籠城を選ぶだろうと思われていたので、想定していた戦場よりも前の地点での接敵と、異様な大砲の多さに驚きはあった。
ただ、前方に守備兵を置いていないということは、それまでの常識で言えば大砲の陣に斬り込んでしまえば敵に有効な反撃手段がない、ということでもある。
更にいえば、攻城戦よりも一度の野戦で決着を付けられるというのは願ってもみない幸運だ、という思いも参加した貴族家にはあっただろう。
この大砲陣を発見した貴族家は、本陣に形ばかりの伝令を出した後、本陣からの指令を待たずに好機と見て次々と攻めかかっていった。
自らの身と剝き出しの大砲陣を餌にして、皇帝ポルナレフ=ボンバドルはまんまと手柄に逸る烏合の衆を釣り上げたって訳だ。
むき出しになった大砲部隊に、何も考えずに手柄を求め、自軍より数が少ないと侮り殺到するわが軍。
敵4万に対し圧倒的な数の優位を頼みにして嵩にかかっている。
500mの大砲陣を、砲の向いていない側面から攻撃すれば簡単に緒戦の勝利は手に入ると見て、前面に至る前に迂回し側撃しようとする貴族家も多数。
ヘーレン街道の森林部を抜けた原野では、前面の部隊はエイクロイド大砲陣に向けて広く展開し、後方から押し出してくる貴族家部隊は前の部隊が空けた場所へ次々と駆け出し埋めていく。どの貴族家も手柄を上げたくてしかたないのだ。
アレイエム王国貴族家部隊が迫って来てもエイクロイドの大砲陣が慌てることはなかった。
皇帝ポルナレフ=ボンバドル自らが陣頭に立ち砲撃の指揮を執っていた大砲陣の1列目50門は、皇帝の号令の元、隣同士交互にキャニスター弾を殺到してくるアレイエム王国貴族家部隊に発射した。大砲の打ち出す無数の散弾を受け、バタバタと倒されるアレイエム王国貴族家部隊。2列目50門も1列目と上手く入れ替わりながら間断なくキャニスター弾を撃ち続ける。
フルプレートアーマーを着込んだ気合いの入った貴族でも、キャニスター弾のばら撒く散弾を複数発受ければただでは済まない。騎乗する馬もやられ、動きの鈍いフルプレートアーマーの騎士は悲願の斬り込みを果たせず倒れることとなった。
大砲陣の側撃を狙った貴族家部隊は、開けた原野にアンブッシュして配置されていた歩兵部隊の奇襲を受けた。
エイクロイドの歩兵部隊は全てマスケット銃を装備し、銃剣を装着していた。一斉銃撃後の銃剣突撃により、大砲部隊の側撃を狙ったアレイエムの貴族家部隊は平原中央部に押し戻される。
前、横に展開を手間取り、平原中央部に多くのアレイエム王国軍が固まったところを見計らい、エイクロイド大砲陣の3列目から10列目が、一斉に砲弾を打ち出し始めた。
エイクロイドの大砲が2分間隔で放つ、400発の砲弾が形作る死の
砲弾の着弾範囲から迂回しようとする貴族家の部隊は、予めエイクロイドが配置していた歩兵部隊と騎馬隊により蹴散らされ、死の
戦術としても計算されていた。
こうした状況を見て、死の
これまでの戦闘ならば切り込めたかも知れないが、なんせエイクロイドの砲兵たちはこれまで8年間の戦闘で熟練になっており、魔法を使って次弾発射までの時間を短縮している。これまでの感覚で半分走ったかどうかくらいで次弾が降り注ぐのだ。
やがて斬り込む貴族家部隊が壊滅した頃合いで、大砲陣の1列目と2列目も他の列と合わせて通常弾を打ち出し始めた。
少しづつ仰角を上げて、砲弾を送り込む射程距離を伸ばしていく。
死の
砲弾が騎士を、騎馬を、従者を、弓兵を、吹っ飛ばして血肉に変えていく。
直撃を免れた者も吹っ飛ばされた騎士に、騎馬に、従者に、弓兵に、跳ね飛ばされた土砂に、それらの破片に、巻き込まれ吹っ飛んでゆく。
まるで砲弾と言うミキサーで人体も馬も
この惨劇が長く続いたのは、戦場が高低差の殆んどない平地だったのも災いした。
周囲を見渡せば人・人・人。
前がどうなっているのか確認したくても最前面に出なければ人馬が壁となってさっぱり見渡せない。
騎乗している騎士は多少視点が高いため従者よりは様子が見えるが、なんせ30万の大軍。
後ろの血気に逸った他貴族家の部隊から押されれば前に出るしかない。
そんな単純な、本当に愚かな理由で砲撃の餌食になった者が膨大に出た。
後で最初から見ていた生き残りに聞いたが、最初の一斉砲撃から何が起こっているのかさっぱり把握できなかったらしい。
実質の砲撃時間は30分間程度だったようだが、最初の僅か10回の連続砲撃で我が軍の死傷者は3万を数えた。
そしてとうとう異変に気付き、友軍の大量の死骸を見てパニックを起こした我が軍は軍としての体を為さなくなり、最前線から崩壊、潰走が全体に波及しはじめたのだ。
桟を乱して潰走に移ったアレイエム王国軍を見て、エイクロイド軍は満を持して追撃を開始した。主力は1万の騎兵部隊だ。2万5千の歩兵部隊は、大砲陣の前面に整頓した部隊から徐々に倒れたアレイエム貴族家部隊を潰しながらゆっくりと前進を開始した。
潰走した我が国の貴族家部隊は、エイクロイド帝国軍にとって格好の標的で獲物に成り下がったのだ。
この烏合の衆30万で構成された我が第1軍の司令官をダニエル=ニールセン国王陛下から拝命した不運な男、それが当時13歳だったジョアン=ニールセン殿下だった。
ジョアン殿下が前線の異変を自らの手駒に確認させるために出した斥候が俺だったんだ。俺が惨劇を語れるのは、俺がこの目でジョアン殿下に報告するために現場をバッチリ見てしまったからなんだ。
この殆ど貴族家の部隊で構成された第1軍の実質的な指揮官は、ディラン公爵様の寝返りが明らかになった時から強硬にヘーレン攻撃を主張していたドールマンっていう大層な名前の公爵様だ。
司令官に任命されたジョアン殿下のことは当然のようにお飾りと考えていて、第1軍全体に関わる作戦立案も命令も、共同で行う気なんてサラサラなかった。ジョアン殿下が第一軍に関わるのはドールマン公爵の進言を承認するって時だけ。
最も第一軍を構成する貴族家の部隊に対して実際に王家としてできるのは要請のみだから、ある意味仕方がない。
まだ13歳っていう殿下の年齢も周囲に軽視された一因かも知れない。
この戦役を進言し、やる気マンマン乗り気だったドールマン公爵様は、当初向こうの流した情報を信じ、嵩をくくっていた。
遅々として進まぬ自軍の進軍に業を煮やし、大声で怒鳴り散らすばかり。
自軍から斥候すら出さないお気楽さで、接敵した前線が潰走したことも知らずにやたらと進軍のみを怒鳴り、退却しようとする貴族家部隊が前進しようとする貴族家部隊とあちこちで鉢合わせになり進退に窮する状況を生み出し、エイクロイドの騎兵部隊に格好の獲物を与え続けてしまった。
無能で尊大な指揮官が全体を混乱させ軍を死地に追いやったのだ。
前線から潰走してくる貴族家部隊にニールセン王家とドールマン公爵家の兵で構成される本隊が巻き込まれると、自家の兵すら
そんな状況でもひたすら怒鳴り散らしていたこの公爵様が、ついに黙る時がようやくやってきた。
それは一人の伝令が必死で混乱した戦場を掻き分け伝えた次の内容だった。
「ジャルラン殿下率いる第2軍、マッケルの地にて敵の軍勢10万と会敵、粘り強く戦いこれを破るも、敵増援がトリエル方面から集結中、その正確な数不明ながら破った敵と同数かそれ以上。決戦予定期日の合流能わず」
ジャルラン殿下の第2軍は大きく「静けき森」別名スニプル山地を迂回してトリエルとの国境近くを通り、予定戦場のへ―レン近郊に辿り着く作戦を取っていた。軍の構成は王家直轄軍3万5千の兵と、ハールディーズ公爵の軍2万を本隊にした総勢7万の軍勢だった。
ぶっちゃけ言えば第2軍の方が精鋭揃いだ。有象無象を寄せ集め、数だけ水膨れした第1軍よりも、王家直属で歴戦の将軍ゲオルグ=リーベルト伯爵率いる王家直轄軍の大半3万5千と、アレイエム王国で最強と目される個人武勇と鍛え上げられた兵を持つガリウス=ハールディーズ公爵を中心とした第2軍がヘーレン攻略の主軸とダニエル=ニールセン国王陛下は考えておられた。
怒鳴り散らすばかりで兵を牛馬のごとく考えていた尊大で無能なドールマン公爵様も、当てにしていた最強の援軍が進撃を阻まれ、もう戦場に現れることはないと知り、遅ればせながら逃げ出す決意をしたようだ。
「このような司令官を戴いたが不覚」と捨て台詞を残し自身もさっさと逃走した。
いやいや、こんないびつな軍構成にしたのは、あんたたち強硬主戦を主張していたお貴族様たちが欲の皮突っ張らかしたからだろ?
たとえ公爵家でも一貴族家が言うだけなら陛下も突っぱね、逆にドールマン公爵様を攻めたかも知れないが、お貴族様たちは30家以上が裏で手を回したのかまったく同じことを口にしたわけだろ?
ダニエル陛下としたらハラワタ煮えくり返っても飲まざるを得なかった。
俺は出席してなかったが、その時の軍事会議にジョアン殿下の付き添いとして出席したハンスの野郎はえらく憤慨して俺にもそう話してたからな。
ジョアン殿下は行軍を開始してからずっと、お飾り扱いされていたとは言え、全ての感覚が人よりも鋭く走りも速い獣人を複数斥候に出し状況把握に努めようとしていた。
第1軍全体に命令は出せないが、有意な情報があれば第1軍で共有し、優位に事を進められるかも知れないと思ってのことだろう。
俺は近衛だったが、最初の砲撃音で異変を感じた殿下に頼まれ直接戦場の詳細を確認しに走った。
街道は味方の軍でごった返していたから、原野の中、草を掻き分けてだ。フライス村の「暗き暗き森」の藪で散々藪漕ぎしていたから俺には全然苦じゃなかった。
エイクロイドの大砲陣地の様子を詳細に報告するため確認に行ったんだが、惨劇の現場に近づくにつれ、やられた味方の血や臓物の臭いが、獣人の鋭い嗅覚に鮮烈に感じられて……
……ああ、飯食ってる時に思い出すもんじゃねえな。
それは置いとこう。ローストビーフが不味くなる。
でも食うけどな。
ハンスの野郎を見ると、食うのを止めて控室から広間が見える隠し窓を眺めている。ハンスの野郎の様子を伺うに、まだ殿下はコトを起こしてはいないようだ。
俺はまた、あの敗戦の日の記憶に沈んでいく。
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