繰り返される日常 2

「おい、そこの黒髪!チンタラやってんじゃねぇよ!そんなに廃棄されたいのか?」

 隣の製造ラインから聞こえてきた怒鳴り声で、アルルの眠気は吹き飛んだ。自分の事じゃないと分かっていても、自然と背筋が伸びる。

「すみません!すみません!以後気をつけますので......」

「お前の代わりなんていくらでもいるってことを忘れるんじゃねぇぞ、わかったか!」

 管理者の男は、手に持った鉄の棒で地面を小突いており、明らかに苛々しているようだ。

 一方で怒鳴られた子は、一心不乱に「すみません!すみません!」と頭を下げている。謝るたびに彼女の綺麗な黒髪がゆさゆさと靡いている。

 あの黒髪ももう少し伸びたら、切られてしまうだろう。アルル達の髪なんて切って何になるんだろうと、いつも疑問に思わずにはいられない。


 まただ、とアルルは思った。

 蒸気の排出音、誰かを怒鳴りつける横暴な怒声、ベルトコンベアの駆動する音に、すみませんと謝り続ける声。それらは、この広い鉄の鳥籠でごちゃ混ぜになり、1つの大きなうねりとなってアルルを蝕んでいく。防壁は決壊し、大量の濁流が押し寄せては、アルルの心を侵食してくるのだ。

 ここには見たくないものや、聞きたくないことが多すぎる。いっそ心を閉ざして誰も届かない深い底で、目を瞑っていたい。

 ここにアルルの求めているものは一切ないのだから......。

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