デラシネの逃避行

@KOUTAKU1019

繰り返される日常 1

 右から来たものを左へ受け流す。

 同じ工程をただひたすらに繰り返す単純作業に、アルルは辟易していた。流れてくる部品にただネジを打ち込んでいくだけの作業は、一見すると楽に見えるかもしれない。しかし、ずっと立ちっぱなしであるため、疲労は一方的に蓄積されていくだけだ。

 既に限界を迎えた下半身は悲鳴をあげている。

 頭を使わないこの作業は、気を抜けば今すぐにでも眠ってしまいそうだった。

 アルルは疲れて自然と下がっていた視線を上げ、頭上を見上げた。時計の針はもう少しで午後7時を回ろうとしている。

 一体今日の終業時刻はいつなのだろう。この工場は決まった終業時間がなく、1日の製造ノルマを達成しない限り生産を止めない。

 昼休憩から既に6時間ほどが経過しようとしていた。

 アルルの働いている工場は、ほとんどが蒸気機関という機械で稼働している。そのため、プシューという大きな排出音が、所々から途切れることなく聞こえてくる。その度にアルルは気を引き締めた。

 背後には管理者と呼ばれる人が目を光らせており、アルル達労働者がしっかり作業しているのか監視しているのだ。

 眠ってしまったら何をされるかわからない。そう覚悟を決めて、また右から左へ部品を流していく。

 何度も繰り返したせいで体に染み付いてしまった作業は、すればするほどアルルの心を惨めにさせていった。

 どうしてこんなことをしているのだろう。

 ベルトコンベアによって次々と運ばれてくる部品を見ながら、アルルはふと考えた。

 これはアルルがしなければならないことなのか。

 この部品は何に使われているのか。

 アルルの生きている価値はあるのか。

 しかし、いくら思考の層を重ねても、12才の貧相な脳みそでわかることなど1つもなかった。

 油にまみれた手のひらを見て、アルルは途端に虚無感に襲われた。それはやってもやっても終わりの見えてこない業務に対してか、それとももっと別の大きな何かに対してか。

 しかし、アルルの苦悩など梅雨知らず、今日も工場は生産を続けている。それは、最近になって管理者達が躍起になり研究をしている、エネルギーを持続し続けるという永久機関のようにも感じた。

 そんな、手は動かしながらも意識はどこか遠く、混濁とした渦中の中にいたアルルを現実に呼び戻したのは、誰かを怒鳴りつけるような大きな罵声だった。

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