第239話 セレスティア家の役割
「ああ、それとおそらく皆さんにとって理解し難いであろう特筆すべきしきたりとしては…セレスティア家の女は結婚出来ないんですよ」
これにはカイラス中佐やアトゥレイ少佐に加え、イーグレットも一瞬驚いたような顔をした。やっぱりそういう反応になりますよねぇ。
「え、じゃあどうやって子孫を…提督にも既にご子息、ご息女がいらっしゃいましたよね?」
「はい、なのでセレスティア家の女はみんなシングルマザーですね。父親となる男性にも相応の責任を負ってはいただきますが、能力者ではないのでセレスティア家に婿として迎え入れるわけではありません。セレスティア家は政治と無関係でいられないその宿命が故に、優秀な子孫に未来を託す務めがあった。それが故に時には様々な男性と子を成し、その中で特に優秀な子に継がせる…ということを行ってきた一族なのです。もっとも今では相手を当人以外が勝手に選んで連れてくるなんてことはありませんが…三、四世紀前には珍しくも無かったようですね」
「それじゃ、もし生まれてきた子が能力者ではなかったら?」
「その子の父親の家に引き取ってもらう形になります。生まれてきた子に罪はありませんが、セレスティア家に必要なのは異能によって人々を導くことの出来る人間ですから…。私にも顔も知らない兄弟姉妹がいますが、それがセレスティア家であり、ルシフェランザ連邦の政治体制を支えてきたシステムなのです」
能力者の素質を持つ子かどうかは生まれて数年のうちに判別出来る。そして自分の幼少期の生活を思い返せば、なるほど能力を持たない子供にとっては不幸な部分も多いかも知れない。私もそうしたしきたりの中で生きてきた身だから「そういうもの」として受け入れてきたけど、統治者として国民の暮らしを見守ってきた今となっては、生まれながらに異能の有無で母親と共に暮らせるか否かを強制的に判断されるのは…非難されても仕方のないしきたりにも思える。
「ルシフェランザ連邦と共に歩んできたセレスティア家が長い歴史の中で、優秀な能力者を政界にほぼ絶やさず輩出してきた裏側には…そんな仕組みがあったんですね」
「さっきフィリル大佐に変化を説いた私も、既存の概念に囚われた人間の一人ですね。ディーシェとの間に授かった二人のうち息子はメルグ家に、娘はセレスティア家に…そして今や彼も妻を娶って家庭を築こうとしている」
常に私の傍らに立ち仕えてきてくれた彼もまた「いい加減自分の家庭を持て」と私から厳命し、彼を支え続けたレイシャスと結ばれていた。そのため現在ツクヨミの指揮はミレットに担ってもらっている。ディーシェが代理を務めると言い出したが、しばらくは育児を手伝っておけとレイシャス共々一旦地上に降ろした。
それ故に今回シルヴィさんがマホロバに参加してくれるのはこちらとしても渡りに船だったのだ。最悪戦闘になった場合でもヤタシステムでリンクさせれば各艦の火器管制はアマテラスからでも可能だ。しばらく艦隊の防御は艦載航空機隊とシルヴィさん、ミレット、そしてメファリア少将で担ってもらうことになるだろう。
「そのしきたりとは別に、セレスティア家は身内の外で突然変異的に異能を開花させる人々の保護にも動いていました。他人には認知出来ない事象を認知出来てしまう能力者は…悲しいことに、得てして一般社会には溶け込めないことが多いものですから。テルニーアもそうでしたね、肉親からは疎まれていたと聞いています」
もっとも彼女の場合はウェルティコーヴェンで第二の家族を得て幸せに暮らしていたのだから、仮に私たちが彼女の保護に動いていたら…今の強い心を持った彼女には出会えなかったかも知れない。そう言えば彼女にルシフェランザを預けて随分時間が経ってしまっている。そろそろウェルティコーヴェンに帰してあげたい気もするのだけど…。娘のチェルシーがもう少し成長するまでは頑張ってもらうとしよう。
「そんな女の子が今や立派にルシフェランザ連邦評議会の議長ですものね。私たちにとってはウェルティコーヴェン外縁地域でウェイトレスしてた印象の方が強いですが」
「あの子はまさに戦争という現実の中で磨かれた宝石のような存在です、私は既に完成されていた宝石に見合う装飾を施してあげただけ。私はあの子にこそこれからの時代を創っていって欲しい、マホロバはそのための剣と盾になれればいいと思っています」
人の願いは、その願いが崇高なものであればあるほど叶えるためには思いだけでなく相応の力が必要になる。私の言葉に「今の発言はマホロバの理念に反するが…まぁいいか」とイーグレットが溜息を吐く。ああ、確かに特定の国家を擁護しているようなニュアンスになってしまった。反省、反省…。
「さてさて、さっきは途中で中断してしまいましたし、会談の続きをするとしましょうか。よければイーグレットも同席してください」
フォーリアンロザリオの動向は彼も気になるところだろう。でも執務室に着くまでの間は…他愛のない話題に花を咲かせたい。
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