第11話 ケルツァーク基地

 基地を飛び立った輸送機は二個小隊の護衛機を連れて一度南の海上に出た。ウェルティコーヴェンの領空ギリギリを飛行することでなるべく敵機との遭遇率を下げるためである。

 レヴィアータ攻撃の際にも活躍した電子戦装備を搭載したヴァーチャーⅡの随伴もあったおかげで敵機との遭遇もなく無事ケルツァーク基地に降り立ったオレたちは、ひとまずこの基地の司令官へ挨拶しに向かう。


「フィリル・F・マグナード中尉、ティユルィックス・パロナール少尉両名、ケルツァーク基地で新規編成される部隊への転属命令を受け、ただいま着任致しました」


 司令室に入るなりそう言って敬礼をすると、それまで手元の資料に目を通していた司令官が「君たちが例の…よく来てくれた」と柔和な微笑みを浮かべた。


「私はここケルツァークの基地司令、エルネスト・ノヴァ大佐だ。とは言っても、君たちに乗ってもらう機体はまだ部品すら届いていなくてね。本国の工場を急かせてはいるのだが…まったく困ったものだ。しかし他の隊員に先駆け、君たち二人が到着してくれたことは嬉しい限りだ」


 ノヴァ司令は机の引き出しから何かの資料らしき数枚の紙の束を取り出し、オレに手渡してくる。


「これは?」


「君たちが指揮する新設部隊に配属予定の隊員リストと乗ってもらうことになる新型機、XFR‐136・ミカエルの資料だ。自分たちの乗る機体、それもヴァーチャーシリーズとはまったく違う正真正銘の新型だ。事前にある程度の情報は持っておきたいだろう?」


 確かにこれは有難い。今の今まで全然情報が無かったので少し不安だったのもある。さっそく資料に目を通しながらふと気になった点について尋ねてみる。


「…『R』? 新型機は偵察機なのですか?」


 フォーリアンロザリオ軍では様々な航空機を機体の型式番号の前に付くアルファベットから、その種別を読み取れるようにしている。爆撃機ならBomberの「B」、戦闘機ならFighterの「F」、攻撃機ならAttackerの「A」、偵察機ならReconnaissanceの「R」…といった具合にである。これに試作機は「X」が付けられる。


「戦闘偵察機、と呼んだ方が適切だな。主な任務は威力偵察となる。何から何まで最新技術の粋を集めて開発された、ゴージャスな戦闘機のようだ。このミカエルの真髄は搭載している超高性能コンピュータにある。高感度カメラや様々なセンサーを駆使して遭遇した敵機の機体形状はもちろん、FCSの性能、エンジンの推定最大出力、推定最大速度、推定最高上昇可能高度、更には搭載武装の射程やホーミング性能までもが分析可能となっているのだ。そこに君たちの技量が合わされば、ミカエルはまさに最新鋭機の名に相応しいフォーリアンロザリオ最強の戦闘機となるだろう」


 最新技術の粋を集めて…ね。資料を見る限り、それは決して言い過ぎではないらしい。その性能は戦闘機としてもヴァーチャーⅡよりハイスペックだ。エンジン出力が上がった分膨れ上がりそうな旋回半径は三次元推力偏向ノズルでカバーし、可変後退翼によってあらゆる速度域で最適な揚力を生み出す。

 司令の言う通り、ゴージャスな戦闘機である。


「各戦線における戦力低下の危険性を知りながら君たちのようなエースパイロットを一ヶ所に集めるのも、ミカエルに与えられた性能も…すべては搭載したセンサーが記録した膨大なデータを無事に持ち帰るためだ。よってこの機体が配備される君たちの部隊には撃墜すら…いや、余剰パーツの少なさから言って被弾さえも許されない。発足後に課せられる任務は困難を極めるが、それ相応の武器は用意されている。君たちの働きに期待する」


「はっ! 心得ました」


「新設部隊の名称はまだ決まっていない。部隊章のデザインも含め、隊長とその副官である君たちで自由に決めてくれたまえ。色々揃うまでのいい暇つぶしになるだろう」

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