第9話 出発は二日後
「それがご命令とあらば、自分は王国のために死力を尽くすのみであります」
「じ、自分も中尉と同じであります!」
ティクスめ、何か言うなら自分の言葉で言いやがれ。だけどまぁなんにせよこちらの返事に肉だるまは満足したらしい。
「ならば二日後、ケルツァーク基地に物資を運ぶ輸送機がこの基地より発つ。すぐに荷物をまとめろ」
「はっ!」
そこで今までずっと黙っててなんでここにいたんだろうかというケルベロス中隊の隊長が動きを見せる。後は敬礼して部屋を出れると思ったんだが…。
「以後、貴様らの所属基地はケルツァークとなる。それが意味するものは、新設部隊の主任務が如何なるものであれ、貴様らの従事する任務が最前線でしか出来ない苛酷なものであるということだ。詳細は明かされていないが、ヴァーチャーⅡとは違う新型機が配備されるらしい。だが現地と確認をとったところ、まだその機体は届いていないとのことだ」
おいおい、機体も無いのに現地に行けとはどういうこっちゃ?
「新設部隊を構成する他のメンバーもそれぞれ第一線のエースクラスが引き抜かれるそうだが、それ故に合流が貴様らよりも数日遅れるだろう。それほどに今回の異動は急に決まったことだということだ。逆に言えば、それだけ急を要する事態にあるということでもある。貴様らに最前線で編成される新設部隊を預け、最新鋭機を預け、各戦線のエースを預ける…これはこの国が貴様らの働きに期待をしている証だ。その期待に応えてみせろ!」
長々と…どういう話に落ち着くのかと思えば激励か。まぁなかなか、悪くない。
「了解しました。フィリル・F・マグナード中尉、ティユルィックス・パロナール少尉両名、ケルツァーク基地所属新設部隊への異動の任を負います。長い間、お世話になりました」
そこで敬礼しつつ軍靴のかかとをガッと打ち鳴らす。ワンテンポ遅れて隣のティクスも敬礼。司令官と隊長も敬礼を返し、その手が下りたのを見てこちらも手を下ろして部屋を出る。
「最前線の新しい基地に新設部隊、しかも最新鋭機かぁ…。なんかホント期待されてる~って感じだね」
荷物をまとめに兵舎へ戻る途中、ご機嫌なティクスが話しかけてくる。
「しっかしオレが隊長とはねぇ…。上層部は人選を間違えたと思うぜ。部下が哀れだわ」
正直断れるものなら断りたい話だ。自分自身、人の上に立つような人間ではないと思う。戦闘だけなら自信もあるが、隊長ってのはそれだけじゃないんだろ? 気が重い…。
「そうかな? 私はそうは思わないけど…」
「お前は問題ない。お前の扱いに関しては十年以上前から学習済みだ」
「な、なんだよそれぇ!」
昔から変わらない、こっちの想像通りのリアクションを返してくれる幼馴染に「そのままの意味だよ」とだけ溜息混じりに返してやる。するとティクスはオレの前に回り込んでこっちを恨めしそうに睨みつけながら「う~」とか唸り始める。この子供っぽさ、ホントにこいつは昔から変わらない。
「ほらほら、遊んでる暇は…あるのかも知れないが、ちゃっちゃと荷物まとめてみんなにも一応話しとこうぜ」
幼馴染の桜色の髪の上にポンッと手を乗せてそう言い、脇をすり抜け兵舎への道を歩く。
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