第4話 エンゲージ

 前方の空に爆発を視認。レーダーを広域モードに切り替えると友軍機を示す青のマーカーと、敵機を示す赤のマーカーが入り乱れている。ついでに自機のすぐ後ろにケルベロス7、更にその後方に他の僚機を確認。


「乱戦だな。ケルベロス6よりケルベロス7、フレンドリーファイア(味方撃ち)なんかすんなよ? マスターアーム・オン。ケルベロス6、エンゲージ!」


「するわけないでしょ!? ケルベロス7、エンゲージ!」


 交戦を宣言して、FCS火器管制装置に全武装の安全装置解除を指示する。中央のディスプレイに機体コンディションと一緒に使用可能兵装が表示される。左右の主翼下パイロンに四発の短射程空対空ミサイル「ヨハネ」と胴体下部のハードポイントに更に四発の中射程空対空ミサイル「ルカ」の計八発のミサイル、それに加え装弾数800発のバルカン砲がすべて緑色で表示されている。

 そこからヨハネの発射体制を整えるよう指示すると自動でレーダーが近接戦闘モードに切り替わる。


「敵機視認、シーカーオープン」


 HUDヘッド・アップ・ディスプレイにミサイルシーカーと呼ばれるひし形が現れ、前方に捕らえた敵機を追いかけ始める。敵もこちらに気付いて回避機動を取り始めるが、こっちだってエースの肩書きは伊達じゃない。いくら右へ左へと逃げまわろうがそう簡単に逃がしはしない。

 程無くしてミサイルシーカーが敵機を囲うボックスに重なり、コクピットの中には電子音が鳴り響く。ターゲット・ロックオン。これで発射ボタンを押し込めば翼の下からミサイルが目標へ飛んでいくわけだが、相手もこちらにミサイルを撃たせまいと機体を左右へ大きく滑らせて発射するタイミングを掴ませない。


「だが、その程度の機動で…!」


 FCSにドッグファイトモードを指示すると、今度はHUD上にガンサイト・レティクルと呼ばれるサークルが表示される。この状態にしてミサイル発射ボタンとは別に設けられたトリガーを引くと、右主翼の付け根に設置されたバルカン砲から弾丸がこの円の中心目掛けて飛んでいく。弾丸はミサイルのようにホーミングはしてくれないが、故にパイロットの腕の見せ所…というわけである。


「ケルベロス6、フォックス3!」


 敵機の機動を先読みし、そこに弾丸の暴風を送る。思い描いた通りに敵機は自らその通り道に飛び込み、二秒後には機体からは炎が噴き出した。敵機のキャノピーが外れて射出座席が機外へ飛んでいくのを横目に、ふと視界に入った敵機を次の獲物に定める。


 先発部隊の友軍機を追いかけ回しているところを背後に回り込んでロックオン。だが短射程空対空ミサイル「ヨハネ」は赤外線誘導方式のホーミングミサイルである。この状態で発射すれば友軍機の放熱を敵機と誤認する危険があった。


「ケルベロス6よりデリック3、後ろのハエを叩き落す。カウント3でブレイクしろ!」


「りょ、了解。助かる!」


「礼なら生き残った後だ。3、2、ブレイク・ナウ!」


 追いかけ回されていた友軍機が急減速と急旋回で失速しかけながらも敵機の追撃を一瞬振り払う。


「ケルベロス6、フォックス2!」


 ミサイル発射ボタンを押し込むと同時に翼の下から短射程ミサイルが勢いよく飛び出し、回避機動を取ろうとした敵機に突き刺さると同時に獲物諸共爆散する。


「Good Kill!!  Good Kill!!」


 後ろでオレを狙おうとする敵機に睨みを利かせてくれてる相棒が撃墜を確認したことを伝えてくる。それから間もなく他のケルベロス中隊所属機も到着して、第一波攻撃隊とバトンタッチする。「本命」の到着までそれほど時間も無いが、スコアを稼ぐには充分だ。

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