第2話  コイツを利用する






「ま、まさか……僕が鏡から引き抜いてしまったのか!?」



鏡から出てきた、もうひとりの(僕?)は少し怯えている。



「おい、まさか鏡に映っていた僕なのか?」



鏡を見ると僕の姿は映っていない。



『ひ、ひぃぃいいいいいい!!!』



突然、もうひとりの僕が鏡に向かって動き出す。だが、いきなり現世に出てきたので

思うように足が動いていない。



「「グギッッッ」」



もうひとりの僕は鏡の目の前で足首をひねった。



「「ゴッチ―――ン!!」」



もうひとりの僕はよろけたついでに鏡に頭を強打した。



「パラパラ……」



鏡が割れて、破片が洗面台に落ちた。



「だ、大丈夫ですか……?」


『う、痛たたた……  !?』



もうひとりの僕の顔が一気に青ざめる。



 『や、やばい……緊急事態だ。」



もうひとりの僕が小さな声でそうつぶやいた。





        ◆




「わかった。要するに君は鏡の中に住んでいて、僕を鏡のなかに引きずり込もうとした。鏡の中に帰ろうとしたら、頭をぶつけて鏡を割ってしまって鏡の世界にかえれなくなった。そういうことだね?」


『はい、そのとおりです……鏡のなかから現世に出た場合、同じ鏡からじゃないと元の世界に戻れないんです……』


「なるほど、鏡の世界にもどるには同じ種類の鏡じゃないといけないんだね?」


『はい、あの鏡はヒビが入っているので戻ることができません……』


「よし!わかった、交渉だ。”僕は同じ種類の鏡をさがす”  ”君は 僕のかわりに職場ではたらいてくれ” どうだ?」



もうひとりの僕は少し考えて小さくつぶやいた。



『はい、わかりました。元の世界に戻れるならなんでもします』



どうやら僕に従順な召使いができたようだ。



「そういえば、なんで鏡の中に人を引きずりこむんだ?」


「それをいうことできません。言わない決まりなので……」



鏡の中にも色々事情が有るようだ。純粋にとても気になる……知りたい。




『鏡の中に戻らないと……会社のみんなに迷惑をかけてしまう』


「えっ、働いているんですか!?鏡の中の僕って!」


『は、はい。当たり前ですよね……馬鹿にしてます?』


「いや、馬鹿にはしてないよ!まず鏡の中のことなんて全く知らないんだから」


『鏡の中でもそりゃあ、仕事くらいあるでしょ〜 なにいってんですか?』



もうひとりの僕に少し小馬鹿にされる。



「仕事の経験があるなら話が早い!明日から僕の身代わりだぁぁぁあああ」



仕事に行くのが嫌になっていた僕に一筋の光が指した。



「僕は明日から君が元の世界に戻れるように同じ種類の鏡を探す。君は僕の代わりに仕事にいくんだ」



もうひとりの僕が小さく頷く。








――――――――――――――――――――――――――――


お風呂に入る前にふと鏡を見た。


「うわ、自分が写ってない……」


まだ慣れることはできていない……







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