第9話 学園長との面談(前編)
春の心地よい陽気が学園を満たし、小鳥のさえずりが響く。中庭では生徒たちが笑顔で談笑し、楽しそうな学園生活の様子が伺える。気持ちが良い日の放課後、外の明るい雰囲気とは対照的に苦虫をかみつぶしたような顔をした冬夜が、重厚な扉の前に立っていた。
(こういう時に限って、仕組まれたかのように全員別行動になるんだよな……)
リーゼと言乃花は生徒会の会議、メイはソフィーの雑務の手伝いのために職員室へ行っている。
(今日が指定されたのは、ただの偶然だと思いたいけどな……)
先日の食堂での一件が原因である。去り際に学園長が残した言葉、冬夜と
(考えてもしょうがないな。学園長との話し合いではっきりするはずだ)
答えのでない疑念を振り払うかのように両手で頬を軽くたたき、重厚な学園長室の扉を開く。
「失礼します。学園長、お時間を取らせてすいません」
「よく来たね、冬夜くん。さあ、ソファーに座ってゆっくり話そうか」
いつも通りの笑顔で冬夜を迎え入れる学園長。部屋の中央に設置されたソファーに座り、学園長の様子をうかがう。
(この笑顔の裏に絶対なんかあるんだよな……)
二人がソファーに座ると一瞬の沈黙が流れる。口火を切ったのは学園長だ。目をスッと細め、静かに話を切り出すと緊張感が高まる。
「さて、来てもらったのは例の件についてだ。迷宮図書館で何があったのか教えてくれるかな?」
話を切り出す学園長。明らかに違う雰囲気に誤魔化しはきかないと観念し、話し始める冬夜。
「お見通しですか……すべてを話すしかなさそうですね。俺たちは、箱庭に関することを調査するために迷宮図書館に行きました。そして、言乃花の案内で目的の本棚の前まで行き、資料を探し始めました」
「ほう、なるほどね」
「何冊か選び、読んでいたのですが、どの資料もきれいさっぱり箱庭に関する記述や部分が無くなっていました。そのとき一冊の本が無くなっていることに……」
「その本は先日ノルン君が読んでいた物と一致していたようだと?」
学園長の一言にあ然とする冬夜。自分たちも遭遇した場所に行って確認するまで気が付かなかったこと、ましてこの話を仲間以外にするのは今日が初めてだというのに。
(どうして、そんなことまでわかっているんだ?)
理解が追いついてこない。ノルンの襲撃後、学園長の指示で調査が行われていたのは事実だ。だが問題なのはそこではない。調査自体に学園長は参加していない。後日、リーゼから見せてもらった調査レポートにもそのような記載は一切なかったのである。
「おや? そんな不思議そうな顔をしてどうしたんだい。何か驚くようなことがあったか教えてくれないかな?」
先ほどと表情は一切変化がない学園長。口元が微かにつり上がり、明らかにこちらの反応を楽しんでいる様子がわかる。
(一体どこまで知っているんだ……学園長は……)
全てを見透かされている、いや、全てこの人の計画のもとで動かされているのではないかと錯覚してしまう。動揺している心の内を悟られぬよう、冷静に返す。
「その通りです。ノルンと遭遇した時に彼女が読んでいた本が、あの場所から無くなっていると思われるのです」
「やはりね。あの本を持ち去っていたか……そして、他にも被害がないか探そうとした時に異変が起こったと。間違いないね?」
「はい、その通りです。突然頭の中に声が響いて、メイの様子がおかしくなりました。その後、少し会話をしたのち解放されたというのが、あの日あったことです。その間一切姿は確認できませんでした」
「なるほどね。このタイミングで彼のほうから君に接触してきたのか。思ったより遅かったけど……」
最後の言葉ははっきりと聞き取れなかったが、明らかにこの出来事は誰かに最初から仕組まれていたのではないかと錯覚してしまう。そして、学園長から衝撃的な一言が告げられる。
「冬夜くん、九年前に闇の力を発現するきっかけとなった人物は創造主だね。その時、君は瀕死の重傷、いや一度命を落としかけている」
「な、なぜそれを?」
衝撃の一言で、頭の中が真っ白になる冬夜。
(なんで、
ニコニコと笑顔を崩さない学園長。
うっすらと開かれた瞳からは「全てお見通しだ」と物語るように視線が冬夜に突き刺さる。この後さらなる衝撃が襲うことも知らずに……
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