第6話 消えた本と忌まわしき相手
妖精たちが動き始めた頃、迷宮図書館では冬夜たちがノルンと対峙した場所に到着した。
「この場所だ……間違いない」
改めて周囲を見渡すと嫌でも認識させられる、異質な場所であることを。天井まで伸びる全ての棚に埋め尽くされた本、奥に広がるのは先の見えない暗闇。
「気になっている件の資料は、ここの本棚にあるはずよ。どれから読んでみる?」
「そうだな……言乃花が読んでいた本はどれなんだ?」
「その本ならこれよ」
無数に並ぶ本の中から迷うことなく手に取ったのは文庫本より少し大きいサイズである。言乃花から渡された冬夜はパラパラとめくってみる。たしかに、『箱庭』を題材にしている。しかし、かなり物語色が強く、資料としては参考程度にしかなりそうにない。
「面白いけど、求めているものとはちょっと違うんじゃないか?」
「予備知識のない冬夜くんにはちょうどいいんじゃない?」
本棚を眺めていたリーゼが口を開く。
「なんの知識のない冬夜くんが過去の記録や本を読むより、物語風に軟化した本から雰囲気をつかむほうがいいと思うわ。箱庭については諸説ありすぎるし、訳がわからなくなるわよ」
「言乃花の言う通りよ。自分の目で確かめてみるとよくわかるわ」
二人から促され読み始めようとした時、メイが興味深くのぞき込む。
「一緒に読んでいこうか?」
「うん、私も何か思い出せるきっかけになるかもしれないから」
二人で渡された本を読み進める。内容は物語風であり、一種の創作物としてすごく読みやすい。ただ、気になるフレーズがいくつもあり、その中でも世界の狭間に作られた理想郷というフレーズがすごくひっかかる。
「世界の狭間の理想郷って……」
「かなり創作が入った物語だからね。言い伝えや伝説を題材にしているから、正しいとも正しくないともいえないわ」
別の本を読んでいたリーゼが答える。
「こっちの本は昔の伝説をもとにした本なんだけど……」
書かれていたのは、『この世界には二つの世界が存在していた。はるか昔、二つをつなぐために創造主により作られた理想郷が存在する。その二つの世界の均衡を保つため両世界にある特別な……』と書かれており、肝心な部分は何者かに破り取られてしまったかのように、ページが欠損している。
「肝心なところがないのか……何が書いてあったのだろう?」
「そうなのよ。どの文献でもきれいに触れられていないの、気持ち悪いくらいに……」
そんな話をしていると、奥から本を抱えて戻ってきた言乃花が意味深な言葉を口にする。
「触れてくれるなと言わんばかりにきれいに避けられているの。その部分だけは……それに、ノルンが読んでいた本が本棚から無くなっているわ」
以前の記憶が甦る。ノルンは何かの本を手に取り、興味深そうに読んでいた。本棚に本を戻したと見せかけ、持ち去った可能性が高い。
「消えた本が、私たちが最も必要としている本である可能性が高いのよ」
「いったい本には何が書かれて……」
冬夜が言葉を言いかけた時、この場にいる全員の脳内に声が響く。
「ふふふ……そこに考えが至るとは面白い存在だな、人間というものは」
聞き覚えのない声にリーゼと言乃花が困惑の表情を浮かべる。しかし、冬夜とメイの二人の反応は違っていた。
「この声……どこにいやがる? さっさと姿を現せ!」
「おやおや、そこまで声を荒げるとはどうしたものか? 久しぶりの再会を喜ばしく思わんのか、天ケ瀬 冬夜くん」
何かに怯えて身震いが止まらないメイ。ソフィーが小さな体でぎゅっと抱きしめ、必死に正気を保たせようとする。そんな対照的な二人の反応に何がなんだかわからないリーゼと言乃花。
「ちょっと、二人とも落ち着いて。いったい誰なの?」
「私は
怒り狂う冬夜と尋常でない怯え方をするメイ。
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