第5話 動き出す不穏な影
冬夜たちが再び迷宮図書館へ向かい始めた頃、別次元にある宮殿内。玉座に座る人物へ沈痛な面持ちで報告をするノルンの姿があった。
「……以上が迷宮図書館で起きた事案です。今後の対処はいかがいたしましょうか?
見上げる先の玉座の人物こそ、三大妖精を束ねる長『
「よい。現段階では最上の出来である。引き続き監視の目を緩めるな、動きがあれば対処はお前たちに任せる」
「はい。ご期待に添えるよう動きます。失礼します」
頭を下げると足早に立ち去るノルン。
「こちらの計画を進めるには頑張ってもらわないとな……せいぜいあがいてみろ、学園長」
誰もいない空間に響き渡る憎しみをはらんだ声。
創造主の思惑と共に計画は進み始める。
創造主への報告を終え、険しい表情のまま回廊を歩くノルン。ひ
(今回の件は、お咎めなしということですか。不可解な点がいくつもありますね。あまりに簡単に事が上手く行きすぎです……まさか行動を見透かされていた? 私としたことが……全て仕組まれていたと考えるのが自然でしょうね、悔しいですが)
不自然な点がいくつかあり、考えを巡らせながら歩いていく。次の瞬間、微かな殺気を感じ、咄嗟に左側に体をよけると一筋の光が空を切る。
「チェッ。気づかれたら面白くないのに……」
「ハァ……この程度のお遊びに気が付けないと思いますか? 音も空間に漂う力もバレバレで罠の意味ありませんよ? フェイ」
柱の陰から珍しくフードをとった少し膨れっ面をしたフェイが現れた。
「たまには引っかかってくれてもいいのにね。こないだの件、創造主様から嫌味の一つでも言われたのでしょ?」
「何を言っているのかよくわかりませんね。あなたみたいなミスを犯すほど愚かではないですよ」
悔しそうなフェイを横目に涼しい顔で通り過ぎるノルン。何か驚かせなければ気が済まないフェイが、次の仕掛けを発動しようとしたその瞬間、首筋に冷たい刃が突きつけられる。
「動くと綺麗なお顔と胴体が、
暗闇の中から音もたてず、後ろから首元に刃を突き付ける人物。天窓から一筋の光が差し込みその姿が明らかになる。
「相変わらず物騒なものを持ち歩いていらっしゃいますよね、アビーさん?」
「あら? あなたのやろうとしたことに比べたらどうなのでしょうか?」
フェイの喉元に刃を突き付けた人物。ノルンと瓜二つの顔をしたアビーである。違いは、ノルンと左右対称に瞳が隠れていること、ノルンより若干髪が長いこと。そして、『ポイズニングダガー・スコルピオ』を携帯していることである。
「アビー、そのくらいにしてあげてください。非常に面白い物を見てきましたので、あなたにもゆっくり話して差し上げたいのですよ」
「はい、ノルンお姉様」
ノルンの一声で解放され、安堵の表情となるフェイ。そして、アビーはノルンの後を追いかけるように小走りで回廊の奥へ消えていった。
「ノルンの言うことしか聞かないのは、どうにかしてもらいたいものだけど……」
ふぅっと大きなため息をつく。先ほど自身に突き付けられた殺気は本物であった。
(あの二人はお互いのこととなると、容赦ない狂気の塊だからね)
アビー自身は妖精ではない。ノルンが過去に幻想世界から連れてきた少女である。この場所に人間が立ち入ること自体あり得ないのであるが、ノルンとアビーが結んだある事柄から、二人は行動を共にすることが多い。
「もう少し愛想よくてもいいと思うけど……さて、創造主様の計画は順調に進み始めているようだし、僕もそろそろ動く出番が来そうかな? ファーストは当面帰ってこないとのことだし……」
長い回廊を歩み始めるフェイ。その顔には不敵な笑みを浮かべている。
未だ見えてこない創造主の計画と動きだす妖精たち。
何も知らない冬夜たちの元へ不穏な影は確実に近づいていた……
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