第4話 迷宮と呼ばれる由縁

(何回来てみても慣れないな……)


 迷宮図書館ラビリンスライブラリに入り、周囲を見渡してみる。貸出カウンターや机があり、ここまでは見慣れた光景だ。しかし、反対側に目を移すとここが普通の図書館でないという事実を突き付けてくる。天井付近までそびえたつ本棚、迷路のように入り組んだ先に広がる先の見えない闇。


「何回来ても好きになれないわね……思い出すだけで寒気がするわ」

「そう? 慣れてくると居心地が良いわよ」


 真逆の反応を示す二人。リーゼが嫌悪感を隠そうとしないのは理由がある。以前調べ物のため、迷宮図書館を訪れたリーゼ。本来なら言乃花が一緒に案内をする予定だったが、急遽入った別件の予定のため席を外すこととなった。


「帰ってくるまで絶対に一人で探しにいかないこと! わかったわね?」

「はいはい、大丈夫よ。早く用事終わらせてきてね」


 リーゼに釘を刺し、迷宮図書館を後にする言乃花。出入口の扉が閉まる音がするとリーゼの顔が怪しい笑顔になる。


(ふふふ、行ったわね? 言乃花はダメだって言っていたけど……すぐ近くの本棚にあるはずだし、ほんの少しなら大丈夫よね?)


 軽い気持ちで『絶対に一人で探さないこと』という言乃花の忠告を無視して歩き回ったのだ。案の定、迷子になり半べそをかいていたリーゼを発見したのは、夕方の戸締りに来た言乃花。


「入ってすぐだったから良かったけど、……」

「ちょっとストーップ! それ以上は何もなかったわよね?」


 慌てて言乃花の口を抑え込むリーゼ。あからさまな慌てようからよほど知られたくないことがあったと推測できる。


「ぷはぁ。そんなに恥ずかしがるようなことでもないと思うけど?」

「私は忘れたいことなのよ! もうおしまい!」


 二人のやり取りがひと段落したところで、冬夜が口を開く。


「気になっていたことなんだが、ここの案内図みたいなものはないのか?」

「あるにはあるけど。まったく当てにならないけどそれでも良いの?」


 さっとカウンターの奥からある一枚の紙を取り出し、机にひろげる。全員でその見取り図を見て驚愕する。その図と実際の広がる空間を見比べ、全く当てにならないといった言葉の意味がよく理解できる。


「言っている意味が分かった……


 全員が一致した意見だった。

 現在の場所から見えている景色と図に記されている箇所は一見すると整合性があるように見える。

 その先は闇に包まれており、実際にどうなっているか確認すら困難である。


「これが迷宮図書館と言われる由縁。どういった仕組みなのかはさっぱりわからないけど……何かしらの要因で空間が歪んでしまったからと推測しているわ。目印なしで足を踏み入れたらたどり着けるか定かじゃないの」


 サラッと恐ろしいことを話す言乃花。


「空間の歪みが原因とおっしゃってましたが、私たちがいたことが何か関係しているのでしょうか?」


 今までじっと話を聞いていたメイが遠慮気味に言乃花に質問する。


「否定はできないわ。私自身も管理を任されてはいるけど、把握できているのは多くても半分くらい。あの時はノルンの力も関係しているような気がするし、一概には関係ないとは言えないと思うわ」

「この場所で話していても埒が明かない。言乃花、俺たちが遭遇した場所まで行って調べてみようぜ」


 無言でうなずく言乃花。

 右手をすっと上げ、風の魔力をまとわせていく。そして一筋の線が暗闇に向かって伸びていく。


「目的の場所までのルートはこれで大丈夫よ。皆ついてきて」


 先頭は言乃花、その後ろにリーゼとメイ(ソフィー)、最後尾に冬夜の順で迷宮図書館の内部へ歩みを進めていく。


(ほんとまっすぐ歩いているはずなのに、振り返るとさっきいた場所が全く見えないんだよな……一体どんな構造しているんだ?)


 ふと、後ろを振り返ると全く見覚えのない空間へ変わっている。感覚としてはほんの数メートルも歩いていないと感じているが、ここではその感覚すら当てにならない。


「ちゃんとついてこないと迷子になるわよ」

「わるい、わるい。ちょっと振り返っただけだ」


 リーゼから小言が飛んできた。

 気が付くと数メートル先まで皆が進んでおり、小走りで合流する。

 メイのいた空間と『箱庭』に関する資料に何か手掛かりとなるものはあるのだろうか。


 時を同じくして、因縁の相手も動き始めようとしていた。

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