第21話 幽閉少女と動き出す運命の歯車
煙のように薄まっていく意識を必死に繋ぎとめた言乃花は、暴走し魔力に呑まれかけている冬夜のもとへに最後の力を振り絞りながら駆け出した。
(お願い……間に合って!)
「戯れ言は地獄で言いな! 全ての闇を喰らえ、
荒れ狂う闇の魔力が襲いかかり、あまりのプレッシャーにその場から一歩も動くことができないノルン。
(まさか、ここまでとは……申し訳ございません、
走馬灯のように映る記憶と初めて味わう絶望、そしてノルンの瞳から一筋の涙が頬を流れた。
「あなたとの約束を守れなくてごめんなさい……」
迫りくる魔力の濁流にノルンは目を閉じ、覚悟を決めた時だった。結界を揺るがすほどの衝撃と目を閉じていてもわかるほどの閃光が襲い、そのまま数メートルほど吹き飛ばされてしまう。
「ま、間に合った……」
轟音が収まり、倒れたノルンに聞こえたのは予想外の声。恐る恐る目を開くと先ほどまで自分がいた場所に立つ言乃花の姿だった。
「何をボサッとしてるの? 私もそんなに長くもたないわよ」
「いったい何を考えているのですか? とどめを刺すには絶好のチャンスなのに……」
「そう、絶好のチャンスね。だけど、あなたには聞かなければならないことが山ほどある……じっくり聞かせてもらうわ」
「ふふふ、甘い人ですね。私が空間を維持できる時間は残り僅か……仕方ありません、おとなしく引かせていただきましょう」
ノルンが右手をスッとあげ、指を鳴らす。すると今まで広がっていた妖気が薄れ、本棚に囲まれた本来の空間へ変化した。困惑する言乃花を横目にため息をつきながら話しかける。
「私に気を取られていて良いのですか?
冬夜の方を見ると力なく本棚にもたれかかっている。慌ててそばに駆け寄る。
「冬夜くん、大丈夫?」
「ああ、何とか……止めてくれてありがとな」
冬夜は魔力を急激に使用した反動から呼吸が荒いが目立つような大きな怪我などはなく、意識もはっきりとしていた。そして、本棚を支えにしながらゆっくり立ち上がった時だった。
「では退散させていただきます。次にお会いする時を楽しみにしていますね」
言乃花が慌てて振り返ると、ノルンの姿が闇に溶けこむように消えていく。
「チッ、取り逃がしたか……言乃花は大丈夫か?」
「うん、一か八かだったけど間に合って良かったわ」
二人がお互いの無事を確認したその時、握られた木箱が砕ける。その中から星形をしたクリスタルが現れ、まばゆい光を放ち共鳴を始める。
「なんか光り始めているけど大丈夫なのか?」
「わ、わからない。なんか共鳴が強くなって……」
二人が困惑していると目が眩むような光が二人の視界を奪い、奇妙な音を立て目の前の空間にヒビが入る。
「え? 空間にヒビが? あ、危ない! 伏せろ!」
ガラスの割れるような音が図書館内に響き、粉塵が舞い視界が遮られる。そして、視界が回復した二人の前に信じられない光景が見えてくる。
割れた空間の中に立っていたのは膝まで伸びた紫色の長い髪をツインテールにまとめ、黒いワンピースを着た冬夜より少し背の低い少女。
「君は……どうしてそんなところにいるんだ?」
目の前に現れた少女に困惑しながら冬夜が声を掛けた瞬間、欠けていたパズルのピースが一気に組みあがるように記憶が甦る。
(九年前の女の子なのか? いや、いくらなんでも人違いだ……でも、紫の髪にツインテールは間違いない……)
「私は、メイ。あなた達は?」
冬夜とメイの出会いであった。
出会うはずのない少年と少女。
運命のいたずらがもたらした奇跡、そして動き出す歯車。
「冬夜くんが見事たどり着けたか……」
学園を見下ろす位置にたたずむ学園長。口元を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべる。
「彼女に接触することは我々にはできなかった。かわいい
誰かに語りかけるような呟きは止まらない。
「動きだした運命の歯車は止めることができない。さあ、二人が用意された結末をどう作り変えてくれるのか……楽しみにしているよ」
差し込む夕日に溶け込むようにスッと姿を消す。
陰と陽が交わる時、世界は破滅へ向かうのか、それとも……
世界の終わりと名付けられし学園……
『ワールドエンドミスティアカデミー』
さまざまな思惑が渦巻く中、舞台は整った。
現実世界と幻想世界、少年と少女が出会ったことにより運命の歯車は動き始める。
誰も想像できなかった結末にむけて……
――第一章 完――
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