第8話 ワールドエンドミスティアカデミー
フェイによる強襲後、学園長とリーゼによって学園の医務室へ運ばれた冬夜。常勤医の診察によると目立った外傷はなく、急激な魔力枯渇により意識を失ったとの診断だった。ベッドで安静にし、目が覚めるまで様子を見ることになった。
数時間後、目を覚ました冬夜の視界に映ったのは見知らぬ部屋の天井だった。
(ここは? たしか……森の中を歩いていて、いきなり襲われて、必死に逃げていて、たしか左肩を撃ち抜かれて意識が朦朧と……不思議な声を聞いたような……そうだ、左肩は? あれ? 傷がない?)
ぼんやりとした微睡みの中、自身に起こったことを思い返す。撃ち抜かれたはずの怪我の痕跡がないことに困惑していた時、出入口の扉が開いた。
「もう起きられるようになった? 調子はどうかしら?」
開けられた扉から差し込む光が、ポニーテールにした少女の透き通るような銀髪を際立たせる。整った容姿はまるで美少女ゲームのキャラクターが現実に現れたかのようで、冬夜は完全に目を奪われた。少女がクスっとほほ笑むと、コバルトブルーの瞳が細められる。それを見てハッと我に返り、慌てて平静を取り繕うかのように声を絞り出す。
「ま、まだ頭がぼんやりしている。ところで、あんたは誰だ?」
「自己紹介が遅れたわね。私はリーゼ・アズリズル、あなたを迎えに行く予定だった、この学園の生徒会長よ」
「あんたがそうだったのか。俺は
「冬夜君ね、これからよろしく。私のことは、リーゼと呼んでくれて構わないわ。色々あって待ち合わせの時間に遅れちゃって……ごめんなさい。私が間に合っていれば……それよりも起きられる? 起きたら学園長室に連れて来るように言われているから、一緒に行きましょう」
「わかった、すぐ起きるよ。ところで、俺は左肩を撃ち抜かれたはずなんだが……」
「それについては、私が説明しても納得しないでしょ? 学園長を交えてゆっくり説明するわね」
冬夜はベッドから身を起こし、何事もなかったかのように服のしわを伸ばし始める。その様子を見てリーゼもようやく安堵したのであった。準備が整うと、学園長室に向けて長い廊下を二人は歩き始めた。
(リーゼって意外と背が高い……俺と変わらないな。ここが学園か……俺のイメージとずいぶん違うな……まるで城か美術館みたいだ)
ワールドエンドミスティアカデミーは今まで冬夜が通ってきた学校と大きくイメージが異なった。コンクリートの無機質な感じはいっさいなく、中世ヨーロッパの城内を想起させるような造りとなっている。広い通路にはアーチ型の大きな窓があり、そこから外をみると、よく手入れされた庭園が広がり、噴水の向こうにグラウンドが見える。更にその奥に広がるのは濃い霧に包まれた森だ。
「こんな森の中にずいぶん立派な学園があるんだな」
「そうね。霧の中にあるおかげで外部と切り離されているから。そちらの世界からくる人間にとってはいろいろ珍しい物ばかりでしょ?」
「そちらの世界?」
「この世界は二つの並行世界で成り立っているということはご存じかしら? 冬夜君がいた現実世界ともう一つの幻想世界。この説明は……後ほどゆっくりね。着きましたよ」
リーゼに促されふと顔を上げると、目の前に重厚な扉があった。『学園長室』と書かれた部屋にいつの間にか着いていたのだ。重厚な扉をすると室内で待つ人物へ声をかける。
「リーゼです。冬夜君をお連れしました。入ります」
そう伝えると扉を開け、二人で中に入る。一人の男性が奥の机の後ろから立ち上がった。
「ようこそワールドエンドミスティアカデミーへ。学園を代表し君を歓迎しよう、天ヶ瀬 冬夜君」
学園長と思われるその男性は冬夜に向かい、笑顔で話しかけてきた。
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