第4話 新たな生活の始まり
(母さん……しばらく帰って来られないと思う、見守っていてね。あのクソ親父め、どこに行ったんだよ……必ず
「よし、行ってきます」
冬夜は仏壇に手を合わせ、毎朝必ず行っている母親への挨拶を済ませると少し寂しそうな顔する。
母親は冬夜に物心がつく前にこの世を去ってしまった。そのため幼少期より父方の祖父母と父親に育てられてきた。
だが唯一の肉親である父親も数年前、意味深な言葉を残し、突然家を出て行った。
泣きながら『行かないで!』と懇願する冬夜を残して……
「すまない、冬夜。俺がどうしても行かないといけない事態になってしまった。これをお前に渡しておこう、母さんから託されたものだ。きっと必要になる時が来るから……じいさんとばあさんの言う事を聞くんだぞ。父さんのいない間、留守を頼む」
渡されたのはダークシルバーのロザリオ。中心には全ての闇を飲み込むかのような漆黒の小さなブラックオニキス。
ある決意を胸に父親は幼い冬夜へ妻の形見を託すと家を出ていった。その日から冬夜はロザリオを首から下げ、肌身離さず身に着けている。
「じいちゃん、ばあちゃん! 行ってきます!」
「気をつけていくのじゃよ」
「休みには帰ってきなさいよ。たまには連絡もしなさいよ」
「うん、分かった! じゃあ、行ってきます」
祖父母に駅まで送ってもらい、冬夜は笑顔で電車に乗り出発した。
「
「大丈夫ですよ。きっと乗り越えて帰って来ますよ」
冬夜を見送った祖父母はこんな会話を交わしていた。まるでこの先冬夜に待ち受ける運命を察しているかのように……
(待ち合わせは……霧の森の中ってマジかよ……指定された場所までは地図に詳しく書いてあるし、先に学園の人が待ち合わせ場所へ来てくれるはずだから大丈夫だよな……。まだ到着まではしばらくかかるから……少し寝よう)
待ち合わせ場所は少々いわく付きで、不安を押し込めるよう自分に言い聞かせる。窓越しのぽかぽかとあたたかい春の陽気が眠気を誘う。電車の心地よい揺れに身を預け、ゆっくりと意識を手放した。
『君はたれ? どうして泣いているの? ……そっか、それじゃあ一緒にここを出ようよ! 僕が外の世界を君に案内するよ! 名前を教えて! 僕の名前は……』
冬夜が目を覚ますと降りる駅が近づいていた。
(夢か……懐かしいな……あの女の子のような気がするけど、はっきりとは思い出せない……ああ、もうすぐ着くな)
冬夜は懐かしさが残る夢の余韻に浸りながら、降りる準備を始めた。指定された場所にはバスで移動となるため、バスターミナルに向かう。
「森の中に入るのはかなり不安だな……でも地図があるし。どんな人が迎えに来るのか、楽しみだな」
新たな学園生活に思いを馳せながら、冬夜はバスに乗り込んだ。
まさか自らの命運を決定付ける出来事が起こるとも知らず……
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