エピローグ
その少女は、ようやく長い眠りから覚めた。
夢を見ていた。
ずっと。
知らない少年を探して彷徨って、やっと見つけた彼と共に戦った。
彼への信頼は、共に過ごし、戦う度に強くなっていった。
彼もきっと、少女を信頼してくれていただろう。
もし、この信頼を『愛』と呼べるのなら、そう呼んでもいいのかもしれない。
たとえ、この肉体が本当は眠り続けていたのだとしても、魂は確かに彼と出会い、そして彼と過ごしたのだから。
目覚めてからずっと、彼女は夢の残滓を追いかけている。
彼女が眠っていたのは、湖の近くの病院だった。
元々は都会の病院で治療が続けられていたが、ずっと眠っているままの彼女は、親戚によって病院を移された。
いつ目覚めるのかも分からないのなら、せめて亡くなった両親が眠る墓の近くに移してあげたいという思いからだそうだ。
目覚めてから、彼女は八年間動かなかった手足を動かして、リハビリを続けている。
手すりに掴まりながらの歩行訓練。
上手く歩けない。
夢の中では、あんなに軽やかに走れていたのに。
もどかしい思いを抱きながら、それでも彼女は毎日リハビリを続けた。
夢の中で、最後に交わした約束がある。
彼は必ず、迎えに来る。
その時に、少しでも自分は普通の姿でいたい。
あまりに痛ましい姿をしていたら、きっと彼が悲しむから。
目覚めてから、二か月が過ぎた。
体もだいぶ、まともに動くようになった。
松葉杖も要らなくなった。
もちろん安全な敷地内に限られるが、病院の建物の外を散歩もできるようになった。
湖が望めるテラスまで歩く。
水面は日の光を反射し、煌めいていた。
「きれい」
風が彼女の髪を揺らす。
その時、風に乗って声が響いた。
「久しぶり」
それは夢の中で何度となく聞いた、彼の声だった。
彼女は振り向く。
彼が立っている。
彼は照れたように、だがこれ以上ないほどに明るく笑った。
「約束したからな。君にまた、会いに来た」
その言葉を聞き、彼女の両目から静かに涙が落ちる。
涙をぬぐいながら、彼女も笑顔を返す。
再会は笑顔に彩られていた方がいい。
「君を待ってた、カイ」
これは少年と少女が紡いだ、運命と意思の物語。
僕らは運命の双子 空殻 @eipelppa
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