第4話

「さてと。で、俺達はこれから、あの怪物を倒すためにどうすればいい?」

カイは開口一番、そう言った。今日会うのもそのことについて話をするためだ。

「あの怪物は強い、今のまま戦っても、今度こそ負けるよ」

「負けたら、俺達はどうなる?」

「さあ。死ぬ可能性が一番高いと思うけど」

「それは嫌だな」

「私だって」

会話の内容の割には、落ち着いて話していられる。

ソラはともかく、カイもまたこの異常な状況をもう受け入れつつある。

ただ、自分一人では絶対に受け入れられなかったと、カイは確信していた。

怪物と戦うなんていうことは絶対にできなかった。ただ、不安と混乱と恐怖に打ちのめされるだけだっただろう。

たとえ彼女が『一緒に戦って』とカイに頼まなかったとしても、それでも怪物が現れたのだろう。それならば彼女と一緒に戦っている今の状況の方がよほどいい。

黙っているカイを見て、ソラが不思議そうに訊ねた。

「どうしたの?」

「いや、悪くないかもな……この、『ツインズ』っていう関係も」

『運命の双子』という言葉の代わりに、二人の関係性を表す単語だ。それがどの程度的確な言葉なのかはカイには分からないが、ソラがこれで納得しているところから察するに、そう外れてはいない言葉なのだろう。

「……『ツインズ』……私達は、二人で戦う………」

ソラが呟いていた。

「どうした?」

「…………なんだ、簡単なことだった」

『目からウロコ』とでもいうように、一人得心した様子でソラが言う。。

「何が?」

訳が分からないカイは当然訊ねる

「あの強い怪物を倒す方法、簡単だよ。君と私が、もっとコンビネーションを高めればいい」

「コンビネーション……」

連携を表すその言葉。確かに『ツインズ』はコンビであることには違いない。

ソラが言葉を続ける。

「まだ君と私の戦いは噛み合っていない。お互いの邪魔にはならないけれど、二人がそれぞれ戦っているだけ。それじゃあ、一緒に戦っていることにはならない」

「なるほど。けど、コンビネーションって、どうすればいいんだ?」

「そんなのはこれから見つければいい。とにかく、それできっとあの怪物にも太刀打ちできる」

「そんな単純な話で片付くか?」

「最善手だと思う」

ソラは根拠のない確信に満ちた声で言った。ソラと出会って以来、これまでにもこんなことは何度もあった。カイとしてはとりあえず、この少女のペースに呑まれておくことにする。

「……まあ、それ以外思いつかないしな」

「じゃあ、それで決まり」

話はまとまった。だが、もっと問題なのはむしろこれからだ。

「で、これから何をしようか。タイミングを合わせて戦う練習とか?そういえば、武術の経験はある?」

「ないよ」

「俺もない」

やれやれといった顔をカイはして、それを見たソラは不機嫌になる。

「今までだって、ちゃんと戦えたでしょ」

「そうだな……」

確かに怪物と戦う時は、カイもソラもそれなりにまともに動けていた。ソラは剣を、カイは盾をそれぞれ自在に操れた。

「変異すると自然に動けるようになるってことか」

「なら、あの姿で練習すればいいよ。それなら実戦に近いし」

「……じゃあ、もっと人目につかない場所を探そう。そこで、特訓だ」




それから二人は街を歩き回り、空に夕焼けが見え始めた頃、街外れに廃屋を見つけた。少し中を調べると、工場に使われていた場所のようで、十分なスペースがある。この家屋の持ち主には申し訳ないが、ここを特訓場所とすることに異論はなかった。

廃屋を出る頃には夕日が落ちかかっていて、今日はここで別れることにした。

「また明日」

「ああ」

廃屋の前で手を振って違う方向に歩き出して、それからカイが振り向くと、ソラはもういなかった。誰もいない空間を見つめながら、カイはふと思い出す。

「また、聞きそびれたな……どこに住んでいるんだって」

『明日こそ聞こう』とあてもない決意を重ねる。

聞きにくい質問でもないのに、聞くことができない。それはただ単に、彼女と会えばそれだけで彼女のペースに呑み込まれ、そして訊ねることを忘れてしまうからだった。



それからスーパーにアカネを迎えに行き、孤児院に帰り着く頃には、もう日は完全に落ちて、辺りは真っ暗になっていた。

これから夕食を急いで作らなければいけないアカネは、急いでキッチンに入っていく。

「手伝うよ」

カイは声をかける。

「助かる、お願い!」

アカネが応える。

気負うことのないやり取り。やはり、ここはカイの『家』で、ここには『家族』がいる。



夕食後、片付けを手伝ってから、カイは自室へ上がり、課題の山と向き合う。

「さてと、やるか」

問題を解き始めてから数十分後、ドアをノックする音が響いた。

続いて声がする。

「入っていい?」

アカネだった。

「ああ」

答えるととすぐに、ドアが開く音がして、一之瀬アカネが入ってくる。

「食後のおやつ持ってきたよっと」

数欠片のチョコレートを載せた小皿が差し出された。

「お、ありがとう」

「どういたしまして」

そう言ってから彼女の視線が、机の上に広げてある問題集を捉えた。

「課題?」

「ああ、それも山のような」

渋い顔でカイが言う。

「へえ、お気の毒」

「他人事だな」

「他人事でしょ。いくら家族でも、宿題までいちいち分け合ってはあげられないの」

アカネが涼しい顔で返す。

「でも、これでテストの成績もよくなるかもよ?」

「だといいけどな」

「いっつも平均以下だもんね」

「うるさい」

顔をしかめ、カイは問題集に視線を戻す。

「はいはい」

アカネは部屋から出ていこうとするが、途中で立ち止まって、机の前のカイの背中に向かって言う。

「ま、テストなんて本当はどっちでもいいんだけどね」

「成績次第じゃ進級できなくなるんだから、そうもいかないだろ」

「違う違う、そういうことが言いたいんじゃなくて」

アカネは部屋のドアノブに手をかける。

「きっとカイには、色々できることがあるってこと。じゃあね」

明るい声の後、ドアが閉められた。

カイはペンを止め、アカネの言葉を考えた。

「『できること』か……」

確かに、少なくともカイにはできることがあるだろう。

ソラと共に、あの怪物と戦うことができる。

望もうと望むまいと、それは彼にできること、もしくは彼にしかできないことだ。




翌日の放課後、例の廃墟でカイとソラは特訓をした。

「じゃあ、始めよう」

「ああ」

二人は意識を集中させ、そして呟く。

「変異」

同時に唱えたキーワードは、二人を白と黒の戦士に変える。


そこからは、何もかもが手探りの、ぎこちない修練だった。

どちらも武術の心得などなく、戦い方は本能的なものに過ぎない。戦い方を合わせようとすることはできるが、やはり敵が目の前にいなければイメージは難しく、動きは噛み合わない。

「違うって!そこで私の後にこう……」

「いや、俺がガードに回った方がいい。そのための盾なんだから」

意見はすれ違い、摩擦を生む。苛立ちと焦りと共に、疲労も蓄積する。変異は身体能力を飛躍的に向上させるが、同時に体力を容赦なく奪っていく。ただの練習とは言え、疲れるのも当然だ。

「はあ、はあ……」

変身を解除して、カイがしゃがみ込む。ほぼ同時にソラも変身を解いた。彼女もまた、息が上がって座り込んでいた。

「さすがに…体力がもたない……」

「……ていうか、この特訓方法でいけるのか?」

「……分からない。でも、それしか思いつかないから」

「……ああ、そうだな」

カイは立ち上がる。

「とにかく、次にあれが現れる時までに、俺達は強くならなくちゃいけない。無駄口を叩いてる暇もないな」

強がるように、カイは少し笑った。ソラも少し表情を緩めた。

「君のそういう思い切りがいいところ、いいと思うよ」

「……絶対に、君ほどじゃないけどな」

苦笑してから、カイはまだ座っているソラの方へ近づき、右手を差し出した。

「立てるか?」

「大丈夫」

ソラはそう返しながらも、差し出された右手に掴まろうとまた右手を伸ばす。


掴んだ。

その瞬間、二人は同時に感じる。

握る手、その温度。

互いの体温。

温かい、いやむしろ熱いほど。

その熱の中で、体の中に流れ込んでくる力の流れ。

体が軽くなる。

足りなかったパーツがはめ込まれて、精密な機械がようやく完全に回り始めたような感覚だった。

カイが視線を上げると、既に立ち上がっていたソラもまた、こちらを見ていた。その表情から、彼女もまた、同じものを感じたのだと悟った。

「今のは……」

「カイ、君も感じた?」

「ああ」

そこで彼と彼女はまだ手を握り合っていたことに気づいて、慌てて手を放す。

だが、体の中の熱い感覚は、まだそのままだった。

「疲れが無くなったみたいだな」

「体が軽いような?」

「そんな感じ」

この感覚は二人に共有されたもののようだった。

だが、不思議に思いながら二人が立ち尽くしていると、その感覚は段々と薄れていく。

体の疲れが戻ってくる。エネルギーが失われていくような感覚だった。

「……元に戻ってないか?」

「うん、わたしもそう思ったところ」

そこで、ソラが手を差し出す。

「もう一度」

「もう一度、握れってこと?」

「うん」

「……分かったよ」

カイが彼女の手を素早く取り、また握る。

その途端、また先程と同じような感覚が甦る。

パズルのピースがはまる。ギアが入る。エンジンがかかる。やはり、そのような感覚。

「……やっぱり、同じ感じだな」

「うん」

二人は手を放し、ソラが提案した。

「このまま、変異してみよう」

「やってみるか」

体力が戻ったような状態なので、変異による体力消耗はひとまず気にしなくていい。

二人は意識を集中させる。

「変異」



それから数十分後。

カイとソラは再び、地面に座り込んでいた。体力の消耗が戻ってきている。だが、二人の表情は疲労に反して明るかった。

「……これなら…いけるかもな」

「うん、きっと大丈夫。勝てる見込みは十分にある」

ソラが頷いた。そこで、カイが真面目な表情で言う。

「……だが、これにはタイムリミットがある。それをカバーするには……」

「それしかないね」

カイの言葉を先回りして、ソラは理解した。

「どのみち二人で戦っているんだから、そんなに関係ないよ」

「そうかな……」

「君は難しく考えすぎだよ」

ソラがなだめるように言う。

だが、カイはまだ考え込んでいる。その様子を見て、ソラも少し考え始めた。

そして十秒ほどして、思いついたように言う。

「なら、『合言葉』を作ろう。その合言葉を意識すれば、きっとタイミングよく戦闘中に合わせられる」

「『合言葉』か……」

『ブラック』に『ホワイト』、そして『ツインズ』。

彼女と出会って戦い始めてから、そんな名称を作ってばかりいる。だが、異常だらけのこの日々で、意識を切り替えるための『おまじない』としてはちょうどよかったのかもしれない。

「いまさらもう一つ作っても、どうということはないか……」

そして、彼は提案する。

「じゃあ、『合言葉』は……」



そして日も暮れ、二人は特訓場所の廃墟の前で別れる。

「明日もここに来るか?」

「もちろん」

カイの問いかけに、ソラは頷いた。

「結局、コンビネーションはうまくいってないんだし」

「……まあ確かに」

これについてはカイも同意するしかない。だが、ソラは言った。

「でも、戦い始めたらきっと噛み合う…そんな気がする」

「それは願望、それとも直感?」

「両方」

彼女は微笑んだ。

「君と私なら、きっとできる」

「……俺も、そう願ってるよ」

カイは少し笑った。

妙な勘を持った彼女がそう言うのだから、きっとうまくいく。

それは願望には違いないが、無責任で無根拠な希望的観測とは決定的に異なる。そのはずだ。

それからカイは、今度こそ思い出して訊ねる。

「そう言えば、君はどこに住んでいるんだ?もう暗いし、何だったら送っていくけど……」

そこで、カイは言葉を切った。ソラが心底不思議そうな顔をしていたからだった。

「分からない」

「えっ?」

「私がどこに住んでるのか、それが分からない」

「なっ……」

予想だにしていなかった答えだった。

「どういう意味だよ?」

問うカイの声は少し上ずる。

「そのままの意味だよ」

問い返したカイの動揺とは対照的に、ソラは相変わらず、特に深刻そうでもなく、淡々と言った。

「私は、自分がどこに住んでいるのか、よく分からない」

その答えに、カイはますます訳が分からなくなっていく。

「……じゃあ、いつも俺と別れた後どこに?」

その問いにも、ソラは首を傾げるだけだった。

ふざけているわけでないことがカイにも分かる。彼女はそんなことはしない。

「……とりあえず、俺の家…孤児院に一緒に来るか?」

「いや、私はもう帰るって……」

「その『帰る場所』がよく分からないって、そう言ったんだろ…」

彼は自分の髪を少しくしゃくしゃと掻きむしり、それから落ち着こうと努力した。

るでその隙をついたように、ソラは走り出した。

カイが慌てて伸ばした手はしかし、彼女の手を掴むことができない。

「じゃあ、また明日」

振り向きながらソラが手を振った。

「おい!待てって!」

カイも追いかける。

ソラが曲がり角を曲がった。

その光景にカイは、きっと前と同じだと予感した。

それでもなお、追いかけて曲がり角を曲がる。

だが、予感したように、ソラの姿はそこにはもう無かった。

初めて街中ですれ違った時からそうだ。

彼女はいつも、幻のようにいなくなる。




その翌日、放課後。

教室で荷物をまとめていたカイは、例の、世界にノイズが走る現象を感じ取った。

「来たか……」

覚悟していたから、狼狽えはしない。ただ、緊張の震えが体に走る。

すぐに荷物をまとめ、カバンを掴んで駆け出す。校門には、きっともう彼女がいるはずだった。

チャリオン学園の校門にカイが辿り着くと、予想通り、そこにはもうソラが立っていた。

「君も気づいたよね?」

「ああ、もちろん。連れて行ってくれ」

彼女が怪物の場所を直感で把握できることは分かっている。

何の根拠もないが、信用できる。

彼女に関してはそんなことばかりだ。



彼女の後について走りながら、カイは訊ねてみる。

「昨日はあの後どこへ帰ったんだ?」

「だから、分からないよ」

「君はそれでいいのか?そんなに自分のことが分からない状態で」

「特に気にならない」

「俺は納得しないぞ」

「何で?」

「何でも」

「よく分からない」

二人はそれきり黙った。

五分ほどハイペースで移動して、彼らは怪物の現れた場所へ辿り着く。街の中心近くで、既に人は避難していた。破壊された建物や電柱の瓦礫が、この場所が既に非日常に呑まれたことを物語っていた。

空間の中心に立っているのは、先日戦った、人語を解す怪物。錆びた金属の色をした肉体に対して、灰色の左脚がはっきりと映えて見えた。

怪物の姿を前に、カイの心臓は跳ねるように早鐘を打ち、四肢が小刻みに震えた。

だが、それでも逃げようとは思わない。

自分が住む街を壊されたくない。

誰かに傷ついて欲しくない。

戦うことを決めた。そして、戦えるのは二人だけ。

隣には『ツインズ』の片割れがいる。

逃げない理由なら、掃いて捨てるほど十分にあった。

「行こう」

「うん」

二人は怪物の方へ一歩、足を進める。

怪物がすぐに彼らに気づく。

「来たか」

怪物は、余裕を見せるように佇んだままだった。

その数メートル前で、二人は意識を集中させて、宣言した。二人、声を揃えて。

「変異」

並んだ二人を、対照的で、等質で、等量の光が包んだ。

そして彼らは変異する。白の戦士『ホワイト』と、黒の戦士『ブラック』に。

全身を流れる刻印も白と黒の対照。、瞳も対照的に、ホワイトは深紅の瞳、ブラックは藍色の瞳だ。

二人はやはり、対だった。



怪物は笑った。

「この私とまた戦うか」

「当然。戦って、倒す」

ホワイトが答える。

ホワイトとブラックはそこで、互いの手を伸ばす。ホワイトの右手が、右隣に立つブラックの方へ。ブラックもまた、左手をホワイトの方へ差し出した。

両者ともに、視線は怪物から逸らさない。

ただ、そこにあるのが当然というように、互いの手を掴む。

どちらか一方から掴んだわけではない。どちらも『掴んだ』のであり、どちらも『掴まれた』。

それぞれの肉体にエネルギーが満ちていく。

「いくぞ!」

ホワイトの手を離し、ブラックが地を蹴った。一瞬で怪物と距離を詰め、その目の前で右拳を突き出した。怪物は防ごうと反応するが、出した左腕のガードはわずかに遅く、結果としてガードした腕の上からパンチを叩きこんで押しきる。

「ぐっ!」

地を滑るように後退した怪物の目の前で、さらにブラックの脇からホワイトが飛び出し、白い刀を振るった。その振りは速い。怪物は右手で止めようとするが、それも完全に押し負け、斬撃が怪物の右腕の上を走る。

さらに続け様にホワイトの刀がもう一閃。かつて片手で止められた刀は、もはや防がれることはなかった。怪物の胴を真一文字に斬る。

「ぐうっ!」

怪物は叫ぶ。それは痛みの叫びというよりは、驚愕や苛立ちといった感情の吐露に近かった。

「私が押されている?」

そう言いながら、怪物はホワイトの方へ右脚を上げて、蹴りを構える。

だが、ホワイトは直前に後退し、代わりにブラックが割って入った。その左手の盾が、怪物の蹴り足を正面から受け止めた。

「硬い……!」

怪物の蹴り脚は弾かれ、攻撃を繰り出したはずの怪物の方が体勢を崩した。

その隙に、ホワイトが再び躍り出る。垂直に振り下ろされた純白の剣が、怪物を切り裂く。

「ぐあっ!」

よろよろと数歩下がる怪物。その表情から人間のように感情を読み取ることはできないが、おそらく今、屈辱と怒りに燃えていた。

「なめるなぁ!」

怪物が吼え、灰色の左脚を持ち上げた。

一方でホワイトとブラックは力が衰えていくのを感じていた。

「時間切れだ!」

「分かってる」

彼らはすぐに、また互いの手を掴む。

「シンクロ!」

再び体に力が満ちる。



彼らが特訓中に発見した、手を繋ぐことによる能力のブーストは、およそ三十秒が限界だった。

だから、彼らは手を繋ぎ直さなければならない。

そうすることで尽きかける力を呼び戻す。

そして戦闘中に意識的に行うために、一つの『合言葉』を作った。

『シンクロ』。

彼らにとっては、この現象を端的に表しているように思えた。



怪物が二人との距離を詰める。

灰色の左脚が、蹴りの動作のために旋回する。

「下がれ!」

ブラックが叫び、ほぼ同時にホワイトは後ろへ退く。

そして、ブラックは怪物の回し蹴りの軌道上に、漆黒の盾を構えた。

直後に衝突、互いの内包するエネルギーが弾ける。

「ウ……ラアアアァ!!」

裂帛の気合と共に、ブラックは怪物の蹴りを受け止める。

「なっ!」

怪物が驚くのと同時に、ホワイトが横から飛び出し、刀を突き出す。純白の光が怪物を貫いた。

「がああっ!」

ブラックも続いて、右拳を怪物の腹に叩きこんだ。怪物は大きく吹き飛ばされて、倒れる。

ホワイトが声をかける。

「決めよう」

「ああ!」

ホワイトとブラックが怪物に向かって駆け、跳んだ。

相対して、ふらつきながらも立ち上がる怪物が、切れ切れに呟く。

「私は、『パーツ』……負けるはずが……!」

怪物が左脚を持ち上げ、力が宿った。

一方、ツインズは急降下を開始していた。体勢を変え、二人の足が怪物に向いて、落ちていく。

「ハアァァ!!」

「ラアァァ!!」

二人は黒と白の光を纏う。

怪物も灰色の左脚で蹴り上げた。

そして、双方のキックがぶつかる。衝突点を中心に、空気が破裂するように爆発し、小さな瓦礫が全て吹き飛ぶ。

だが、拮抗の中、ツインズの白と黒の光が混ざり合う。その直後、怪物の蹴りを真正面から打ち破った。

「く、ガアアアァァァッ!!」

ホワイトとブラックは、怪物を蹴り飛ばして着地した。顔を上げると、怪物が塵になっていくのが見えた。急速に、ただ消えていく。

「倒した…」

「やったな…」

二人の能力のブーストも切れ、体力の消耗が急速に感じられた。

ふらつきそうな体で、それでもしっかりと、ホワイトとブラックは拳を一度打ち合わせた。

骨に響く、勝利の音だった。

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