第9話 The Beginning

「朱音はさ、朱音自身のこと好き?」

 沈黙が走る。文字のやりとりではあるが、確かにそこの空気は静まり返った。時計の針の音と自分の心臓の音だけが耳に反響する。

 2分の沈黙を破り、返信が返ってくる。

「嫌いかもしれない」

 そこから、コーラにメントスを入れた時のように朱音の言葉が溢れ出す。

「わがままで、何も出来なくて、なのに正義感だけはあって、否定的で、嫌われてて、きらってて、人の好き嫌いが多くて、ごめんしか言えなくて助けて貰ってばかりで、迷惑かけてて、だから、顔も性格も姿全てがきらい。見たくない」


 こんな言い方は良くないかもしれないが、ただ、圧倒された。津波が襲ってきたような圧倒的ななにか。呼吸したかった。飲み込みきれずにこう言った。

「うん......なるほど......」

「( ゚ー゚)ウ ( 。_。)ン」

「自分の事嫌いなんやね」

受け止め切らずに再確認。

「大嫌いかな。」

「あーーーー」

言葉が紡げない。普段なら饒舌なはずの僕でも脳の処理が間に合わない。いや、間に合ったらいけなかったのかもしれない。疲れている時に、英語の長文問題を厳しい時間制限で解けと言われている感覚。

「だけど、そんな自分を大切にしてくれる人がいるから生きてられる。自分を保ててる」

「なるほど…」

「身近にそれもいなくなったらレリくんとのコラボの歌?が最後の声になっちゃう」

朱音はスマカラでリリとコラボして歌った「アイネクライネ」を投稿していた。それでもこの言葉の意味はわかってなかった。スマホが取られるから、僕たちに聞かせられる声が最後だって、そんな意味だと思っていた。

「なるほど......あーー!絶対、朱音はいい人だ…!聞いててわかる。ルームちょっとしたら行くね!」

これは逃げだ。この重い空気に耐えられなかった。

「うん!ありがとう」

朱音がそう答えてくれたのがせめてもの救いだった。

<続>


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