第5話 虚言Neurose
その日のご飯は回転寿司だった。学校に通う都合上、母親と祖母が入れ替わりで面倒を見てくれる学校用の家に、学校のある日は住んでいたが、その日は土曜日。父親が来て、家族で外食ができた。
父親の車で親子3人、お店に向かう途中、幸せを噛み締めざるを得なかった。僕には親が2人居て、2人共僕を愛してくれているんだ。さっき居た精神世界とはまるで壁を感じる。そうやって、朱音より自分が上に立っていると安堵している自分に気づいて嫌気がさした。激しく自分が嫌いになった。
流れてくるサーモンの生々しさが、食欲を減退させる。そんな気分がした。何皿か食べた後、耐えきれずに母親に、朱音の事を少し聞いた。
「やっぱり、僕、幸せなんだなって...お母さんお父さんが居て、なんの不自由なく暮らしてる......」
言葉に詰まった。それでも、捻り出す。
「ネットで知り合った女の子がさ...」
簡単に概略だけ説明する。
「そんな子なんかに惑わされんと!それでテストの点に響いたらどうする気?!」
「うん...わかってるけど...」
「いい?それでテストの点数が下がっても許さないからね?」
「うん...」
手に握っていた赤い箸を折りそうになる。ぐっと力を込める。ミシリとも音はならない。それが、自分は無力だという現実に、冷静な自分に引き戻す。
頑張って笑顔を作る。ぎこちない笑顔。うまく表情筋が働かない。必死で自分を抑える。その日は、それ以上物を口にする気にはなれなかった。
5皿しか食べていないのに、吐き気がするほど食べた気がする。そんなことよりも、自分が憎い。抑えなきゃ抑えなきゃ。そんな事を思いながら、車に乗り込む。銀色のベンツ。銀の輝きまでも自分を否定してくれている。誰かの光をくすませて反射する白、それが銀だ。
車で、その日の日曜日は、親は家に帰るらしい。自分は学校近くの家で、月曜の朝まで一人でいれる。僕の心は踊った。朱音と喋りたい...その一心だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます