賢者 前世を告白する

 朝のテレビのニュースで昨日の事故現場の映像が流れていた。映像では魔力が映される事もなく、羽雪くんが映る事もなかった。弟の樹が瞬間移動して、トラックが何もないところで突然ひしゃげると言った映像内容だった。客観的に見ても良く生き残れたな……私が魔法を使ったのは間違っていないと思いはした。


 いつも通りに教室に入り、いつもの様に羽雪くんに手を振って挨拶をしようとすると……羽雪くんと目が合ったらなんか固まってしまった。あれ?身体が緊張してなんかぎこちないぞ、顔もなんか赤くなっているのが自分でもわかる。普通にふるまおうと思っても心がなんかうまく制御出来ないみたいだ。鈴ちゃんがなんかおかしさを感じたらしく私を振り返って、えっ?と言ったビックリした表情になる。私も自分自身にビックリしていたのでお互いきょとんとした顔になってしまった。




 休み時間になると、噂を聞き付けたクラスメイトが何人か質問にくる。弟さん大丈夫だったの?あの瞬間移動はなに?現場はどうだった?とか、警官から何聞かれたの?とか記者じゃないかと思うくらいの質問をして来た。サッカースクールに兄弟いる人はみんな知っている様だった。私は適当にごまかしながら話を受け流していた。


 昼休みになると、鈴ちゃんが複雑な表情で私の所に来た。


「……こっちゃん、ちょっといい?……」


 鈴ちゃんがこの世の終わりのような表情をしていた。昨日の噂を聞いていれば、私と羽雪くんが一緒にいたのがばれるだろうし。場合によっては抱き合ってたのも目撃されちゃってただろうなぁ……


「うん。いこっか」


 鈴ちゃんがこの時間は人のない使われていない部室に入っていった。


「こっちゃんは……私が優斗を好きなの知っているよね?」

「……」


 あ、やっぱりそうだったのか……羽雪くんやっぱり……鈍感くんだったのね……


「こっちゃんも優斗の事を好きなら好きでいいの。だけど裏でこそこそしないでちゃんと話をして欲しいの!」


 鈴ちゃんの声が震え涙目になってしまう。鈴ちゃんは竹を割ったような性格だからそう見えてしまうんだろうな。でもどうしよう……どこまで伝えればいいんだろう?正直に言った方がいいのかな?


「ごめんなさい。私……その。私もそうなんじゃないかなと思ってたんだけど」


 鈴ちゃんの目がギラっと私を睨む感じになる。


「じゃぁ、どうして!」

「えっと……羽雪くんが、なんか気を利かせてかわからないけど……海斗君と鈴ちゃんは相思相愛だからって……」


「……え?」


 鈴ちゃんの顔から怒りの表情が消え、何もなくなってしまった。そしてヘナヘナとへたり込んで座ってしまう。


「……そんな……めっちゃアプローチしてたのに……」

「えっと私は何と言ったらいいか……」


 鈴ちゃんが泣き出してしまう。慌てて私は鈴ちゃんの元に駆け寄り、抱きしめて背中をよしよししてあげる。なんか保育園以来だな、これやるの。しばらく鈴ちゃんが泣いていたけどしばらくすると落ち着いてきた。


「こっちゃん、ありがとう……なんか、昔を思い出した」

「うん、そうだね……」


「私……ストレートにちゃんと告白するべきだったのかな?高校生活まだあるし、ギクシャクしたくなかったから及び腰になってたし。優斗はそんなに女の子に興味なさそうだし、大丈夫かなって思って……」


 言っている内に悲しくなってしまったのが、また最後の方で鈴ちゃんが泣き出してしまう。ああ、どうすればいいんだろう私は。


「こっちやんは、優斗とどこまでいったの?」

「え?どこまでとは……」


 この場合はキスとかそういう奴だろうか?恋愛スキルが皆無な私にはわからない……


「羽雪くんとはまだ付き合っていなんだけど……」

「そ、そうよね、「まだ」付き合って無い感じなのね……」

「あ」


 また鈴ちゃんが泣き出してしまう。もうこれは最後まで付き合うしかなさそうだ。5時間目の予鈴が鳴ってしまうが、もうしょうがないな。


 6限目前の休み時間前にやっと鈴ちゃんが落ち着いてきたので教室に戻る。鈴ちゃんの目が若干充血しているけど大丈夫だろうか?私は羽雪くんをチラッと見ると、この鈍感!と心の中で叫んでしまった。

 

 私は放課後にスマホを確認すると羽雪くんからメッセージがあった。


【放課後いつものコンビニ前で、ちょっと縁起悪いから別の場所の方が良い?】


 私は返信しておく。


【今日は時間が無いから中央公園の藤園にしよう?部活は無いの?】


 早速返信が返ってくる。


【部活はちょっと休む、同好会だけどね……場所はOK】


 さてっと、家に帰ってサクッと行きますか。なんか、お詫びの気持ちと怒りの気持ちと不安な気持ちと入り混じってとても変な気分になった。




 いったん帰宅し、中央公園の藤園で待っていると羽雪くんが自転車に乗ってやってきた。挨拶を飛ばし、思わず私は言ってしまう。


「鈍感!」


「え、?えっと?」

「もう、今日は鈴ちゃんと……なんと言うか変な感じになっちゃったよ!」

「ごめん、何が何だかわからない……」


 あれ?なんで私が鈍感って言ってるのか本気でわかってないなこれは?


「……ふぅ……えっとね、あなたが鈍感なので私が巻き込まれた?のかな……」

「あ、あの、なにについて鈍感なんでしょうか?」

「羽雪君が、鈴ちゃんと海斗くんが相思相愛って自信満々に言うから色々こじれちゃったの」

「え?どう見てもそう……だよな?あれ違うのか?」

「海斗君のはバレバレだと思うけど、鈴ちゃんはちがったみたいよ」

「まじか……」

「まじです。ちょっと違うんじゃないか……と思いながら流された自分が恥ずかしいよ」

「うーん、鈴香にあやまらないとな……」

「それはやめて!絶対に止めて!」

「?……んー良く分からないけど分かった、なんでそこまで?」


 ああ、羽雪くんは普段は色々と察する事も出来るし理知的なのになんでこの事に関してはこんなにセンスが悪いんだろうか?あれ?羽雪くんが魔力感知をしている?なぜ?

 

「え、何で今、魔力感知?」

「感情が高ぶると黒いモヤが出るのかと思ってチェックしてた」

「ああ、なるほど……その辺は話しても大丈夫……かなぁ……?」

「そうしてくれるとありがたい。海斗と鈴香には悪いが、今はそっちの方が大切だと思う」


 確かにそうだ……私がおかしかった。親友の恋愛よりも私の人生の方がプライオリティが高いに決まってるね。私は何をやってたんだ……


「ごめんなさい……私も親友が泣くの初めて見たものだから……」

「えっ?やっぱり俺、謝りに行った方がいいんじゃ……」

「絶対に止めて、泣いたと言った私も悪いけど、絶対に止めて、いつも通りに接してあげて、いい?」

「は、はい」


 ああ、なんでこの人恋愛系鈍感なんだろう……私の好意とかもスルーされちゃうんだろうか?


「ああ、もう、どこから話せばいいか訳が分からなくなっちゃったじゃない!」

「落ち着いて」

「あっ!」


 羽雪くんが私の手を取って回復魔力を流す。うん、心地良い……いや心が落ち着かない。


「よ、余計落ち着かないから!」


 私は羽雪くんの手を振り払う。私はベンチに座り、バックの中から持ってきた水筒のカップにお茶を入れてお茶を飲む。やっと落ち着いてきた……かな?




「ふぅ……」


 羽雪くんが私の隣に座り優しく質問をしてくる。


「とりあえず、話せる範囲での事で良いから話してくれるかい?」


 私は頷いて、わたしに害が無い範囲で話し始めた。


「まず、私は前世の記憶をほぼすべて覚えてるの、あなたの話と魔力の使い方と種類、種族構成、神が実在する世界……等からかなり似た世界、もしくは同じ世界の可能性が高い感じ」

「何歳くらいから思い出したの?」

「私は最初から……生まれた時からあったの」

「それは、……いきなり喋りだす赤ちゃん……か、すごいな」

「あ、言語が全く違うから無理だったよ。あと赤ちゃんの時って体が自動的に色々動いちゃうから、記憶があると色々大変だよプライドもずたずたになるし……ちゃんと自分を認識出来るのって6か月後とかだったと思うよ。喋ろうとしても体が出来てないから1年たたないと無理だったよ」


「後、前世の私は魔法を使っていたんだけど、この世界では使えないの、正確には使えるんだけど……」

「使うと、黒のモヤが発生してしまう?」

「そう……この世界でいう呪いみたいなものだと思ってくれれば……」

「俺の魔力で消せるみたいなんだけど……」

「それが不思議なの……神聖魔法、女神さまの力を借りた魔法だったら消せる可能性があると思うのだけれども……この世界に神様は現世に降りてきていないみたいだし……」

「うーん、与謝峰さんが魔法を使っても、黒いモヤが出るたびに俺が消す……ってやっていけば魔法を使ってもいいんじゃないの?」


 確かにその手法も私も考えたのだけれども……私の精神がちょっと危険になりそうなんだよね。


「この黒いモヤ、心に影響があるの」

「?どんな感じで」

「前世の父親がこの……黒いモヤに巻き込まれたら別人の様な性格になってた。それこそ、人を人と……思わないような……残虐な感じに……」

「それで事故の後、やたらネガティブな感じになってたのね……」

「え、あれ?そうだったのかな?」

「いつもポジティブだから落差があってビックリしたよ」

「……そう言う事にしてくれると嬉しい……」


 私が羽雪くんをだましていた罪悪感は本物だと思う。それを流してくれるって事なのかな?器量が大きい人だなぁ。


「それなら俺の魔法の先生をお願い出来るな」

「多分……出来る気がする。見せてもらった魔法の原理は私の世界のものともの凄く似ているから……」


 私は羽雪くんと出会った時の事を思いだす。


「後はその……あなたの魔力を……最初に気が付いたのは……登校の時なの」

「……魔法は使えないけど、魔力がわかる?のか?」

「うん、魔力を練らないでも体内に循環している普通の人が持っている魔力量でも薄く目に集めるイメージで……これだとほんの微量で相手にも察知出来ないけど魔力を見る事が出来るの。後は魔力感知に慣れると魔力を使わなくても魔力を感じる事が出来る感じ、詳しい方向とか距離とかは分からないけど、あるのが感じ取れるの、前世でさんざんやってた事だから出来てたみたい」


 私は一息ついて次の言葉を考えるが思うように出てこない。これを正面切って言って良いものなのかどうか……


「それで、その、あなたがどちら側の人……私の敵なのかどうか?……と思って後をつけてみたの」

「それであの時話しかけてきたのか……」

「あ、その前の日の練習の時からいました……」

「え?そうなの?」

「あまりに……その、見ていてもったいないというか、まどろっこしいと言うか……」

「あ、見てられない状態だったのね……」


 私は頷く。


「後は、どうせなら堂々と近づいて探らないとわからなさそうと思ったのと……」

「と?」

「羽雪君があまりに面白そうな事を、楽しそうにやってるので思わず……」

「……え?」


「後はあなたも知っている通り、魔法を使えないフリをしてどれくらい魔法が使えるか、前世の記憶がどれくらいあるか探っていたの」


「あの……私の事……」

「好奇心は身を亡ぼす的な奴を現実で体験出来るとは思わなかったよ」

「うっ……」

「別に自衛のために色々やってて、俺を追い落とそうとか利用しようとかは思ってなかったんでしょ?」

「それは……そうね……」

「じゃぁいいんじゃない?」

「……いいの?」

「うん」


 全部話したら責められるかと思ってたら別にそんな事は無かった……なんでだろう?この人はお人よし過ぎるだけだろうか?それとも私を利用したいだけなのだろうか?




 羽雪くんが優しい雰囲気から怖い雰囲気にきりかわる。顔がなんか固まって真面目な感じがしてやや怖い感じになった。


「それよりも大事な話がある、前世の記憶が完璧にあるんだよね?」

「う、うん」


 な、なに?前世がなんか関係あるの?ちょっと今までに無い、羽雪くんこのやたらと真面目な雰囲気になってしまったのは何?


「そっ、その、つ、付き合ってた人とか、けっ、け、結婚とかしてたの?」



 私は一瞬、質問の意味が解らなかった。



「……えっ?……はい?……あっ、やっぱりそんな感じで……ああ!」


 が、一瞬で色々と理解してしまった。私は恥ずかしくて顔を覆ってうつむいてしまった。人生で一番恥ずかしい。羽雪くんは鈍感すぎてあれだけど、これって私の事を好きって言ってるのと同じ事じゃない!私も前世で鈍感とか恋愛音痴とか言われてたけど、それでもわかるよ!

 恥ずかしいけどこれは答えなければいけないかな……覆ってた手の隙間から羽雪くんの表情を伺う……う、思いっきり目が合った。恥ずかし過ぎる。


「……えっと……答えた方が良いのかわからないけど……」

「教えてほしい」

「う、うん……その、慕ってる人はいたけど……その、いろいろと経験する前に転生したの……」


「転生してもう17年も経つから…………」


 恥ずかしい、そしてレビィごめんなさい!あ、過去の人扱いになってる。いや、もう過去の人なんだよね……実際。手の隙間からチラッと羽雪くんを見ると顔が物凄い幸せそうで微笑んでいた。

 私は内心ちょっとイラっとした。顔を隠すのをやめて思わず突っ込んでしまった。


「……ものすごくうれしそうね……」

「……かなりうれしいかも……」

 

  あ、でも……気持ちは嬉しいけど、私の邪神の残滓のせいで色々と出来ないんだった……子供が出来ない人と付き合うのは嫌だよね……もちろん、その、行為も危険だから出来ないし……あれ?こちらの世界だと価値観違うから大丈夫か?


「……あの……気持ちは嬉しいのだけども……その、あたし……」


「……だめなのか?」


 先ほどの幸せそうな顔が一転してこの世の終わりのような悲しい表情をしてくる。


「ああ、そんな顔しないで………そのっ、この黒いモヤがあると、こっ、子供が出来た時に移っちゃうの!」

「え?子供?」

「私が死んだら、子供に移る呪いみたいな感じで……」

「あ……ああ……」


 私は何を口走ってしまったのだろう……言わないつもりだったのに!


「それ、親父さんから移ったものなのか……でも転生してるのに……?」


 言ってしまったら私はちょっと落ち着いてきた。胸に手を当てて答える。


「……ふぅ……魂への束縛……だって、転生してもヤッパリ付いてきたって感じ」

「末代まで呪う的なやつか」

「この世界だとそう言うのもあったね、そんな感じだと思って」

「それじゃその黒いモヤを何とかすれば問題無いんだね?」

「……そうだけど……無理だよ、前世の知識を総動員しても無理だし、呪った神様を何とかしないとダメだと思うのだけど、呪った神様この世界にいないし……」

「……俺がこれから頑張って記憶を取り戻して浄化の力が上がれば……ワンチャンスあるかな?」

「……わからない、分からないけど浄化の力……は可能性はあるかも……」

「それじゃ、これから頑張ってみようか」


「うん……あれ?わたし……こんな話をしに来た記憶がないんだけど……」


 懺悔に来て断罪されるつもりで来たのに告白されてしまった気分だった。

 いや実際にそうか……あれ?わたしも邪神の残滓消してくれたら、付き合ってもOKと言ったようなものなのか?あれ?どうなの?誰か助けて!




 私の精神が落ち着いてからしばらく会話した。私がこの世界に来てから経験してきた事や、羽雪くんがまだ知らないこの世界での魔力情報を教えた感じだ。

 ただ、浄化に関しては良くわからない事だらけだったので、これから一緒に実験していこうと言う事にまとまった。


 そんな感じで話し込んでいる内に日も暮れてきたので途中まで他愛のない話をしながら一緒に帰り別々に家路についた。まだまだ話足りないけどこれからだね。



 私は家に帰るといつも通り家事をして家族と過ごしいつも通りにベッドに入った。私は帰ってこれた事を神に感謝した。行くときは死ぬのも視野に入れて行ったのに、帰ってきたらなんか婚約して帰ってきた気分だった。

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