賢者 家族が大変になる

 家に帰ると、ママがソファに寝込んで倒れていた。弟と妹も調子悪そうにベッドでぐったりしていたり床にべたっと寝ころんでいた。あ、これなんかウィルス系のやつかな……


「琴ちゃん?おかえり……なんか身体が動かなくて……」

「ねぇちゃんなんかだるい」

「私も動きたくない」


 皆の熱を測ると、39度前後の高熱になっていた。私は慌てて3人をベッドに連れて行き、今日分の飲み物とゼリー系の食べ物を買ってきた。時間も時間なので、病院は今はもう空いていない。月曜の午前中にみんなで病院行くしかないか、それまでは頑張って耐える?救急車を呼ぶほどではなさそうだな……家族の面倒を見たり家事をしていたらあっという間に夜中になっていた。段々と私の体調も悪くなってきている感じがする。これはヤバいかな……1,2日で治ればいいんだけど。


 翌日になるとだるくて動きたく無くなっていた。ママの方が酷くて動け無い感じだった。いつも元気な弟と妹もベッドから動こうとしない。私の方が割とましな状態だった。最低限の家事をして、今日分の飲み物や軽く食べられる物を買ってくる。明日の朝までしのげればいいものね……

 

 買い物から家に帰ると、羽雪くんから連絡が来る。


【今日の午後は暇?練習しようかと思う】


 体調悪くなければ行きたいのにな……断りの連絡を入れる。


【今、家族が大変な状態、今日無理、ごめんね】




 月曜日の朝……私もかなり朦朧としていた。とりあえずかなりしんどそうなママに代わり小学校にお休みの連絡を入れる。そのあとも動きにくくてたまらない。ただ、家族の方が症状が悪いらしく動かせない感じになってしまった。私も部屋に戻るとしんどくて寝てしまっていた。起きてもまだ熱が下がらないな、時計を見ると3時を回っていた……困ったぞ……家族を動かそうにも全員がダウンしてしまうと動けなくなるのね……私だけ病院に言って全員分の薬をもらってきた方がいいのかな?おそらく抗生物質系の何かがひつようそうなんだけど、どうだったっけ?頭がまわらなくなってきた。あ、病気ようにかったすぽーついんりょうすいがきれた。買いにいかないと。


 私はもうろうとしながら自転車にのりスーパーでかいものをして自転車に荷物をつんだ。帰ったらきゅうきゅうしゃかな?これはだめだ……私は突然、髪の毛をうしろにひっぱられたかんかくをうけた。耳元で「こっちだ!」と男の人の声がきこえる。


「大丈夫か?」

 

 ちかくでうゆきくんのこえがきこえた。おもわずぶれーきをしてとまろうとしたらよろけてしまった。


「あぁ、うゆきくん……うつっちゃうからだめだよ」


 うゆきくんにだきかかえられてしまった。あたまがまわらない。


「いいって、俺には能力あるでしょ」

「あぁ……きくのかな?」


 うゆきくんがいろいろやってくれているようだがあたまがまわらなくて……あれ?なんかあたたかいながれがわたしのなかにはいってくる?



「あれぇ……あたたかい……」

「やっぱり大丈夫か……」

「あん、うふぅ……あっ……」


 なにこれ、物凄い気持ちいい。ビリビリしない。あれ、痛みもなくなって、頭も物凄いスッキリする。


「大体治ったみたいだけど、全部は治らないみたいだね」


 おお、なんかすごい。完全に治ったように思えるのだけど、私は驚きを隠せなかった。


「すごい、意識がはっきりするし、ひどい腹痛ないし、熱も引いた感じがある……ありがとう……」


 あれ?何か……私は自分の手をみると、がっしりと羽雪くんに握られている事に気が付く。あ……なんか物凄く恥ずかしい。しかもなんか抱きかかえられている。しかもなんか優しく手をにぎにぎしてくる……滅茶苦茶恥ずかしい。


「えーと……凄いありがたいんだけど、そろそろ手を離してくれると嬉しいかな……」

「ああ、ごめん……」

「そ、それじゃ、ありがとう、これならちゃんと帰れるよ」

「あー、家族は大丈夫なの?」

「うーん……ちょっとつらそう……家族全員なっちゃって……病院に行けないくらいだったんだ……本当に悪いと思うけど家族も治せたりするかな?」

「もちろん」

「多分、うちの母親だったら……ちょっとくらいバレても大丈夫だと思う」

「?」


 うちの家族だったらもう既に、私の氷の魔法やら、転生者である事を知っていたりで隠す必要性が無くなっているから大丈夫だろう。ほんと羽雪くんはお人よしだな……交換条件も何も無いのに私を助けてくれる……ん~もしかして私に惚れているとか?……どうなのだろう?




 家まで付くと、羽雪くんがおや?と言った表情をする。あ、そうか母子家庭になっているのを知っているのか。普通の母子家庭はこんな一軒家に住めないものね。今更ながらパパに感謝。


「あ、鈴ちゃんから聞いてるか……うち、3年前にパパが事故で死んじゃって……その前に家買ったから……なんか住宅ローンが死ぬと借金が無くなるだかで……それで何とかなってるみたい」


 羽雪くんがあれ?なんで思ってる事わかるの?と言った表情をした後、停めた自転車の前後のカゴから荷物を取り出して持って来てくれる。


「ありがとう、助かるよ」

「おう……これ女の子が一人じゃきついんじゃ……」

「乗せるの大変だったよ……買い物中に段々具合が悪くなってきて……あの状況じゃ無くても大変かもね……」


 さすが男の子、軽々と持っちゃってる。私一人だとちょっときつかったな。体調悪いと言え悪い判断ばっかりしてたかな……


「ただいま」

「おじゃまします……」


 わたしたちは買い物袋をもってキッチンに向かい買ってきたものを冷蔵庫に入れる。中身のない冷蔵庫を見られて恥ずかしい。これだと普段家事をしない家みたいにみられちゃう……


「いつもは日曜日に1週間分買い出しするから……日曜日に病気で倒れると大変なの……」

「なるほどね……」

「あ、感知でウイルスとか判別出来たりするの?」

「あ、ちょっとやってみる」


 羽雪くんが魔力感知を走らせる。


「そこまでは感知出来ないみたい。与謝峰さんの体調がまた悪くなり始めてるかも」

「なるほど……ちょっと体が重くなってきたと思った」

「どうすればいいんだろ?」

「おそらく、現在の所はウィルスは魔法で治せない、体力とか体の悪い所は治せる……となると、羽雪君に家族を治してもらったら直ぐに病院に行って抗生物質とか貰って帰って来て、そこから治療……かなぁ……」

「わかった」


 私は買い物袋からマスクとアルコールスプレーを取り出し羽雪くんにマスクを着けアルコールスプレーを体中に吹き付ける。


「それじゃついてきて」


 私と羽雪くんは2階のママの部屋に入る、私たちに気が付いたのか辛そうなママの声が聞こえる。


「……琴ちゃん?……お客さん?……ダメよ……家に入れちゃ……」

「ママ、ちょっとそのまま横になって、大丈夫だから」


 起き上がろうとするママだったが再び横になる。私がそこら中にアルコールスプレーを吹き付ける。これで羽雪くんには伝染らないといいんだけど……


「……あなたの事だから、またなにかやってくれるのかしら……」

「ふふっ……羽雪君お願い出来る?」

「わかった、それじゃすみませんが手を握りますね」


 羽雪くんがママの手を握り、魔力感知を行い魔力を流しはじめる。


「あ、ああっ、あたたかい……?」

「んふぅ、ああん……」


 えっ?顔色はどんどん良くなってきているけど、ママはなんでこんな色っぽい声を出しているの?もしかして回復魔法系を流されると気持ちよくなってこんなになっちゃうの?あれ?これってもしかして、さっきの私もこんな声出してたって事か……


「う、羽雪君……私は他から見るとこんな感じだったの??」

「うん、みんなこんな感じで気持ち良い感じになるみたいよ」

「……次からは気を付ける」


 ママが目をぱちくりとさせ、手足をキュッキュッと動かす。そしてそのままベッドの上で上半身を起こす。


「どう言う事、これ?……相変わらず不思議な事をしてくれるのね……」

「とりあえず病院が閉まる前に病院に行こう、おそらく抗生物質系が無いと治らないみたいだから早く準備して」

「……うん、わかったわ」


 ママが立ち上がりクローゼットに向かう。


「羽雪君はこっち、弟と妹もよろしくね」

「おっけ」


 羽雪くんが弟と妹を同じように治すと、私は二人を病院の行く支度をさせる。早めにいかないとまた体調が悪くなって大変になるからだ。二人をやや強引に着替えさせリビングに行くと二人の話声が聞こえる。


「あの子とお付き合いしてるのかしら?」

「……っと……クラスメイトです」

「え?そうなの?あの子が心を許してるからてっきり彼氏かと……」


 この緊急時にそんな話を!と思いつつ私は物凄く恥ずかしくなりながらリビングに突入する。もう、ママの天然ボケ!


「ま、ママ、母子手帳の準備は?」

「ちゃんとしてあるわよ?」

「それじゃぁ、また体調悪くなる前に早く病院行こう」

「え?ねぇちゃん、オレ治ったぞ?」

「私ももう、痛くないよ?」

「えっとね……お兄さんがちょっとの間だけ痛くならないおまじないしてくれただけだから、すぐに悪くなっちゃうの、だから病院に行かないとダメなの」

「えーじゃぁ、兄ちゃん家にいればいいじゃん」

「お兄さんにも予定あるの!さ、いくよ!」

「え~」

「あれぇ?おねーちゃん顔赤い」




 私は全員にマスクをつけさせて家族で病院に向かう。熱が無くなって元気な状態で診察受ける……とか難しそうだけど、おそらくウイルス検査をすると引っかかるだろうからなんとかなるかな?しかし、とてもさっきまで39度近い熱を出して寝込んでいたとは思えないな。


 病院に付くと看護師さんに経緯などを話し、別室に案内される。念のためウイルス検査をするとやはり全員が陽性。高熱状態じゃないのに珍しい例だと驚かれるが、しっかりと治す薬を出してくれた。さてこれでしばらく安心……だけど外に出られないし学校にも行けない……魔法の実験も出来ないなぁ……つまらない。




 私は家に戻り、ひと段落したところで今日の出来事を整理してみる。

 私の大事だった人、リビィが転生してきた線は消えた。浄化魔法も回復魔法も使えなかったからだ。たしか自己回復力を上げる事は出来たが、今回みたいに他人を回復させるような芸当は出来なかったはずだ。

 後は他人を治す魔法と言うのは消費魔力が尋常じゃなかったはずだ。おそらく前職が回復職?か女神の恩恵を受けた何かしらの職業だったのだろう。その割には体術も魔法も物凄い……一体どうなってるんだろうか?


 とりあえず羽雪くんにお礼のメッセージ送らないとな。


【今日は本当にありがとう、家族全員助かりました。病院で検査をしてもらって全員ウィルスの陽性反応が出たんだけど、熱が出てないから不思議がられたよ。お医者さんからはちゃんと処方箋が出たので抗生物質を飲んだ上に3日ほど家から出てはだめだって、しばらく外に出れないからストレスたまりそう。元気なだけだけに兄弟たちも不満爆発しそうだよ】

【羽雪くんも殺菌とかがんばってみたけど、体調悪くなったら気を付けてねおそらく同じウイルスだと思うから。何か体調が悪くなったら呼んでね】


【家族が治りそうでよかったね。しばらく一緒に練習出来ないから残念だよ。とりあえず一人で出来る範囲でやってみるよ】


【私も行きたいんだけどうつしちゃうからね。あ、そうだ、家の家族については不思議な事に慣れてしまっているので絶対に喋らないと思うから安心して」


【うん、わかった】


 なんとなくメッセージを読んでニヤニヤとしてしまう。私に会えなくて残念……と読み取っていいのだろうか?

 うーん、前世の記憶があるから複雑な感じだが、今の私は浮気してる訳ではないけど変な罪悪感の様なものもある。

 このまま羽雪くんと……あ、ダメだった、私は子供が出来たとしたらおそらくそっちに邪神の残滓が移ってしまうのだった……私は魔力コントロールと言うより魔力を出さないすべがあるから何とかなるけど子供だったら……おそらく飲み込まれてしまうだろう。ちょっと恋愛脳になり過ぎていた。反省せねば……


「まぁ、仲良くなる分にはいいよね……」




 それからは家族で家でまったりと……過ごしたかったのだが、半日もすると妹が外に行きたいとごね始めて大変だった。弟もこっそりと抜け出して遊びに行こうとするし……ママはママで楽しそうにお菓子作りに没頭するし。家でも仕事出来る環境なのにここぞとばかりに満喫している。




 そんなこんなで丸三日が経ちやっと通常の生活に戻れる事となった。私が久々の登校の準備をしていると、ママが私に綺麗にラッピングされたパウンドケーキの様なものを渡してくる。


「え?どうしたのこれ?」

「羽雪くんへのお礼よ。フフフッ。しっかりと渡してね」

「あーいいなー私も欲しい!」

「あー彼氏へのプレゼンとか?」

「もう、あなた達は食べたでしょ~」

「彼氏じゃない!分かったわ、渡しておく」

  

 朝から家族が騒がしい。やっと日常に戻ってきた気がする。

 久々に鈴ちゃんと待ち合わせをして学校に行く。病気で大変だった事などの話しをした。教室に着くと羽雪くんと海斗君がいつも通りに談笑している。なんかいいなぁ……日常って、と思い目が合ったので軽く手を振っておく。


 昼休みになるとママから貰ったお礼のパウンドケーキいつ渡そう……と思ったが早く直接話をしたい気分だったので羽雪くんの所に渡しにいった。学校から家に持って帰った方が荷物にならないしね。


「羽雪君……えっとね……うちの親がありがとうって、これを……」

「お、ありがとう、気にしないで良いんだけどなぁ……」

「私から別にお礼するから良いっていったんだけど……自宅待機中に暇だったみたいでお菓子とか色々つくってたの、作り過ぎたから持ってけって」

「その後、家族はどうだったの?ぶり返さなかった?」

「大丈夫だったよ。弟達ははすごく元気なのに家にいなければいけなかったから、すごいうるさかった……元気そのもの」

「あーそれは良かったんじゃないかな?」

「うん」


 なんとなく優しい雰囲気なのを思い出して私は軽くにやけてしまう。


「え、えっと……何があったか教えてくれたり……しない?」


 鈴ちゃんがちょっと慌てたような感じで私たちの会話に入ってくる。


「ああ、3日か……4日まえ?俺が〔ポンキホーテ〕に用があって行ってみたら、ヘロヘロになってる与謝峰さん見つけて、荷物持って行くの手伝ったりしたの」

「……鈴ちゃんごめんね、手伝ってくれるって言ったのに……大丈夫だと思って買い出しに行ったら急激に私の様態が悪くなっちゃって……」

「……なるほどね」

 

 鈴ちゃんがじっと羽雪くんを見る。私も羽雪くんに目配せをしてみるがなんか伝わって無い。そんな私たちを海斗君が生暖かい目をして見ていた。

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