賢者 日曜日をがんばってみる

【疲れて寝てた、直ぐに返信出来なくてすまん。全身筋肉痛が酷くて動けない……】


 朝一で羽雪くんから返信が来る。そうだよね、魔力使い過ぎで寝ちゃってたよね……


【おはよう、やっぱり寝てたのね、前回みたいに酷いの?お大事に。今日の練習は無理かな?】


 返信が早い!なんか物凄くうれしい!


【前回も午後からは動けたから午後には練習しようと思う。今日も来るの?】

【行きたい!】

【それじゃ前回と同じ場所でやろうか、現地待ち合わせで良いかな?時間は何時くらい?】

【分かった、2時くらいには行けると思う】

【あ、さすがにあそこは人気ないから女の子1人だと危険か……2時にコンビニ前で】

【ありがとう、気遣い感謝!楽しみにしてるよ!】


 あれ?なんで私こんなにウキウキしてるんだろう?


 私がウキウキした感じで午前中に家事を片っ端から片付けて行くとママが話しかけてくる。


「琴ちゃん、なんか良い事あったの?身体から嬉しさがにじみ出ているわ」

「えっ?」


 私の顔が一瞬で赤くなるのがわかる。あれ?物凄い恥ずかしいんだけど。


「フフフ。琴ちゃん、午後からはお出かけかしら?」

「う、うん」


 なんか色々バレてる気がするんですが、なんででしょうか?


「それじゃ、今日は私が可愛い娘のために、ちょっと腕を披露しましょうか?」

「えっ?」


 私はしばらくママのおもちゃになって色々と小奇麗にされてしまった。ママのコスメ技術はなんかすごかった……

 それから私は余裕をもって待ち合わせ場所のコンビニにいく。


「ごめん、遅れた」

「ん?まだ時間前だよ」


 羽雪くんが急い出来た様でちょっと汗をかいていた。時間に間に合わせるために急いでくれたんだなぁ、と思おうと思わず微笑んでしまう。羽雪くんが私を見ていつもと違う表情をする。ちょっとおめかししてる感じだから気づいちゃうよね……


「?へ、変?」

「……あ、いやそんな事は無い……似合ってるよ……すごく……」

「そ、そう、お母さんがなんか色々やってくれちゃって……」

「あぁ……それはいいお母さんだね」

 

 ストレートに褒められてしまってなんか照れてしまう。羽雪くんの顔を見れなかった。


「それじゃ行こうか?」

「うん、あれ?筋肉痛は治った?早くない?」

「それは後で話するよ」


 昨日暗い魔力を使って動いたら、物凄い筋肉痛になると思ったのだけれども、今日はそんな事が無く普通に動いている。もしかして自己回復魔法も使えたりするのだろうか?まぁ、後で聞けば問題無いか。


 廃工場に付くと、羽雪くんが目を閉じて手を広げて魔力を放っている。魔力感知をしているのかな?


「今、魔力感知したの?」

「そう、よくわかったね」

「目を閉じて、手を広げてるからすぐわかるよ」

「え、そんな事してたのか……」


 羽雪くんがちょっと恥ずかしそうにしている。魔法はイメージ力が大切なので別に変ではないと思うんだけどな。


「そう言えば、羽雪君は魔法を使ってなにがしたいの?目的によっては何の練習するかとか実験内容とか、変わってくると思うよ」

「……正直、突然使えるようになったから良くわからないってのが正解かなぁ……そこまで目立ちたくは無いのでひっそりと便利に楽に暮らしたい」

「今だったら億万長者とか狙えると思うけどなぁ……」

「うーん、身の丈に合わない事やると失敗が多くなる……」


 達観しているなぁ……と私は率直に思った。欲が無いと言うより幸せに暮らしたい人なんだろうな。


「そう言う与謝峰さんは魔法が使えたらどうしたいの?」

「んー、使えたら面白いかなーと思うけど、私もあんまり目立ちたくないからひっそりと使うかなぁ……」

「へぇ~、なんか俺たち似た者同士だな……」

「へへっ……」


 思わず照れてしまう。私も似たような思想でした……


「そう言えば、筋肉痛はどうしたの?もしかして回復魔法的なやつ出来ちゃった?」

「あ、そうだった、なんかそれっぽいの出来たよ。魔力流して、体よ!元に戻れー!的なイメージ流したらずいぶん軽くなった」

「自然治癒が早くなる感じ?」

「そんな感じかなぁ……?」

「他人には使えるのかな?って実験はまだか」

「うん……さすがに怪我してる人なんて早々いないもんなぁ……」


 話を聞いて私は肩から下げてるバックにしまってあるカッターナイフを取り出し刃をチキチキと出し始める。これで私の指とかを軽く切って治してみればわかるよね。


「!ま、まった!だめだめ!」

「え、ちょっとだけなら頑張るよ!」

「治らなかったらどうするの、結構痛いと思うんだけど!」


 羽雪くんは慌ててカッターナイフを私から取り上げ刃を元に戻し私ののバックに押し込む。なんか過保護な感じだなぁ……


「んー……私で練習しないとなると……怪我とか病気した人探す……病院に行ってこっそり治す……とかかなぁ……身バレしないでやろうとすると大変だよ?」

「だからって与謝峰さんで実験はしないよ、心臓に悪い」


 私は思わず羽雪くんをからかってみる。


「え?そんなに大事に思ってくれるの?ありがとう」

「お、おう……」

「……え?」


 あ、あれ?そんな反応されるとちょっと困るんだけど……軽口で返してほしかったんだけど、鈴ちゃんみたいにうまく行かないなぁ、なんでだろ?


「あーそうだ、錬金術出来るか試したんだけど……」

「!もしかして出来たの???」

「それが上手く行かなくて、その代わりと言っちゃなんだけど、念動力と言うか、テレキネシスっぽいやつは出来た」

「?錬金術からなんでテレキネシスになるのかがわからないかも……」

「鉛筆の芯から炭素を引っこ抜いてダイヤモンドにしようとしたら、鉛筆の芯だけ吹っ飛んで行った」

「ああ、鉛筆の芯が引っこ抜けるイメージをしたから飛んで行ったのね」

「多分そう、んで色々なものを浮かしたり飛ばしたり出来るのも実験して成功した」


 羽雪くんはそう言いながら手近な石に向けて魔力を放ち宙に浮かせて見せた。何かすごいんですけど!ものを浮かせるなんてアイディアなかった!


「おお!すごい、浮いてる!」


 羽雪くんがにやりとした後、浮いた石をむき出しの土壁にめがけて物凄い勢いで飛ばす。


 ドォン!!!


「うおっ!」

「きゃっ!!」


 物凄い威力で着弾地点が吹き飛び土埃が舞い上がる。ああ、驚いた。やり過ぎだよ、羽雪くん……


「……物凄い威力ね……あっ……」

 

 私は今の爆音で人が来てしまうと思い、咄嗟に羽雪くんの手を引いて廃工場の建物の内部に入る。


「羽雪君、魔力感知して人が近づいてこないか確かめて」


 羽雪くんが私の手を握ったまま魔力感知を行う。手から私に魔力が流れたのか、私の体を電気が走ったかのようにビリビリと痛みが伝わる。


「ん、んんっ……」


 羽雪くんが私の声で気が付いたのか、慌てて私の手を離す。


「あ、ごめ……」

「ふぅ……ありがとう、なんかほんと電気でビリビリする感じがする……魔力ってビリビリする感じじゃないの?」

「そんな感じじゃないなぁ……なんと言うかこう……熱の流れが移動する感じなんだけど……人に使うと違うのかな?」

「うーん、私以外にも被験者が必要かな?」


 羽雪くんが再び魔力感知を行う。


「おそらく大丈夫、周りに人の気配は無いよ」

「それじゃぁ気を取り直して練習してみますか、しばらくは人が来る可能性があるから、ちょっとこまめに感知してくれる?」

「わかった」


 私は再び魔力を練るふりをしながら羽雪くんの様子を観察する。なんかもう、とっても面白そう。テレキネシス的な発想は前世では無かったので見るものがとても新鮮だった。ものを飛ばすよりも火の玉を投げた方が相手を倒せるし破壊出来るからそんなアイディアが無かった。ああ、私も使いたいなぁ……


「要するに目に見える範囲でエリア指定が必要…て感じか……」

「羽雪君、すごくおもしろそう……私はからっきしダメだねぇ」

「魔力感知してもうまく行ってないから、まだ駄目かなぁ……」

「はぁ……残念……やっぱり無理かなぁ……あ、他の魔法はどうなの?」


 羽雪くんが色々と話をしてくれる。


「時間や物の大きさを変えるとか、物理的に無理があるものは出来ない感じかな……後どうやってやればイメージが付かないものも無理っぽい」

「錬金術とかも?特定の物質だけ抽出とか出来ないかな?」

「その結果がテレキネシスだからねぇ」

「あ、そうか……オレンジジュースから水だけ抽出……とか出来るとなんか出来そうかもね」


 うーん、この世界で言うファンタジー小説に出てくるような魔法は無理かぁ、前世みたいな割とリアルな世界の魔法しか無理なのかなぁ?


「魔法で小さくなるとか、動物に化けるとか、時間を止めるとかファンタジー小説みたいな事出来るとよかったのになぁ……」

「それ、出来ちゃうと犯罪し放題だね、実際出来たらバレなさそうだし……」

「確かに……」


 しょぼくれる私を励ますためか、羽雪くんが雰囲気を変えて話しかけてくる。


「魔力流すのもう一度試してみる?確か、魔力の使い方を覚えるのはこれが一番早かったともうんだけど……?」

「あ、そうなの?……え?」

「へ?どうしたの?」


 あれ?今、魔力の使い方を覚えるのはこれが一番早かったと言ったよね?それってつまり、第三者がいて魔力を覚えたって事になっちゃうんだけど?自分だけでやっていたんじゃ他人に魔力を流すって発想ないものね。


「え……えーっと、今の言葉が本当……だとすると……」

「だとすると?」

「羽雪君は誰かに魔法の手ほどきを受けて覚えた……って事になるんだけど……」

「え?俺なんて言ったっけ……」

「確か、魔力の使い方を覚えるのはこれが一番早かった……って」

「……」


 羽雪くんがちょっと呆然とした顔をした後、頭を抱えてしまう。反面、私の頭は好奇心で一杯になってしまう。


「で、誰に教わったの?言えない感じ?この世界にも魔法が使える人沢山いるって事?一子相伝で伝わってるとか??」


「あーっと…………教えてくれた人はこの世界には居ないよ……」

「……え?……えっと……なんかごめんなさい……」


 あれ?もう死んじゃった人から教わったのかな?悪い事を聞いてしまった。


「あ、別に死んだとかじゃなくて……」

「?」

「言っても引かない?」

「んー聞かないとわからないかな……」


 うーん、やっぱり前世の記憶がある系かなぁ?


「教えて?私、口が堅い方だと思うよ?」

「……前世で教えてもらった……って言って信じる?」

「!!!!すごい!!……この状況だと信じられるよ、もう信じられない事を沢山見てきてるし」

「そ、そうか……」


 やった!前世の記憶持ちだ!さて後はどこから来たのかな?やっぱり私と同じ様な世界?それとも違う文明?


「やっぱり異世界からの転生なの?、この世界には魔法なんて無いよね?」

「え?」

「ん?……違うの?……?」


 異世界からの転生と言う鉄板ネタが通じなかった?明らかにわかっていない表情だ。あ……思わず異世界なんて言葉を使ってしまった……異世界モノのアニメやら漫画を見ていなければ通じない言葉だった……


「え、えっとね……そのね……そっち方面の趣味なんだけど……その、異世界のゲームの世界に転生するって言うジャンルがあって……それの逆なんじゃないかなぁ……と……」


 ああ、行ってる自分の顔が赤くなるのが分かる……


「あー……サッカーとゲームしかやらないから分からなった……」

「あの……友達とかに話しないでね……この事……」

「え?なんで?」

「……この趣味はカミングアウトしてなくて恥ずかしいの!」

「……あ、すんません、わかりました……」

「……あ……異世界じゃなくてこの世界の昔の話?」

「うーん、異世界だなぁ……この世界には居ない人種とか魔物とかいた」

「〔ポットの魔法学校〕みたいな世界?」

「あーなんか懐かしいな、あれみたいな近代的な感じではなかったな……魔法が便利なせいか、科学的な文明は栄えてなかったと思う」

「〔指輪の王様〕の方があってるかな?」

「〔指輪の王様〕……ごめん分からない……後で教えてくれる?」

「うーん……私がゲームの方詳しかったらなぁタイトル名とかわからないよ……」

「趣味がかち合わないと話が進まないねぇ……」

「ちょっとスマホで検索してみるよ」


 ああ、折角色々と話を聞けるのに、共通の知識が無いとこんなにもどかしいものとは!スマホの画面を見るとインターネットに接続されていませんの表示が……


「ここ圏外みたい」

「まじか」

「う~ん、帰ったらそれっぽい魔法世界の参考になりそうなやつ、集めて送るから見てみてよ」

「おけ」

「あと、異世界とか転生の話はスマホでしない方が良いかもね……浮かれて送ったのは私だけど、確かどっかにログが残って盗み見される……とか?あった様な気がする」

「それだと、直接会って話した方が良いって事か……」


 よし、今後も直接会って色々出来るね。向こうから言い出してくれてありがたいなぁ。そんな事をやっていると、気が付いたら夕暮れになっていた。


「それじゃ、色々途中な気がするけど家に帰るか」

「そうだね……なんか衝撃が大きすぎて眠れない夜になりそうだよ」

「……ああ、そう言えば、テストも近いし丁度いいんじゃない?」

「あ……完全に忘れてたかも……」

「……いつも成績良いから大丈夫……だよね?なんか成績下がったら完全に俺のせいじゃない?」

「首を突っ込んでるのは私の方だから気にしないで、ちょっと詰め込みなおし作業しないとダメだけど」

「……もう勉強終わってる感じの発言だね」

「それなりに頑張ってますから」


 家に戻り家事を終えて自分の部屋に入ると今日あった事を整理してみた。

 羽雪くんに前世の記憶がある事が確定。でもやってる事をみると、どうやらなんかボヤっとした感じに思い出しているみたい。転生前はこの世界ではない異世界なのが確定。この辺はちょっと色々聞きたい。なんかワクワクしてしまう。

 ちょっと色々質問したい事をまとめるか……聞きたい事があり過ぎて一日中質問し続けてしまいそうだ。


 スマホに羽雪くんからのメッセージが届く。


【〔指輪の王様〕がイメージに近いかも】


 お、やっぱりあんな感じの世界なのね。見た事も無い全くの違う生物だったらどうすればいいのかわからなかったものね。虫が進化した世界とか、アメーバたちが進化した世界とか……そっちだったらどうしようと思ってしまう。〔指輪の王様〕系だったら資料集められるね。さてと、ささっと集めて集めるとしますか。

 私は羽雪くん似たような映画の画像をメッセージに張り付けて返信をしておく。


【ありがとう、似た感じのはあるけどどれもちょっとずつ違う感じに見える】


 うーん、やっぱりちょっとずつ違う世界なのかな?


【分かった、細かい話は明日の放課後にでも】

【了解】

【それでは。お休み】

【おやすみ~】


 それからも私は、テスト勉強なんてそっちのけで、色々な資料を集めたり、自分の事がばれない様に上手く質問の構成などを考えていた。気が付いたらとんでもない時間になっていたので慌てて寝る事にした。

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