賢者 暗躍する

 翌日、鈴ちゃんと登校していると、今日も羽雪くんが前から、なんかカクカクしながら歩いてくる。なんであんな歩き方?海斗くんも一緒だ、荷物を持ってあげてるな……海斗くん優しい。


「おはよう!」

「おはよー」

「おはー」

「……おはよう」


 私は昨日の事があったのでちょっと警戒して声が小さくなってしまった。海斗くんのテンションが高い。海斗くんは鈴ちゃんの事好きだもんね。わかりやす過ぎる。


「相変わらず大きな声ねぇ~」

「おう、元気が取り柄だからな!」

「んで、隣の人は……なんか?元気?無さそう?なんでそんなに変な歩き方してんの?」


 鈴ちゃんのツボに入ったらしく羽雪くんを見て笑い出してしまう。


「優斗、秘密特訓したんだってよ!」

「あっ」

「えっ?!」


 羽雪くん、もしかして素直に海斗くんに話をしているの?隠してないのかな?


「うっ、単に全身筋肉痛なだけだ……」

「あはっ!おっさんみたいだね。うちの親父みたい」

「うっせ……」


 私は普通に疑問に思う範疇で質問をしてみた。どんな答えが返ってくるのだろうか?


「確か、羽雪くんは普段から運動してるよね?どれだけ運動すればそんなになるの?」


「あっと……魔り、いや、筋……いや、……くっ」

「何言ってんか分からないよ」

「黙秘権を行使します」

「秘密特訓じゃぁしょうがないね」

「だなぁ……」

「……そうね」

「くっ……」


 うーむ。冗談でケムに巻かれてしまった。ストレートに聞くのもなんだし、もしかしたらあちらの世界からの追手の可能性もある。もうちょっと慎重にいくか。



 学校で授業をしていると、教室内で突然の魔力反応に驚いてしまった。何事かと羽雪くんを見ると、あれ?何やってんのあの人?もしかして魔力循環トレーニングじゃなかろうか?こんな人の沢山いる所でやるとは……これはどうやら前世の記憶が無くて魔力に目覚めたとか、記憶がかなり曖昧な状態なんじゃなかろうか?記憶が完全なら授業中に練習なんてしないだろうし、そもそも他の魔力持ちが居たら気が付いてくださいと言っている様なものだ。これは後でこっそりと話しかけてみるか?

 羽雪くんをじっと見ると、突然羽雪くんがあたりを見回し思いっきり目が合ってしまう。あれ、気がつかれたか?違うか、馬鹿な事をやっているのに気が付いた感じかな?


 放課後になると今日も羽雪くんがいそいそと帰宅する。確かサッカー部だったんじゃなかったっけ?そう思いながらも家に帰り自転車で今日の夕飯の足りない食材やらを買い出しに行く。

 買い物を終えて家に向かおうと思うと、また魔力っぽい反応が高速で移動していた。私は買い物かごに荷物を入れて反応のあった方向に急いで自転車を漕ぎ出す。


 以前とは違う裏山の空き地に羽雪くんがいた。今回は自転車を隠す場所がちょっと無いぞ……木陰に隠しておくか。



 遠くに見える羽雪くんがストレッチのようなポーズをして独り言を言っている。


「さてっと。始めますか」


 羽雪くんが何やら魔力を使って何かをやっているようだが遠すぎてわからなかった。魔力もそんなに感じないので威力を小さくしてやってるのかな?もうちょっと近づいて見てみるか……

 おっ?石がはじけ飛んだ?風の魔法でもつかったのかな?私はさらに距離を詰めてみる。羽雪くんが一瞬周りを見渡す。一応警戒してるのかな?なんかだるまさんが転んだをやってる気分になってきた。


 そんな事を思っていると、今度は小さな火をコントロールして曲芸の様な色々な形状の炎を見せる。あーこれ凄いかも。良いなぁ、魔力を使えるとかなり遊べるなぁ。現代知識と混ぜたらほんと色々な事が出来そうだ。私もやりたいなぁ……でもやったら邪神の残滓が出てきて……くぅ、ジレンマだ。


「んー、わからん」


 何がわからないんだろう?ああ面白そうだ。しばらく色々考えているのか羽雪くんが全然動かなくなった。これは、あれね。話しかけて探った方が良いパターンだね。ダメだ、私の好奇心が抑えられない。羽雪くんは多分良い人だ!耐えきれなくなった私は思わず話しかけてしまった。


「ねぇ、もう終わり?もっとなんかやらないの?」

「へ?」


 羽雪くんが尋常じゃない速さで私の方に振り向いた。あ、滅茶苦茶驚いてる。私はしばらく気配消してたもんなぁ……思ったより可愛い感じなのね。


「あーえーっと、何故……ここに?」

「秘密特訓とやらが気になってね。遠くの方で羽雪くんがスゴーイ勢いで自転車漕いで行くからちょっと尾行しちゃった。ごめんね」

「……あ、いや、これは、その……」

「超能力って……やつ?風が突然起きたり火が踊るように動くし、なんか凄かったよ」

「……あの、どのあたりから見ておられたのでしょうか?」


 羽雪くんの様子がちょっとおかしいな。軽く冗談入れた方がいいかな?私は羽雪くんがやっていたストレッチポーズを真似する。


「さてっと、始めますか。からかな?」

「それって最初からじゃん!」


 あ、いつもの羽雪くんに戻ったかな?思わず私は笑ってしまう。今だったら質問したら言い訳も考えてなさそうだから色々聞けるかな?


「そうだね、で、なに?超能力?マジックだどしたら説明が付かない状況だと思うんだけど?いつから出来たの?授業中もなんか、こう……念を溜めるみたいな事してたよね?」


 ちょっと困った顔をしながら、羽雪くんが答えた。


「昨日から突然使える様になったからよく分からない、が正解」

「……突然目覚めるものなのね、超能力って……」

「そうみたいだね、俺もビックリしてる所」


 やはり突然目覚めた系か、色々とおかしいところが多いもんなぁ?あれ、羽雪くんが固まってる。熟考に入ったのかな?うーん。もっと色々喋ってほしいんだけどなぁ?あれ?顔がなんか真面目な顔になった?あれ?また緩んだ?人間百面相みたいになってるな。

 

「んーどうしたの?黙っちゃって?なんか悪い事考えてる顔してるよ?」

「え?え?悪い事ってどんな?」


 羽雪くんが物凄く慌て始める。あ、なんか可愛いな。からかっちゃおう。私はわざとちょっとあとずさりする。


「た、例えば、動くと撃つぞといいながら、え、えっちな……」

「な、無い、無いから、そんな事、そんな卑怯な事しないから!」


 なんか鈴ちゃんの気持ちが分かってきた気がする。羽雪くんは反応が面白くてかわいいのね。あれ?目線が私の胸に……


「!目、目線が……」


 私はオーバーに更にあとずさりする。言ってた事にちょっと恥ずかしくなって顔をそむけてしまった。


「あー悪い、思わず……違う違う、そんな話じゃ無くて、この能力が世間的にバレると俺が危うい、モルモット的な扱いになるとか、よくわからないところに連れて行かれて見せ物にされるとか……」

「んーそれは嫌な感じだね。確かに世にバレたら大変かも……その割には無警戒、無計画な事してるように見えるなぁ?昨日の爆発騒ぎもあなたでしょ?」

「……え?」


 ああ、これは全然だめだ。無計画、無警戒で行き当たりばったりな感じだ。質問しても私が見た以上のものを得られそうにないなぁ……


「はぁ、やっぱりそうなのね。あれ?今朝の筋肉痛と話しが結び付かない?その超能力を使うと筋肉痛になるの?あまり関係無さそうに見えるけど?」

「あ……ぅ……」


 うーん。困った。羽雪くんが小動物に見えてきた。さてどうすれば上手く聞き出せるかな、そう思いながら羽雪くんをじっと見てみる。視線に耐えられなくなったのか、羽雪くんの目が逸れる。


「……魔力を身体に使うと身体能力が増すんだよ。調整が上手くいかなくて全身筋肉痛」

「魔力……超能力と言うより魔法?でも呪文とか唱えて無いよね?」

「呪文?唱えると言うより精霊の力を混ぜる感じ?みたいな感じ?」


 魔力?精霊の力?あれ、これは私と似た世界の住人だったのか?もしかして同じ世界の住人だった?それとも実は現代でも魔法の力が存在していたのかな?どちらだろう?あ、そもそもこの世界の精霊の存在が私にはわからない、見えるのかな?


「えっ?精霊、精霊がみえるの???」

「あ、残念ながら見えない、火のイメージとかだよ」

「……なんだぁ……ん?精霊が見え無くても大丈夫なら、私にもその魔法使えるの?」

「それは分からない、色々実験しないと……」


 ああ、なんだ、精霊が見えるわけではないのか、どうしようかなぁ……あ、魔法使えないふりして色々探ってみるか。羽雪くんのお人よしさに付け込まさせてもらおう。そっちの方が面白そうだね。


「……それじゃあ決まりね、明日から教えてね」

「えっ?……明日は同好会に出る予定なんだけど……」

「明日はダメか……じゃあスマホの連絡先教えてね」

「……あのぉ?、断る選択肢は?」

「ん?……口止め料?かな」


 思い通りの展開に思わず顔がにやけてしまう。私が出来なかった魔力を使っての色々な実験とか出来ちゃったりしそうだな。ああ、なんて楽しいんだ。 


「……それじゃ、絶対に人に話さない事、家族にも親しい人にもね。俺もまだ誰にも話をしてないから誰かに話せば直ぐにわかる」

「あれ?海斗くんと鈴ちゃんには話してないんだ?」


 秘密特訓とやらの内容は話してないのか、って事は二人だけの秘密状態か……あの秘密特訓と言う比喩は冗談だったのかな?


「海斗はともかく、なぜ鈴香?」

「?……ふぅん?そうなんだ」


 あれ?鈴ちゃんとなんかしっかりとつながっている感じに見えたけど違うのかな?うーん他人の恋愛関係はよくわからないや……


「なんか変な勘違いしてるっぽいけど、あいつら相思相愛だから!」


 あれ?鈴ちゃんって羽雪くんの事が好きってわけじゃなかったの?あれ、鈴ちゃん海斗君の事が好き?確かにそれなら相思相愛?え?ほんとに?


「えっ?あれ?……そ、そうだったの?……あたしもちょっと勘違いしてたかも?」


 そんな話をしていると辺りが暗くなってきた。


「あ、そろそろ暗くなって来たから帰ろうか?」

「あ、買い物途中だった……」


 しまった、夕飯の支度遅れる。私はちょっと急いで自転車に戻って漕ぎ始める。


「それじゃあまた!」

「……おぅ」


 帰り道に自転車をこぎながらちょっと考える。どうやら羽雪くんは世界を渡って私を追ってきた追手か何かとは考えにくい。魔力が使えるので何かしらの記憶が持っている可能性が高いが、明らかに現代人が魔力を突然得た感じ、と言うのが一番近い気がする。あとは彼はお人よしで接しやすい人だった。こちらのからかいにも乗ってくれてなんか可愛い。鈴ちゃんの事を好きな感じもしないし、鈴ちゃんと海斗君が相思相愛と言うのならもうちょっと距離を詰めて色々やっても問題なさそうだな。

 私は明日からまた面白い事が起きる事が確定し、楽しくて待ち遠しくなってしまった。私の代わりに魔法を使ってやりたいと思ってた実験を色々としてもらっちゃおう!



 家に帰ってから夕ご飯の準備やら兄弟の面倒を見つつ色々とネットで検索をしてみる。もしかしたら羽雪くんみたいな人が続々と出現してきている可能性がある。もしくは、羽雪くんの知り合いやらがもうすでに色々と活躍しているかもしれない。そんな期待と不安を入り混じらせながらいろいろと調べると……なんと言うか、オカルト、カルト系のページばっかりがヒットした。あとは異世界系の小説やらなにやら……要するに現実では今のところネットに上がるような事件が起きていないって事だね。


 先ほど教えてもらった羽雪くんの連絡先に早速メッセージを送ってみる。なんか楽しいな。


【ネットで魔力、身体強化を調べて見たけど、ヒットするのはゲームばっかりでちょっとうんざり気味。現実では目立ったニュースとかは無いみたいね。現実であるのはいかがわしい宗教系だけだね。純粋な魔力の現象は羽雪くんだけみたいね。】


 直ぐに羽雪くんからメッセージが返ってくる。


【助かる、ネットで調べるの忘れてたわ】

【どういたしまして、ネットで情報を探すのは基本だと思うよ。明後日の土曜日は時間あるかな?速く実験してみたいよ】

【明後日の午前中はフットサルがあるから、それが終わったらで良いなら良いよ】

【それじゃ土曜日よろしくね。楽しみにしているね】


 ああ、早く土曜日にならないかな?こんなに待ち遠しくなるなんて思ってもみなかった。勇気を出して声をかけてみて良かった。いや、好奇心に負けただけか……

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