賢者 魔法を使ってしまう……
高校2年生になった。
それは春先の夕ご飯時の事だった。久しぶりにママが早く帰ってきたのでママがご飯の準備をしていた。今日は久々にトンカツらしい。樹も家にいて碧も学童保育から帰って来たので久々に同時に皆でご飯が食べれそうで嬉しかった。
私が2人の宿題を見ながら2階ですごしていると私の耳元で
「おいっ!」
と男の人の叫ぶ声が聞こえた。私はびっくりして周り見渡す、弟と妹は普段通りに宿題をやっている……おかしいのは私だけ?私は突然妙な違和感を感じた。何故か下の方で嫌な事が起きている、そんな感じを受けた。注意深く周りに気を配ると……なんか変なにおいがドアの方からしてきた。私が匂いを嗅いでいるのを見て樹も匂いを嗅いでみる。
「あれ、姉ちゃん、なんか変なにおいしないか?」
「そうね、何のにおいだろこれ?焦げ臭い?」
「ママがトンカツつくってたよ?」
「え?」
「あ、やばいかも」
私たち3人は慌てて下に降りて行くと、なんとキッチンのコンロの上の鍋から火が上がっていた。あ、ママ、そっちは温度管理が無い方のコンロ……と心の中で思うが、びっくりして体が動かない。ママもちょうど部屋に戻ってきたらビックリして固まっていた。
「え?どうしよう……」
「ああっ、どうしよう!どうすれば?」
「ママ、お姉ちゃん、どうするの!????」
私たちが余りの突然の事に固まる中、樹だけが姿を消し風呂場からわきたてのお湯をバケツで組んでコンロの油にかけようとしていた。
「あ……」
(それはダメだ……)
私の意識が加速し始め時間の流れがゆっくりになる。確か以前みたニュースで油に水をかけると大惨事になる動画を見た記憶がある。これって、かなり危ない状態だよね。あ、樹が油に近過ぎる……これは大やけどコースだ……周りに火が飛び移ったらキッチンどころかこの家が危ないかも……
私は前世の記憶をフルで使いどう対処をするかを考えた……
手段は複数あったが、全部「あれ」を使う必要があった。
私は躊躇する事なく魂から魔力を練りだした。16年ぶり、いや、転生してから初めてだったが、前世で何回もやった事だったのですぐに魔力を感じられた。
魔力を盾の様に硬化させ樹を囲むように配置し、前世で得意だった氷の魔法で一気にコンロごと油を冷やす。
さぁ、一気に凍ってしまえ!
樹のかけたバケツのお湯が一気に固まり、投げかけた形状のまま氷になって固まった。油の方は一気に冷やしたため火が消え去った。何とかうまく行った様だ。良かった……
「え?……氷?固まった?」
「なにこれ、すげぇ!」
「え、え?何が起きたの?」
ママがはっと気が付き私の方を見る。
「……琴ちゃん……もしかして……」
「……うん……使っちゃった……」
「……ああ、何て事を……私が目を離したせいで……琴ちゃん……ごめんなさい」
「いいの、なんかまだ大丈夫っぽい……」
私は自分の体の周りを魔力感知してみる。お腹のあたりから黒いモヤの様なものがうっすらと出ている。ああ、やはり出たが、邪神の呪いよ……
ママを見て大丈夫だよと微笑もうとしたが、若干顔が引きつってしまった。それを見たママが物凄くすまなさそうな顔をしていた。
「琴ちゃん、大丈夫なのよね?」
ママが私の手を握って確かめにようとする。
「うん、まだ、大丈夫みたい。まだ……」
「ごめんなさい……琴ちゃん……」
ママが私を抱きしめながら謝ってくる。良いんだよ、ママ、私の命は家族のために使うって決めてるんだから……
「私も怖かったの!」
そう言いながら碧も私たちに抱き着いてくる。
「うん、大丈夫だよ、心配しないで」
私はママと碧の背中をポンポンと優しくたたく。
「姉ちゃん、これどうすればいいの?」
樹が物凄い状態で固まったバケツと油を指さす。
「さぁ、頑張って掃除しよう!」
それからは、家族総出でキッチン周り全部を掃除と言うか、氷の解体が始まった。まぁ、そのままにしても氷が溶ければ元に戻るんだけど、水浸しになっちゃうものね。
「すごいものねぇ……あ、樹、碧、二人とも今日起きた事は絶対に外で喋ってはダメよ」
「え?なんで?」
「どうして?」
「突然バケツの水が氷になった、なんて誰も信じないし、それにこの事はお家の秘密なのよ」
「え~面白いのに」
「うーん?」
それだと喋っちゃいそうだなと思った私はすかさずフォローを入れる。
「二人とも、今日あった事をお友達に言ったら、夢みたいな話だし本当だと思われないから嘘つきって言われちゃうよ」
「あーたしかに」
「わたし、嘘つきって言われるの嫌!」
ママと目があった。ナイス!といった感じで微笑まれてしまった。
後始末が終わるとやっと夕ご飯になったが、お店で買ってきた出来合いのトンカツに変わってしまった。どうしてもトンカツを食べたかったのね、ママ。
ママが弟たちから寝静まってから心配になって私に話しかけに来た。
「琴ちゃん……本当に大丈夫なの?」
「うん……どうやらあと数回は……使っても呪いが発動する感じじゃないみたい。でもやっぱり呪いがあった……見えてしまったの……」
「本当にごめんなさい、私がそそっかしいばっかりに……」
「大丈夫だよママ気にしないで。私、家族がいるから頑張れるんだよ」
「琴ちゃん……」
ママが私を優しく抱きしめながら、弟たちに聞こえない様に泣き出してしまった。ああ、こう言う時パパがいてくれたらな……
それから深夜になっても特に私の体の異変が進むという事は無かった。魂から魔力を引き出すのがやはりトリガーになっている感じだ。今後も似たことがあったらすぐに魔力を使ってしまいそうだな……これからどうなるんだろうという不安と、あと私はどれくらい生きられるんだろうかと悪い方向にばっかり思考が走ってしまい中々寝付く事ができなかった……
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