賢者 受験勉強を手伝う

 中学3年生になった。


 悲しみで家族が沈む時もあったが、パパが家にいない状態になんだかんだで家族が慣れてきた。ムードメーカーだったパパの代わりに弟の樹が家族みんなの雰囲気を盛り上げようとして頑張ってくれたり、甘えん坊だった妹の碧が家の手伝いなどをしたりして頑張り屋の子になってくれた。ママも最初は空元気で精神のバランスが悪く疲労がかなりひどかったが、家族全員の助けを次第に受け入れてくれて以前の様なおっとりした感じに戻ってくれた。

 私は……おそらく、前世で死に慣れ過ぎたのだろう。寂しく悲しく思う事は多々あるけどそこまで変わらずにやっていた。



 一周忌にパパの部屋を掃除をしていると、突然ノートが落ちてきてページが開いた。走り書きの様なメモ?パスワードなのかな?が書いてある。何だろうと思ってママにそのノートを持って聞いてみる。


「あれ?なにかしら?パスワード?これはネット銀行?のものかしら?、ママはパパから聞いてない……あ、あれかしら。ほら、琴ちゃんがなんかアプリ作って何とかとか言ってたような?ネットに銀行が無いと手続き出来ないとか言っていた気がするわ」


「あ、あれか」


 私は完全に忘れていた。自分が作ったアプリ収入がある事を。ネットで手続き方法を私が調べてママが実際手続きをして行く。故人だと本当にめんどくさかったが、なんとか口座を処理した。相続税も取られてしまうらしいが、それでもかなりの額が家に入ってきた。ママが家族を大学に通わせられるわ!と嬉しがっていた。後はアプリの制作人名義を私にしていてくれたらしく、そちらの方はスムーズに処理をする事が出来た。1年前から更新していなかったので、かなりのクレーム、いや、ありがたい意見が入っていたので暇を見つけて更新する事になった。

 それにしても突然ノートが落ちてくるなんて……もしかしたらパパの霊かなんかが落としてくれたのかな?まぁ、魔力の薄いこの世界ではそんな事はないかな……




 中学3年生ともなると高校受験のテスト勉強がメインになってくる。私はとりあえず一番近い高校に入る事にした。ママからはもっと良いところも行けるのに……と残念がられたが、私が家事をした方が家族のためになるから迷う事は無かった。別にパパが生きていても同じ選択をしたと思う。私はただでさえ魔力を咄嗟に使ってしまったら死が近くなるのだ。わたしにお金をかけるのは間違いだと思うんだよね……


「こっちゃん!私をこっちゃんと同じ高校に行かせて!」

「えっ?」


 ばっちりと日焼けをした鈴ちゃんが夏休み前に私に頼んできた。


「あ、えーっと?鈴ちゃんって今どれくらいの成績だっけ?」

「……ギリギリ……いや、ちょっとダメなくらいかも」


 鈴ちゃんの3年になってからの成績を見せてもらう。相当頑張れば行けるのかな?でもどうしたんだろ?勉強はそんなに頑張らない人だったのに?ああ、この時期だとあれかな?思春期的な何かかな?


「さて、どこまで本気でやるの?うーん……目的は男の子かな?」

「!え、ええっ?なんでわかるの?」

「やっぱりかぁ、ちょっと本気で頑張らないとダメだと思うけど、頑張れる?」

「がんばる!死に物狂いで頑張るから!」

「塾とかは行って無いんだっけ?」

「行ってるんだけど、皆と同じ授業受けてもなんか良く分からなくて……」

「それじゃぁ、ちょっと短期間だけ私が教えてみて、どれくらいやれるか見てみようか」

「ほんと?私も行けそう?」

「うん」


 私はにっこりと微笑んだ。鈴ちゃんも微笑んだ後、あれ?なんかおかしいな?って顔をしていた。それからは私の熱心な教えがスタートした。


「こ、こっちゃん、そろそろトイレに……」

「20分前にも行ったでしょ?鈴ちゃんの本気はどこかな?」

「う、うん。が、がんばる」


 私は前世の研究所でチームを任されていた。そこでは研究結果次第で仲間が生きるか死ぬかの勝負がかかっていたので、部下をかなり追い込んで結果を出してもらっていた。懐かしいなぁ……現代では別に死にはしないのでなかなか本気になれないのだろう。


「こっちゃんがスパルタだったとは……」

「優しくしているつもりよ?」

「これで優しくですか……」

「それじゃ、この問題のこのページとこのページを私がご飯の支度が終わるまでにやっておいて、ご飯が終わったら丸付けして分からないところを徹底的にやっていきましょう。鈴ちゃんママには連絡をしてあるから。ご飯を食べたらすぐに家に戻って来てね」

「は、はい、至れり尽くせりですね……これが四面楚歌ってやつか……」

「よくできました」


 それから夏休み期間はみっちりと鈴ちゃんの勉強に付き合った。夏休み後の模擬試験ではそれなりの結果になったので成果は出てきているのだろう。鈴ちゃんママには物凄い感謝されたけど、鈴ちゃんの目が段々死んでっているな……試験まで半年あるけど大丈夫なのかな?目的の男の子に励ましてもらったり出来ないのかな?でも誰だかも知らないしなぁ……


「鈴ちゃん、たまには遊んだほうが良いと思うよ?気になる人でも誘って遊んでおいでよ」

「こ、こっちゃん……なんかあっちも必死で勉強してるの。一緒に行ってくれるのかなぁ?」

「ん?その人が頭良いから勉強してたんじゃなかったっけ?」

「……なんか学校が近いから頑張って入るんだって……ほら、ちょっとランク下げると結構遠いところにあるでしょ?」

「確かに……あの距離だと自転車で30分近くかかるかな……」

「あいつ、本気出すと何でも出来ちゃうから多分そこに入れるんだよね。だからちょっと私も……」

「とりあえず、グループで勉強とかしてみたら?フードコートとかで集まってやっている人結構見かけるよ?」

「あ、その手があったか、それでいってみる!」


 鈴ちゃんが早速スマホで連絡をする。連絡取れるくらい仲がいい相手だったら普通に誘えばいいのになぁ。


「お、たまにはいいんじゃない?って帰ってきた。やった!あ、3人か……それでもいいや」

「よかったねぇ」

「こっちゃんも良かったら……」

「うーん、結局、私が教える事になっちゃうからちょっと遠慮しておくよ」

「そ、そうね、私だけでも大変だものね……ありがとう、こっちゃん」

「いいわよ、その代わり息抜き出来たらまた頑張ろうね」

「……は、はい」


 それから鈴ちゃんの本気の頑張りもあり、何とか目当ての高校に入る事が出来た。お目当ての男の子も合格して来年から一緒に行けるらしい。恋愛の力はすごいなぁ……と心底思った。

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