賢者 ……決心する
中学2年生になった。
その時は突然来た。
季節は秋に入りちょっと寒さが身体が軽く凍えるくらいの時期だった。学校の職員室に呼ばれ、慌てた感じで先生が私に経った今あった事を伝えてくる。
「与謝峯さん、どうやらお父様が事故に巻き込まれたみたいなの。今日は学校はいいからご家族の元に行ってあげて」
「……へ?、は、はい」
私は茫然と現実を受け入れられないまま、いったん家に帰宅する。正直どうやって帰ったかよく覚えていない。スマホで母に連絡を取ろうとしても既読が付かない。どうやら大変な様だ……しばらくすると知らせを受けたのか、樹が慌てて家に入ってくる。
「姉ちゃん!どうなってるの?パパはどうなったの?」
「ごめん、いっくん、私もわからないの。ママに連絡しても連絡が付かないの」
「おれ、どうすればいいの?」
「うん……不安だけとちょっと待っていようか、ママから連絡があるはずだし」
与謝峯家には親族が少ない。パパ方の祖父母は既に他界しており兄弟はいない。ママ方の方はかなり遠方に親せきがいるくらいだ。そちらに連絡をしても意味がないだろう……
しばらく待っているとママから連絡が来る。
「ごめんね、琴ちゃん、今大変な事になっているの……詳しくはまた後で連絡するから、保育園には連絡をしてあるから碧のお迎えをお願い出来るかな?今日はどうやらお迎え行けなさそうなの」
「わかったわ、パパ、大丈夫なの?」
「……予断を許さない状態……だけどっ、うっ、っ……」
スマホ越しにママが泣くのをこらえているのが分かってしまう。
「あおちゃんの事は任せて、今からお迎えに行って家で待ってるよ」
「……うん、お願い。……また連絡するわ」
私は不安で私から離れたがらない樹と手をつないで碧を迎え良いく。本当は中学生のお迎えはダメなのだが、火急の要件なので特例らしい。私は無邪気に笑ってくれる碧に癒されながら3人で家に戻る。家に戻ると碧にも私たちの不安が移ってしまった様で泣きそうな感じになってしまう。ああ、ダメだな私。もっとしっかりしないと。
それからしばらくしてママが家に帰ってきた。いつもの元気でほんわかした雰囲気は全くなくなっていた。私は覚悟をした。
「ただいま」
「おかえり」
「ママ、パパは……?」
「おかえりなさい……ママ?」
ママは私たちの顔を見て、ずっと堪えていたのか泣き出してしまう。私はママを優しく抱きしめる。ほんの少しだけ、私の方が背が高くなった。パパがちょっとだけ背が高かったからな……しばらく落ち着くまで抱きしめ続けた。
「ごめんね、琴ちゃん、みんなちょっとこっちに来て」
私たちは無言で母親の後についていき、リビングに座る。碧はまだ何が起きたかわからないので不安そうに皆の顔を見てきょろきょろしている。樹はもうわかったみたいで涙目になっている。私もそうだ。
「パパね、仕事中に交通事故にあってね……亡くなってしまったの」
「……」
言葉の意味が解らなかった碧がママに聞き返す。
「なくなるって、どういう事?」
「パパね……死んじゃったの。お空のお星さまになっちゃったのよ……」
「パパもどってこないの?」
「……うん、戻ってこないの、もうずうっとさようならなの」
「……わたし嫌だよ!」
「ママも嫌だよ……」
ママとが碧を抱きしめる。二人とも泣き出してしまう。それにつられて泣くのを耐えていた樹が大泣きになる。私も心の底からの悲しみに耐えられず涙がボロボロと零れ落ちる。
ああ、私が魔法を使えれば……守りの護符を作れれば……強化の術式をパパの持ち物に入れられれば……
そのまま悲しみに包まれながら翌日を迎えた。泣きつかれた樹と碧はぐっすりと眠れたみたいだ。朝起きたらまた不安そうな顔になってしまい。心がここに無い様な状態だった。
私は眠れなかった。一晩中、ひたすら後悔をしていた。賢者とも呼ばれた私が全く何も役に立たなかったからだ。魔法を使えればパパを救う事が出来たかもしれない、確かにそうだ。魔法を使って邪神の残滓と戦うべきだったのではないだろうか?私は怖がってなにも実験しなかった。この世界が楽しすぎて愛する人たちがいて、自分の命を失うのが怖かったのだ。
「琴ちゃん……寝れなかったのね……」
「……うん、ママも寝不足に見えるよ」
「私は途中で疲れて寝ちゃったわ。物凄く悲しいけど、今日もやらなければいけない事たくさんあるみたいなの」
「ねぇ、ママ、私、頑張ればパパを救えたんだよ」
「……え?どういう事?」
「……私が魔法を使えば、車の事故くらいなら耐えられるくらいのお守り作れたし、パパに魔法を教えられたかもしれない。……私、自分が可愛くて魔法を使えなかったの……」
泣くつもりはなかったのだが、私は自分の意志とは裏腹に涙が流れ肩が震えた。そんな私をママが優しく抱きしめてくれる。
「琴ちゃん、今回の事はあなたのせいじゃないわ。たとえパパが助かるとしても、琴ちゃんが死んじゃうんじゃ……パパはそんな決断は絶対しないわ。パパは琴ちゃんの事が大好き過ぎてそんな事は絶対にさせないと思うわ」
「……あ、ひっ……ひっ……」
私はママの腕の中で気のすむまで泣いた。
そうだ、私のパパは私が死ぬという選択を絶対にしない。その通りだ。私は自分の頭の中で悪い思考がループして、考え方が閉じられていたようだった。
私のやる事は決まった。私は心のどこかで前世の世界に未練があり、今の世界でも他人事のように感じていた。が、それはもう無しだ。私は少しでも生き延びて生きあがいてみよう。私はパパの代わりにこの家族を守って行こう。ママを、樹を、碧を。私自身は子供を持てないが、私の知識や能力は家族の助けになるだろう。樹や碧が幸せな家庭をつくって子孫を残していけば死んでしまったパパも満足してくれるだろう。
それからは色々大変だった。葬儀やらお墓やら諸手続き、権利関係のものが色々あるらしく、ママの知り合いの弁護士さんなどの手伝いもあって色々と事務処理が進んでいく。
幸いにもパパが入っていた保険や住宅ローン免除などがあって、家などは手放さないでも大丈夫な様だった。前世で親が死んだら親元を頼るか、子供が働く、下手すれば奉公に出すなどをしていたので、この世界の保証制度などは物凄いものだと思った。
しばらくして……パパがいなくなって分かった事だが、どうやらこの世界での一番の親友はパパだったみたいだ。私の過去を知り、私が何をやりたいかを察してくれて色々とアドバイスをくれたり、わたしの呪いを解くために車で色々なところに連れて行ってくれた。私をキャンプに連れて行ってくれたりもした。いつも私を気遣って話し相手になってくれた。
私の心にぽっかりと穴が開いた。これからの人生、私は楽しめて行けるのだろうか?頑張って生きて行けるのだろうか?私は不安と寂しさを同時に感じてしまった。
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