賢者 中学生になる
中学1年生になった。
私は特に変哲もない公立の中学校に通う事になった。ちょっと今までより遠いのが面倒だったが、自転車通学が許可されていたので、帰りに買い物に寄れたりなどして割りと便利な感じになった。残念ながら鈴ちゃんたちとはまた別の学校になってしまった。学区って面倒だね。
私は中学生ともなると身体の頭脳の成長もあって記憶力や処理能力が向上しているのが分かった。なので、さらに現代の勉強を進めていた。おそらく大学入試レベルの知識は付け終えてはいると思う。とりあえず少ない学費で学歴をもらい、それなりに稼いで兄弟たちを楽にするのが目標だ。周りを見ると子供と大人の間での葛藤や、成長に戸惑うもの、大人になるの早めたいがために背伸びをするもの。色々見れて面白かった。
「琴音ちゃんすごいねぇ、また一位……」
「頑張って勉強してるからね」
「頑張ってもそこまで行けないよぉ」
私は目にかけている眼鏡を人差し指で持ち上げる。どうやら勉強とパソコンなどの使い過ぎでどんどん目が悪くなってしまったのだ。前世でもそこまで目が良くなかったので、似たような事を転生してからもやっていればそうなってしまうんだなと思った。近い物の見過ぎで目が悪くなる……と言う事は今世で学んだが、私の性格じゃやめられるわけ無いんだよね。
「おっ、インテリキャラじゃん」
「えっ?インテリキャラ?」
「ほら、その眼鏡クイッってやつ」
「え?」
ああ、そうだ、確かに漫画とかのキャラだと眼鏡かけたキャラがやってますね、これ。普通にずり落ちるのと、手癖になっちゃってるんだよね、これ。
「与謝峯さんが可愛いからって絡まないの!」
「ばっ!ちがうわ!」
七海ちゃんのつっこみに、ぷりぷりと顔を真っ赤にして怒った男子が私たちから離れて行く。思春期の男の子っぽい行動だねぇ。さすがに人生を2巡しているとなんとなく行動の裏が分かって面白い。パパとママのおかげで私の見た目はそれなりのものになっていたのでそのせいだろう。
中学生と言えば部活なのだけど、私は家の事情が合ってあまり参加が出来なかった。いつも一緒にいる七海ちゃんと未菜ちゃんからは吹奏楽部に誘われたが、家事、これからの勉強、アプリ制作での小遣い稼ぎなどを考えると、練習している時間がどうしても工面出来そうになかったので断っていた。青春したかった気もするが、家の事の方が大事だもんね。
中学生にもなると、サブカル系の趣味に興味を示す年ごろの様で、音楽や漫画、小説、映画、アニメなど様々なものがクラスで流行っていた。
その中で私がちょっと興味をひかれたのが異世界ものの漫画やアニメだった。トラックにはねられて異世界に転移やら転生してしまうものである。私自身が逆にこちらの世界に転生して来た身としては共感出来るんじゃないかと色々見てみたが、予想とはかなり違うものになっていた。文化ギャップを楽しむ所は良いのだが、異世界と言うよりも、ゲームの世界に入り込んじゃった系なのね。確かにゲームの世界に入り込むのは非常に面白いと思うけど、リアリティがある描写が少なめで、完全にはのめり込む事が出来なかった。敵を殺せばレベルアップとか、努力をしないでも特別な事が出来るスキルとか在ればどれだけ楽だったのだろうか?私の周りの人たちは殺されないためにもひたすら鍛錬をしていた記憶しかない。
もし、この世界にモンスターがいたとして殺したらレベルアップをするのだろうか?そう考えると、なんか不思議な設定過ぎて不思議な力である魔法より変な印象を受ける。色々な文化が成熟しすぎて言葉遊びが過ぎた結果なのだろうか?
ふと現実を考えると興ざめだが、私はとりあえず「あれ」をやってみる事にした。もしかして出来たら儲けものだ。
「ステータス、オープン!……」
「アイテムボックス!……」
「鑑定!」
うん、やっぱり出来ないね。私があちらの世界にいたら、もしかしたら出来たのだろうか?どちらにしろ戻れないのだからどちらでも良いか。魔力を込めたらできてしまうのだろうか?そんな事を考えていると、ふと後ろの方から視線を感じる。
「姉ちゃん……僕、なんて言ったらいいかわからないよ」
「あ……これは違うのよ、違うんだから!」
「わかったよ、姉ちゃんも人間なんだな」
「……」
私の奇妙な動作と発言を見かけてしまった弟の樹が私に同情の目を向けてくる。
違うんだから!やってみたくなっただけだから!そんな目で私を見ないで!
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