賢者 保育園に行く

 さらに月日が流れ、1歳になった。

 たった二か月で恐ろしいほど体が成長した。よたよたとだが立って歩けるようになったし、意思疎通出来るくらいに喋れるようになった。発声器官が成長したおかげかな?

 まだこの世界の習慣がよくわからないけど、今日が私の誕生日らしい。生まれてから1年経ったのだろうか?一年は何日なんだろう?両親が白いケーキにろうそくに火をつけて祝ってくれた。テレビで見たように火を息で吹き消し、いつものお世話してくれるお礼の気持ちをこめて両親にありがとうと言葉を送った。


「ぱぱ、まま いつもありあとー」


 最近、仕事で忙しいのか、あまり家にいないパパがかなり驚いていた。ママはほら言ったじゃないと言った顔をした。


「琴音、もうしゃべれるんだね」

「うん、頑張っているの」

「お、おう、なんかすごいな、こんなちっちゃいのに喋ってる。なんか不思議だねえ」

「ほんとに、最近は意思疎通しやすいからすごい楽なのよ」

「うーん、琴音しか知らないからよく分からないなぁ」

「再来月から保育園に通い始めるから、その時ビックリする事になるわよ」

「そうなのか?」

「保育園ってなあに?」

「ママね、そろそろお仕事に戻るから、琴ちゃんは保育園って所で

 朝から夕方まで過ごしてもらうの」

「わかった、子供をあずける場所なのね?」

「……そうよ、理解が早すぎてたすかるわ」

「人ってこんなに成長早かったっけ?」


 1歳を過ぎたあたりから、ママも働く様になったみたいで、私は保育園に日中預けられる様になった。前世では近所のおばさんたちで寄り合って子供を預けたりしていたからそれに当たるのだろうか?いずれにしても進んだ世界だ、色々な仕事を分業化している。この世界には人が多すぎるからだろうか?


「今日から保育園よ、先生の言う事をちゃんと聞いてお友達と仲良くするのよ」

「うん、わかった」

「あなたは、特に賢い子だからどうなるのかしらね」

「本を読んで待っているよ。あるんでしょ?お家よりたくさん」

「多分あると思うけど、あなたが望むものではないかもしれないわね……」


 それにしても小さな子が多いな。町でも思っていたが、この世界の種族は単一なんだろうか?たまにテレビとか動画で出てくる別の種族達はどこにいるんだろう?物凄く疑問に思った。


 入り口でママが私を担当の先生に預け準備をして園を出て行く。私は朝の準備で忙しそうにしている先生に挨拶をする。


「せんせい、おはようございます」

「お、おはよう」

「ほんと、言葉が早い子ね、新記録だわ」

「天才ってこんな感じなのね」


 保育園の先生に話しかけると、先生が固まった。ビックリしたのか周りの先生たちも集まってくる。が、私はすぐそこの本棚にある本が気になってしまい手に取って読み出す。あーこれ新しい本だわ。嬉しい。


「えっ、あれっ?この子、本読めちゃってない?」

「それは、あ、ほんとね、絵を見ているだけじゃ無いわね。なんて子なのかしら?ちょっと早すぎな気がするんだけど?」


 私は集まり過ぎてちょっとうるさいなと思いながら園にあったまだ見た事のない本を片っ端から読んでいく。家にある本より種類が多いけど難易度がすごく低いので文字の学習に非常に良いと思った。分からない文字などは保育園の先生に聞くと簡単に答えてくれた。先生をやるくらいなら文字などは当たり前に覚えているのかな?この世界の教育水準は高い様だたった。

 1週間後には保育園の部屋にあった大体の本を読み終わりかなりの文字を習得出来た。家にある本はちょっと難易度が高かったので、園にあるような初歩の本を見る事により、なるほど、こういう事だったのか?と思うような知識も大量にあった。絵本によると図書館とかが、どの町にもありそうだったので早く行きたかった。


「ねぇ、琴音ちゃん、ご本読めるの?」

「ええ、読めますよ。本は面白いですよね、沢山色々な事を知る事が出来るから」

「そ、そうね、難しい言葉もばっちりね」


 なんで当たり前の事を聞くんだろう……と思いつつ、自分の年齢を忘れていた事に気が付く。あ、変な子だと思われたんだろうなぁ、でも、まぁいいか、私の人生はおそらく短い。魔力を間違って使いでもしたらそこで終了してしまうような人生だ。短く太く生きよう。そうやって自分の知識欲と好奇心に負けてしまう自分の正当性を自己弁護した。


 土曜日、日曜日は保育園がお休みらしく家で過ごす事が多かった。ママには図書館に行きたいとせがみ、朝から時間が許す限り色々な本を読み漁った。家に帰るとテレビを見たり、ママが使っているネットとやらを見せてもらった。朝から晩まで私の知識欲を満たしてくれる夢の様な世界だ。


 だが前世の教訓でもある「心を鍛え、体も鍛えよ!」も忘れない。前世で体術と格闘術は基本中の基本だった。色々な型をやっていると、ママが「琴ちゃんはダンスも上手なのね!」と驚いていた。この身体じゃダンスに見えちゃうかぁ。



 保育園に通い始めて3か月が経つ。


 3か月間で保育園の本も読み飽きてきた。年長組に置いてある本も全部読破してしまったので後は繰り返し本を読むしか無かった。余りにつまらないので先生に聞いたところ、新しい本の入荷などは無いそうだ。私は本が無いと、ものすごく暇なのでクラスの子の面倒を見たりしてみる。そこで私は気が付いてしまった。この世界の1歳児はほとんどしゃべれない。本を読んでいるのはよくよく見ると年長さんクラスの子しかいないでは無いか!私はかなりアホだった。この世界を知りたくて周りが全然見えていなかったのだ。私を叱ってくれる人がこの世界ではいないので気付きすらしなかった。

 周りの子供達を観察すると、まだおしめが取れていなかったり、やっと立ち上がりヨタヨタと歩けるくらいだったり……私はやりすぎたのだ、喋れるようになったから大人の様に振舞ってしまったのだ。相当、いや、かなりの変人になってしまった。


「けーこせんせい、私、ちょっと変な子だね?」

「え!?えっと、琴音ちゃんは成長が、ものすごく早いだけよ……変な子……じゃない、と思うよ」

「うーん、フォローありがとうございます」

「う、うん、ちょっと大人び過ぎだね、だけどパパとママは喜ぶと思うな!」


 けーこ先生がちょっと引き気味で気を使って答えてくれる。やはりやり過ぎだったようだ。自重しようにももう遅いからこのまま行くか。


 一方、私は家に帰ると前世の記憶を忘れないように、前世の言葉で色々とメモなどを記していった。必要な知識、呪文、魔法陣の記号、それと前世で愛した人たちの名前、そして自分の置かれた状況などを。この世界で生きていく事により、この世界で詰め込んだ知識に押し出されて徐々に忘れていってしまうのだろうか?大切な記憶だからずっと覚えていたかった。毎日記していったので膨大な量になっていった。とりあえず殆ど遊ばないおもちゃ箱の底に隠しておく事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る