賢者 赤ちゃんなりに努力する
それからさらに月日が流れ、私は月齢で言うと10か月になった。
この頃になると、前世の事を思い出しても泣かなくなった。この体でもちょっとだけ感情のコントロールが上手くなってきているんだろう。ただ、どうしても前世であの時こうしていれば良かったとか、最愛の人との別れの場面などを思い出すと目がウルウルとして泣きそうになってしまう。邪神の呪いも今のところ全く出現する気配は無い、私はこのまま生きて行ってもいいのだろうか?それともすぐに死んだ方が……などとネガティブな事を考えていると、ふと、ママとパパの笑顔を見ると、どうでも良くなってしまう。小さいながらも葛藤してしまうなぁ……
「また、難しい顔をしているよ、この子」
「あら、ほんとね、それでもかわいらしいわ」
「何を考えてるんだろうねぇ」
「何を考えているのかしらねぇ」
私は相当変な顔をしてたらしい……悩みが顔の赤ちゃんなんて見た事がないから、相当面白い顔になっているんじゃないかな?パパもママも面白そうに私を観察している。
私はこの時になると体がかなり動く様になって来たので、ハイハイも覚え頑張って立とうとするが頭が重過ぎてバランスが悪くて立てない。歩けないと色々なものが自分で取れないのでかなり不自由だ。知的好奇心にまかせ、家の部屋の色々なところをハイハイで行き過ぎて母親に色々なところに柵を作られてしまった。これでは今の私には乗り越えられない。無念だ。
最初は全く聞き取れなかった両親の会話も何とか最近では聞き取れるようになってきた。私の名前は「コトネ」と言うらしい。色々頑張って聞き取りのレベルを上げているが、どうやら私がいた世界と全く違う完全な異世界らしく、私が暮らしてきた世界と違い過ぎる文化系統なのが分かってきた。文字の種類もかなり豊富で絵文字と言うか記号と言うのだろうか、かなり変わった文字を多用していた。覚えると楽なのだろうか?
この世界はそこら中が活字だらけな上に書物も部屋に大量にある様で、この世界の文明のレベルがかなり高い事が推測出来る。
もちろん、知識欲旺盛な私は色々文章も読みたかったので、頑張って色々解読してみるが思った以上に複雑。光る箱、「てれび」も同時に見ているがどうも完全に言語を覚えるのは時間がかかりそうだった。文化系統が違い過ぎて文法などもかなり違う感じで覚えにくかった。
それよりも、「べびーかー」に乗せられての散歩とお買い物は非常に楽しみだった。外に出るとわかるのだけど文明がかなり進んでいる様で、今の私には理解出来ない機械などがかなりある事に驚きを感じた。空を飛ぶ「ひこうき」、町中をそこら中走っている「くるま」、あとは宇宙にまで「ろけっと」を飛ばしているらしい。仕組みが全く分からない。これを全部理解するのにはどれくらいの時間を要するのだろうか?
それにしても「てれび」がとても面白い。色々なものを映し出すので私の知識欲がかなり満たされる。ずっと見ていても良いくらいだ。これがあれば旅行とか必要が無さそうな気がしてきた。
「パパ、またテレビつけっぱなし!消してって言っているでしょ!」
「え、えー、僕、ちゃんと消したはずなのに……」
「あうななううななお」
「え?琴音がなんか喋っているみたいね」
「あら、ほんと面白いわね~」
「うなうー」
「私が付けたのごめんなさい」と言おうとしたけどやっぱり口、と言うより喉から全部が上手く動かない。何か喋ろうとしているのは両親にもわかるらしく、両親も私の成長っぷりにやや驚きを超えて驚愕をしている感じ。この世界の普通の10か月の幼児はどういった感じなんだろうか?もうちょっと抑えねばと思うけど、この世界が面白過ぎるので抑え切れる自信がない。
この世界は私の知るどの文明よりはるかに進んでいて非常に美しい文明だ。何を見ても新しく新鮮で私の知識欲が日増しに増加していく感じだ。
それからも両親と頑張ってもっと喋ってみようとも思うのだけども、どうしても「あーぅーああうあ」となってしまい上手く発音が出来ない。まだ体が未成熟なのだろう。
私が言葉の練習をしていると、両親が非常に喜んで色々話しかけてくれる。私は頑張って答えようとするが色々と無理なようだ。早く私の体よ!成長してくれ!
「それにしてもこの子、ご飯食べるの物凄く上手なのよねぇ」
「うーん、僕は琴音しか知らないからよくわからないんだよね……」
「だうあ?」
「ほら、このスタイとかに色々落としたり、よだれをたらしたりが普通なんだけど……こぼさないのよね、全く」
「うーん、洗濯しなくていいから楽でいいんじゃないの?」
「そうなんだけど、器用過ぎるのかしら?」
「たしかに、スプーンも上手に綺麗に使っているね、人間だからこう言うもんじゃないの?」
「違うと思うんだけど……すごい子なのかしら、やっぱり」
なんで綺麗に食べるのを不思議がられるのかがよくわからないが、前世の教えで「こぼさず残さず食べよ!」が当たり前だったのでもったいないから綺麗に食べる習慣が付いていた。さすがに戦時下だったのでテーブルマナーなんかはそこまで身に着けてはいないが、一応、軽くは習いはしたのでそれなりのスプーン運びにはなっていると思う。それよりも両親が使っている棒状の「はし」を上手に使って食べている方が不思議だった。あんな道具を前世で使用している国は無かったと思う。あれを上手に使えるようになる自信はまだ私にはなかった。
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