転生者 十七年前の出来事

 セレスが魔法陣を起動させてセレスの魂がどこか遠くに飛んで消えてしまった……確かに邪神の残滓が無くなれば誰も魔王になれない、邪神サイドの力も削げると良い事づくめだと思う。


「でも、お前が死んじゃうのは違うだろう……」


 【転生】聞こえは良いが死んで生まれ変わると言うことだ。死ねばその世界でやっていた事が全て終わるのだ。残される人の身にもなって欲しい……俺はひとしきり泣いた。


 不穏な気配を察知したのか慌てて女神様が駆け付けてくる。返り血の様なものを浴びてかなり物々しい雰囲気になっている。邪神との戦いが相当激しかったのだろう。



「なにがありました?状況は?セレスの気配が無いわね……」


「セレオース様が転生の魔法陣を使用したみたいです……」


 長耳族のテルが答える。いつも冷静な彼でも声に悲しみが滲み出ていた。



 女神様がセレスだった肉体に近づき愛おしそうになでる。


「セレス……あなた一人で抱え込み過ぎなのよ……」


 そう言うと消えかかっていた魔法陣に女神様が魔力を流し込み元の陣の様に鮮明になる。


「……なるほど転生……あの秘術ね、痕跡がまだ残っているわ……。レビィ、あなたに、セレスの浄化をお願い出来るかしら?今ならまだ追えるわ」


 女神様は一体何を言っているのだろう……追える?魂になった人をどう追うと言うのだ……


「……女神様、セレスは……もういないのです……」


「そうね、こちらの世界にはもう居ないわ、だけどセレスの魂に邪神の残滓が付いて行ってしまったわ、このままだと転生した先で魔王化して、魂が食い尽くされ不幸な事になるかもしれないわ」


「セレスは邪神の残滓だけ異世界に吹き飛ばすって……」

「そんな都合の良い事は出来ないわ、神の呪いは魂に紐付くから……」


「……セレスは俺達を助けるために……」



 この世界をセレスが救ってくれた。自分の命だけでなく魂までを犠牲にして。俺はセレスを愛している。頑張り屋で人見知りで恥ずかしがり屋で、好きな事に突っ走って失敗して、よく笑い、人前で弱音を吐かない人だった。


「……俺、やりたいです、やらせてください!セレスの魂が食い物にされるなんて事、俺は、俺は許したく無いっ!」


「……レビィ、転生すると言う事はこちらの世界で死ぬ事になるわ、未練は無い?」



 俺は周りを見渡す。



 仲間たちが戸惑っていた……兄は首を左右に振り、妹は呆然としていた……俺は仲間たちも愛していたが……セレスだけが不幸になるのは間違っていると言う想いが強かった。



「未練はあります。……が、行かせてください」



 女神様が複雑な顔をして微笑む。


「わかりました」


 女神様が俺の心臓辺りに手をかざすと物凄い力が流れ込んでくる。なんだこれは……神々しいと言うか凄いエネルギーだ。周りの仲間も騒然としている。



「あ、魔法陣も書き換えないとね……」



 女神様が念じると魔法陣の一文字、形を変えて行く。何故書き換えを?



「向こうでも同じ性別でいたいでしょ?記憶はそのままになる予定だから。今のは女性に生まれるという記述を変更したの」


 確かに記憶がこのままで女性に生まれ変わると言うのは……いろいろ難しそうだ……



「そして次が一番重要ね……」


 俺の唇を指でなぞるように触り……ものすごい量の神の力が注がれる。辺りが真っ白になるくらいの神々しい光が降り注いだ。


「なっ!なにを……」


 女神さまがいたずらっこの顔をして、


「いい?いつだって王子様のキスがお姫様を助けるんだから……あの子を見つけたら必ずモノにするのよ。この世界でやったみたいにウジウジするのは許しませんからね!」



「……え、それは?どういう事なのですか?」



 俺は本気で混乱した、キスするのか?セレスと?思わず俺は自分の唇を手で触れる。そう言えばセレスと女神様が恋愛系の物語を読んでキャーキャー言っていたのをおぼろげながら思い出した。



 女神様が魔法陣に魔力を注ぎ始め俺の周囲の魔法陣が輝き出す。



「行ってらっしゃい、私の可愛い子……」



 俺の周りが白い輝きで満たされ、俺は混乱し、呆然としたままこの世を去った。




 強力な光の柱が収まり、辺りが静寂に包まれた。





 しばらく辺りが静寂に包まれる……



 竜族の兄が我に返ってふと思った事を女神に質問した。

「め……女神様……僭越ながら……レビィが……その……上手にセレスを探し出し伴侶とするには……かなりの時間がかかるの様な気がするのですが……」


 猫族の妹が続いて絶叫した。

「女神様!兄ぃにそんなカイショー無いよ!この計画は上手く行かない気がする!」


 犬族の戦士が言った。

「レビィは強者だが……恋愛では弱者に成り下がる……俺もうまく行くとは思えん」


 耳長族の狩人は言う。

「レビィ、セレス……共にお互いを愛し合っておりましたが……上手く伝えるすべを持ちませんでした……魂が同じ場合はどうなるのでしょうか?」


 初期型のガーディアンが言う

「提案します、至急恋愛を補助する機械を転送する必要があります」


 その後もその場にいた人たちが思い思いに似たようなことを言う。


 女神は言った

「恋愛の祝福と導きの祝福は入れ込んでおいたわ……だけど……みんながそこまで言うと心配になっちゃうわね……大丈夫かしら……」







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現代転生の物語はここで終わりになります。


ここまで読んでいただいて本当にありがとうございます。


その後の話として、別作品の中に優斗や琴音などが出演しています。

そちらもお読みいただけると嬉しいです。


「ならず者・現代に転生する  ~異世界の力に目覚めたので今世では平穏な暮らしを目指す」


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 次からは与謝峰さん視点の裏バージョンが始まります。与謝峰さん視点で物語の疑問など解決できればと思っております。


赤ちゃんからのダイジェスト >> 高校生時代までの賢者視点での物語

>> 現代転生の与謝峰さん視点  で終わる物語になっております。

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