転生者 使命を果たす

 全てを思い出した俺は与謝峰さんに近づくと手を取り立ち上がらせた。俺は女神様と仲間達に託された使命を果たさねばならない。


「セレス……」


「……その様子だと、全てを思い出したみたいね……」


 与謝峰さんは悲しそうな顔をして問いかけてくる。同時に俺の右手に握られた対邪神用の剣……セレスの父親であった魔王を倒した剣をチラッと見て顔が固まる。そして諦めたような表情になってしまう。



「……ああ」



 俺はどう言ったらいいか分からなかった。



「私ね、失敗したの。転生してしまえば邪神の残滓が消えるかと思ったのに……」



「……」



「転生後に魔力を使わなければ邪神の残滓が出ないことに偶然気がついて……本当はすぐに死のうと思ったけど、この世界が楽しくて……家族も愛してくれた……愛してくれた家族を守ろうとした」



「……」



「あなたの記憶が戻らないまま邪神の残滓を浄化できれば生きていける、私も幸せになれるって思って……」



「……」


 堪えきれなくなった与謝峰さんが泣きだす。過酷な運命を前世から背負い続け、今なおさらされている状態だなんて……俺だったら耐えられただろうか?



 俺の後ろに複数の邪神の気配を多数感じる。これ以上、与謝峰さんから邪神の力を引き出されるとまずいな……そう思っていると……ガーディアンからの警告が入る。



「レビィ!至急浄化を!危険です!迎撃するには総魔力量が足りません!」


「……覚悟は出来てる、今までありがとう……」


『クックック、やっと見えたぜ!』



 与謝峰さんが目を閉じて手を前で組んでクロスさせる。向こうでの神への祈りのポーズだ。目元に涙が浮かんでいる。俺に好きな様にしろと言った感じだ……



 俺は前世と今世の人生の中で一番の葛藤をしながら。

 

 思い悩みながら……与謝峰さんを左手で優しく抱きしめた。





 ああっ!俺はどうすれば?




 クソッ!!!




 なんで女神様はこんな浄化方法を!




 恨むぞ!




 無防備で抵抗できない人にやるもんじゃないだろう?




 そもそもこう言うのはこんな時にするもんじゃ無いと思う!




 こう言うのは順序が大事なんだ! 




 ああっ!もう!




 俺は雑念に包まれながら……


 






 与謝峰さんの可愛い唇にキスをした。





 キスをした唇を中心に女神の力が放出される。辺りが神々しい光に包まれ光の柱が立つ。光の柱が周囲に広がっていき辺りを包み込み爆発したかの様に四散する。


「??んむ!?」


 与謝峰さんが驚きの声を上げる。が、俺の唇でふさがれで上手く声を出せない。


『ゲッ!なんだコリや!なにを……』


 邪神の驚きの声と同時にゴーレムと、ゴーレムに纏わりついていた邪神の残滓が女神の光に包まれてあたりから消え去る。与謝峰さんの体の奥にあったが俺が浄化が出来なかったもの、魂に付いていた邪神の残滓もまとめて消え去っていた。



 ……それにしても恥ずかしい、コレはいつまで続けなければいけないのだろうか?そんな事を考えていると、余りの事に驚いて目を開けた与謝峰さんとキスをした状態でバッチリと目が合ってしまう。


 パチクリと目を瞬かせる。うん、いつもの可愛い与謝峰さんに戻ったな。そう言えばどことなくセレスと似た雰囲気がする。だから惹かれたのだろうか?与謝峰さんが一度は俺を押して離れようとしたが、考え直したのか、目を閉じて抱きついてくる。



「レビィ、セレスの体内の邪神の残滓の浄化を確認しました。邪神からは位置特定が不可能になったので追加のゴーレムはまず来ないでしょう」


 ガーディアンが空気を読まずに状況報告をして来る。もうちょい間を置いてくれればよいのに……


 与謝峰さんがハッと突然我に返って慌てて距離を取る。目が合わせられない。多分お互い顔が真っ赤になっているだろう。


「レビィ、セレス、多数のこの世界の人間がこちらに向かっている様です。早めの離脱を推奨します」


 俺たちは周りを改めて見回すと見慣れた廃工場が見るも無惨な状態になっていた。遠くの方からサイレンの音が聞こえてくる。そりゃ、コレだけ暴れれば物凄い音だったろうな……ちょっと冷静になった与謝峰さんと目が合うと頷き合いその場から逃げ出した。

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