転生者 前世を思い出す
魔力を込めた大技を使った時に前世の俺の記憶が……完全に今の俺、羽雪優斗に戻ったようだった。俺に戻った記憶によると……前世で俺は戦争に参加をしていた。俺達は女神の勢力に加わり邪神の勢力と戦っていた。
あちらの世界では時折、「神」と呼ばれる存在が降臨し人々を導く事が多々あるこの世界の常識で考えるとかなり不思議な世界だった。
敵勢力の邪神の眷属、魔族の王は、俺の親友であり最愛の人、賢者セレオースの父親だった。セレスや魔族の仲間の情報によると父親も普段は善良でセレスや家族、仲間たちを愛してくれていたらしいが、おじい様である先代の魔王が死ぬと、その力、邪神の呪いが父親に移り魔王と化した。邪神の呪いに飲み込まれ魔王となると、全くの別人、全く性格が違う人になったそうだ。この時に魔族の仲間たちは、魔王にさせないためにも幾重にも結界をはり必死の抵抗をしたそうだ。それでも邪神の呪いはその結界をもたやすく打ち破り簡単に父親が魔王と化したそうだ……
その後、セレスは魔王になった父親、邪神の眷属から仲間にかばわれながらも逃げ延びて俺たちの軍勢に入ったのだ。
邪神は初代魔王に対して呪いをかけた、己を決して裏切ることのない従属を未来永劫獲得するために。邪神の残滓が魂を喰らい、その子供に代々と呪いが渡っていく事を魔族の仲間たちから俺達は聞いていた。
邪神の呪いのこと隠していたセレスだが、魔族の仲間たちが俺達に経緯を話をしてしまった事を知ったセレスは「私は運命に抗ってみせる!」そう俺達に宣言し、ひたすら古文書を漁り魔法陣の研究をしていた。そんなセレスを俺は陰ながら見守っていた。
邪神の軍勢との最後の決戦の前に仲間全員が事情を知ってしまい、セレスの父親である魔王を倒す事に迷い悩む俺達にセレスはこう言った。
「大丈夫よ!調べ物を必死にしていたら物凄くいい手が見つかったの、いい?魔王を倒したら、この魔法陣を展開して私を乗っけるの、そうすると邪神の力、邪神の呪いを異世界に吹き飛ばす事ができるの!」
見たことのない高度な魔法陣がかれた魔法の布を俺達に見せる。その時のセレスは俺が今までで見たことのない感じの笑顔だった。
俺が作り笑いが嫌いなのはこの時からだ。
俺達はセレスの言葉を信じて迷いを吹っ切り、女神の勢力の軍隊が邪神勢力の軍隊と対峙、戦争をしている間に相手の本拠地の魔王城に女神様と共に少人数のパーティで潜り込んだ。激しい戦いの末、俺たちは邪神勢力幹部達の戦いに勝利した。俺が邪神を払う剣で魔王にトドメを刺すと、魔王であったものから邪神の残滓が一瞬光りとなって消えるかと思いきや、消しきれずに残った邪神の残滓が滲み出しセレスの方にまとわりつく、ここまでは計画通りに順調にいった。
俺達は邪神の残滓に包まれて苦しみだすセレスを抱えて荷物の置いてあるキャンプに急いで移動し、既に展開してあった魔法陣の上に彼女をのせる。
これで全てが終わる。俺はそう思っていた。仲間達にも安堵の空気が流れ始めていた。
「はぁ……はぁ……思ったより苦しいかも……」
邪神の残滓によるものなのか、痛みでセレスの美しい顔が歪む。
「セレス!大丈夫か?」
「……フフッ……大丈夫よ」
セレスが俺の心配そうな顔を見て苦しみながら微笑み、俺のほほを撫でる。
セレスが魔力を魔法陣に込め始める。今までで見たことの無いかなりの量を注いでいる様に見えた。
「レビィ……ごめんね……あなたのこと……愛してるわ……」
「……え?……突然なにを?」
「……あなたは生きて……幸せな家族を、家庭を築くのよ……」
セレスが涙を流しながらそう言い残すと、魔法陣が光り輝いた。
セレスはそのまま眠りについたかの様に見えた……いや、魂が感じられない。
セレスだった身体からは魔力も生命力も何も感じられなくなっていた……確かにセレスの言う通り邪神の残滓がこの世界から跡形も無く消え去っていた。
セレスは魂のみを異世界に吹き飛ばしたのだった。邪神の残滓と共に……
「……どういう事だ?」
俺は理解するまで時間がかかった……目の前で起きたことが現実では無い、そう思いたかった。
俺は辺りを見回す。
仲間たちの悲しそうな顔を見てしまう……俺はやっと理解した。
俺の目から涙が流れてきた……俺は泣いた。
人目もはばからず人生で一番泣いた。
ここまで苦労して……俺が一番勝利を分かち合いたかった相手がいないなんて!そんなのって無いよ!そんなの嫌だ……
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