転生者 初デートをするが……
翌日の朝、自分の部屋で浮かれなら準備をしていると妹にジトっとした目で見られてしまう。
「ん?なんだ?」
「どこでデートするの?」
「駅前のどっか」
「はぁ、駅前でそのコーデは無いわー、ちょっと変な方向に気合入れすぎ」
そう言うと俺のクローゼットから服などを見繕う、髪もわしゃわしゃされてナチュラルに整えてくれる。
「あ、ありがと」
「鈴香ちゃんと?」
「ん?違うよ?」
「……そっか、頑張って」
「おう」
ウキウキしながら自転車で駅前に向かう。前世では恋愛してたんだっけ?……なんか思いがうまく伝わらなくて仲間や兄弟に慰められてたのを思い出した。あれ?俺は誰かを好きだったんだろうか?そんな事を考えていると待ち合わせ場所に与謝峰さんが待っているのを見つけた。うん、前世は別に関係無いね、今を頑張ろう。自転車を停めてから与謝峰さんと合流する。いつも通りにひらひらと手を振ってくれる。
「おはよ、待たせちゃったね」
「おはよう、時間通りだよ」
与謝峰さんがニコニコと答える。私服のスカート姿がとても可愛い。あれ?今日は眼鏡してないのか。コンタクトかな?
「あれ?いつもと違う感じ?」
「あー、これ妹コーデだ」
「妹さんいたのね。仲いいんだ」
「子憎たらしい時もあるけど優しいな」
「ふふっ」
なんか照れてしまう。デートが目的というのは初めてだから当たり前か。
「与謝峰さんも似合ってるよ」
「ん、ありがと」
「眼鏡どうしたの?」
「あ、羽雪君のおかげで視力も回復しちゃったみたいで……」
「え、そっちも回復するのか」
「そうみたいね、あっちじゃ視力悪い人いなかったもんね」
「確かに……それじゃ行こうか?」
「うん」
俺たちはお互いに照れ合った後、ショッピングモール内にある映画館に映画を見に行く。この前海斗と鈴香達がデートで見たと言うあれだ。ひとしきり映画を楽しんだら近くのファミレスでご飯をたべながら映画の感想を言い合う。与謝峰さんとはセンスも近いみたいで突っ込みどころとか面白いと感じるところが似ていて話をしていても楽しい感じだ。二人とも基本的に性格がポジティブなんだろうなぁと思う。こんなまったりした時間も良い、ってか永遠に続いてほしい気がする。
それから買い物をしようとファミレスを出ると、何か言いようがない様な妙な感覚に襲われる。
なんだ?この変な感じは。与謝峰さんに目をやると、目を見開いて驚いている様だった。先に何かに気が付いた感じだな。ヤバさを感じた俺はすかさず魔力感知を行うと、与謝峰さんの目線の先、ショッピングモールのかなり遠い距離に魔力を纏っているが、感情を感じさせない表情をした人らしきものが人混みに紛れて立ってこちらを見ていた。
人では無いのが魔力感知から伝わってくる。生命力を感じる事が無く、魔力の塊が存在している感じなのだ。
「あれ……なんだ?」
「……ガーディアンなの?それともあちらサイドのモノ?」
「……向こうの世界のやつか?」
「……う、うん、おそらく、こっちに転送出来たの?出来なくはないか……」
「俺はどうすればいい?」
与謝峰さんが後ずさりをしながら辺りを見回す。
「ここではダメ……人気の無いところに、行こう……敵か味方かわからない……」
「わかった、荒事になりそうかぁ……」
与謝峰さんが踵を返すと自転車置き場の方に走り出す。俺も後ろを気にしながら後をついていく。人型のモノからは魔力は感じるが、生命力は感じない。徐々に近づいてくるが人混みが邪魔してこちらになかなか近づけない様だ。追ってくる気配を感じながら俺たちは自転車に乗り走り出す。アレくらいの魔力量があれば、周囲の人間をなぎ倒しながら簡単に追ってきそうなのにおかしいと不思議に感じた。
「どこに向かう?」
「廃工場しかないかなっ?」
与謝峰さんも足に魔力をこめて原付きくらいのスピードで俺達は走っていた。ショッピングモールを出た人型のモノはこちらを確認すると、ものすごい勢いで俺達に走って迫って来た。
「凄いスピードだっ!自転車と同じ速度って」
「くっ……私のスピードじゃだめだね……羽雪くん、ゴメン、先に行ってるね!」
与謝峰さんはそう言うと、自転車を停め物陰に隠れバックから布の様なモノを地面に敷き呪文を唱えながら魔力を込める。あれは転移陣か?そうこう思っている間に与謝峰さんの姿が書き消える。廃工場に空間転移用の魔法陣を書いてたから先にあそこに行ってるのか?
人型のモノが物凄いスピードで追いついて来る。あれ、ヤバい、早すぎる!俺は慌てて自転車のペダルを魔力を込めて漕ぎ出す。リミットを上げて人外の高速運転を開始するが、人型のモノがすぐに追いつき併走しだす。高速運転の自転車に並走する人間のモノ、あれだなボクシング映画でよく見るやつだな……
『魔力波長をスキャン。女神の力を確認、高確率でレヴァブリィと判断します。』
「何言ってんだかわからん!向こうの言葉が?ってか話できるのか?」
『……対象の転生覚醒状態が不完全と判断します』
「ってか、なんつースピードだ!」
俺は更に魔力を込めてスピードを上げる。流石に自転車のチェーンがやばそうだ……持つのかコレ?そんな事を考えてると、廃工場の方からかなり嫌な感じがした。魔力感知をすると、三体の嫌な感じの「何か」が与謝峰さんが転移した付近に出現した様だった。
『……言語切り替えを行います』
「レビィ。記憶の欠如が確認されます。対象の浄化の確認がとれません」
「おお!?突然喋り出した!日本語しゃべるのか!」
「レビィ。セレスの周りに邪神の使いが現れた様です。直ちに向かいなさい」
「なに言ってるかさっぱりわからん、今、向かってるでしよ!」
突然喋り出した途端に意味不明な事を言う、なんだこいつは?セレスって与謝峰さんの事か?ジャシンって邪神?神様か?と思った瞬間自転車のチェーンが、バキッ!カラカラからと外れてしまう。あぁくそッ!走るしが無いか……
「ちっくしょ!」
自転車を乗り捨てて走ろうとすると、人型のモノは立ち止まって語りかけてくる。俺への攻撃の意思は全く感じられなかった。人型のモノは与謝峰さんのいるであろう廃工場を見ている。
「レビィ、セレスがかなり危険な状態です。このままでは間に合う可能性が低いので私がサポートします」
「へ?」
人型のモノが俺の前まで近づいてからしゃがみ、俺の靴の底に手を掛けて軽々と俺を持ち上げ魔力を込め始める。あれー?コレってひょっとして……
「準備はいいですねレビィ?目標の座標を確認。射出角度確認。威力調整確認。射出カウント。3、2、I、0」
ああ、やっぱり、あれだね、アレ、カタパルト?とかロボットものが出撃する時のアレだよねアレ。距離めっちゃあるんですけど、1キロメートル近いんじゃない?出来るのそれ?危険を感じた俺は全身に魔力をまとわせて魔力硬化に切り替えた。そして、人型のモノは俺をミサイルの様に投げ飛ばした。
「うぉおおおお!」
ヤバいなにこれ、ドローンとかよりも遥かに早い!凄いけどこの速度だと着地で死ぬ!ゲームじゃないんだから!コレ落ちたらトマトみたいになるやつじゃないの?魔力でなんとかしろってやつか?廃工場がどんどん近づいてくる。
身体に魔力を纏い、風の魔法でスピードを弱める。いい感じだ。上空から見ると、与謝峰さんが三体のロボット?ゴーレムもどきと戦闘をしている様だった。ちらほらと魔法をガンガン使った形跡があり、与謝峰さん自体に黒いモヤがものすごい量になって付き纏っていた。このまま着地の威力を利用して一体破壊するか……それにしても人型のモノの投てき上手だな、ぴったりだ……
俺は風の魔法を微調整しゴーレムの一体に狙いを定める。ゴーレム達が俺を探知したらしくこちらを振り向いた瞬間、高速で飛んできた俺の魔力強化のキック、と言うより魔力を纏った着地で粉砕する。思ったよりは柔らかいな……破壊すると同時にゴーレムからも黒いモヤが発生し光となって霧散する。
「羽雪くん!」
与謝峰さんが満面の笑みで出迎えてくれるが、ゴーレムが攻撃してくるので魔力障壁を張って耐えている様だった。与謝峰さんの衣服がボロボロになっていた……
「与謝峯さん!大丈夫か!」
『クックック、ナイトのお出ましか?お前か死ねば全て終わるんだかなぁ?』
『だまれ!』
何語か分からないけど、ゴーレムが煽って与謝峰さんが怒ってる感じかな?取り敢えずゴーレムを破壊しないとな。手足に魔力を溜めてゴーレムに殴りかかる。
「うぉりゃ!」
ゴーレムにヒョイっとかわされる。あれ?結構な速度なんだけど……
『クックック、さっきは不意打ちを食らっただけだからな、俺の作ったゴーレムはそう簡単にやられないぞ』
ドォン!
ゴーレムの上に着地した人型のモノが一体のゴーレムを爆散させる。こっちからは黒いモヤが出るが霧散しない。
『ゲッ!あの時送ってだガーディアンか!やばいな!追加のゴーレムが必要か?』
着地するやいなや、人型のモノは俺に指示を出してくる。
「レビィ!セレスの浄化を優先させてください」
「浄化ならもう何回も試してる!」
そう言いながら俺は残りのゴーレムの不意を突き、魔力を込めたまわし蹴りで吹き飛ばす。ゴーレムが吹き飛びながら黒い靄が光となって霧散していく。
『チッ、思った以上のパワーだな、イーヴァ!残りのゴーレム追加転送だ』
「羽雪くん!ゴーレム追加で送って来るって!」
「くそッ、マジか?」
人型のモノはライトの様なものを俺に照射した後、俺に問いかけてくる。
「レビィ、女神の力がまだあなたの身体の中にある様です、女神に教えられた通りにやったのですか?」
人型のモノが無機質な声で俺に質問して来る。レビィって俺だよな?
「女神?すまないが記憶が無い!やり方を教えてくれ!」
「……レビィに別れ際教えたと、女神から伝えられています……」
「え?……思い出せないんだけど……」
二人して一瞬固まる。コレどうすればいいの?あれ、ロボットも固まるのか?
「……相変わらず天然……仕方がありません。対邪神用武器の生成を開始します。少々お待ちを……完了」
「え?今の短い時間でなんか作ったの?」
人型のモノが首の付け根に手を突っ込み剣の様なモノを首から取り出す。それなりにリアルな人間っぽい見た目なのでちょっとグロさを感じる。
「ある程度の邪神の残滓を滅する事ができるはずです。コレより私は機能低下致しますのでレビィ、後はよろしくお願いします」
人型のモノは剣をこちらに投げ渡す。慌てて剣を受け止める。剣を投げた後人型のモノは座り込んでしまう。
「後はよろしくって……あ、ぐあっ!」
剣を握ると激しい頭痛がする。なんだコレ、頭の中に別の記憶が流れ込んで来るイメージがした、ああ……そうか、この剣、転生前の俺が良く使ってたやつだ!
あ、人型のモノ……ガーディアンと呼ばれていた女神様が作られた対邪神用ゴーレムだ。戦っていたのは邪神の軍勢。そうだ、目の前のゴーレムみたいな似た感じの奴を沢山倒してきたじゃないか。
そんな記憶を思い出していると、辺りに大量の赤黒い魔法陣が出現する。え?ちょっと多すぎじゃない?……死ぬ気でやらないとダメだねこりゃ……
ふと心配になって与謝峰さんの方を振り変えると、俺と目が合った瞬間にビクッとした後、へたり込んで力なくへなへなっと座ってしまった。
与謝峰さんが絶望的な諦めた様な表情になっていた……そんな顔をしないでくれよ……
俺の体の中の奥の方から熱い怒りの様なものが渦巻き始める。
魔法陣から邪神の残滓を纏ったゴーレムが複数体出現しだす。魔法陣から出てくる前がチャンスだな。俺は全身に魔力を纏わせ突撃する。剣に炎を纏わせゴーレムに風の魔法を当ててバランスを崩させた瞬間に切り裂く。蘇った記憶が今の俺に戦い方を教えてくれる。加速された意識の中で多対一の戦いでもっと効率の良いものは無いのか、そう思うとまた激しい頭痛がする。と、同時に走馬灯の様に前世の記憶が蘇って来る。
俺は剣に炎を纏わせた状態で風魔法を重ね掛ける。すると風に煽られた炎の威力が見るからに倍加する。そのままゴーレムのまとまったところに射出し、炎の竜巻をお見舞いする。
ゴオォッ!
かなりの音と共にゴーレムを薙いで焼き払う。また激しい頭痛がする。ああ、そうか俺は仲間達と一緒に邪神の勢力と戦っていたんだったな……炎の竜巻は大半のゴーレムの戦闘能力を奪ったようだ、まだ無傷のものや半壊したものもいる。俺は残りのゴーレムを各個撃破していく。
『ウゲッ、なんであの魔法剣士君が居るんだよ!聞いてねぇよ!クックック』
何を言っているのか分からなかった声の言葉の意味が分かる。この声の主が邪神だろうか?なんかよくある愉快犯役の発言だな、そう思いながら最後のゴーレムのコアに剣を突き刺しトドメを刺す。
『クックック、面白くなってきたなあ?次はどうする?』
破壊したゴーレム達が一つの場所にまとまり始める。ん?これはゲームとかで良くあるパターンの合体して巨大化するやつか?……だったらまとまった瞬間にたたけば良いかな?
「キャァーッ!」
与謝峰さんが悲鳴を上げる。振り返ると与謝峰さんのに纏わりついていた黒いモヤがゴーレムの方に流れ出す。
『ハッハッ、俺の半身がそっちにあるんだ楽しませてくれよ!』
「あ、ああっ!くぅっ!!」
与謝峰さんが痛みで苦痛の表情になる。腹のあたりから黒いモヤが無理矢理吸収されている感じだ。
俺は怒りと共に全身に極大の魔力を流す。あのゴーレムがまとまった場所にすべてを吹き飛ばすつもりで剣に魔力を込める。確か、記憶によると制御が上手く行かなくて自分もダメージを喰らうはずだが構わない。これ以上与謝峰さんが痛めつけられるのを見ていられない。
俺は、ゴーレムが集まりきった所に前世の最大の技、風と氷をブレンドした雷の斬撃をぶちかます。
ズドォーン!
凄まじい音と共にゴーレムが爆散する。廃工場の古いコンクリートの地面もかなりえぐれてしまう。俺自身も身体にひどいダメージを喰らい満身創痍になってしまった。妹が選んでくれた折角の服がボロボロになってしまった。
また激しい頭痛がする。さらに詳細な前世での記憶が蘇って来る。
「あぁ、そう言う事だったのか……」
この瞬間に全てを理解した、俺が何故この世界に転生して来たのか、何をすべきかを。どうすれば邪神の残滓の浄化が出来るかを……
「レビィ!至急浄化をする事を提言します。邪神の影響が消えていない模様です」
『クソッ、なんも見えねぇどうなってやがる?』
遠くの方で邪神らしき呟きが聞こえる。どうやら今がチャンスみたいだ。
「あぁ、わかってる」
俺は魔王を討滅した覚えのある剣を片手に持ち替えてから振り向いて与謝峰さんの方に歩きだす。
与謝峰さんの目に涙がたまっている。
これから起こる事に不安になっているんだろう。
直ぐに救ってやるからな……俺の目からの涙がこぼれてしまう……思い出した記憶の事を考えると感情が溢れ出してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます