転生者 失われた記憶を求める 2日目

 翌日にそれぞれの休日の午前を過ごし、午後からいつも通りにコンビニ前に集合してから廃工場に向かう。


「それじゃぁ、記憶を辿る質問いきますか」

「おっけ」

「前回はかなりアバウトな質問だったので細かく刻んでいこうと思います」

「刻む……?」

「では、あなたの住んでいた町の大きさってわかる?家の大きさ、壁の大きさ、神殿、お城とか」

「うーん、旅もしていた記憶あるから……育った場所の町だったら……城壁に囲まれた町、大人の5倍、いや10倍くらいの高さだったかな……?城壁の外と中で安全さが全然違ったと思う……中央の広場まで……3階建ての家が……100件くらい並んでた気がする」

「高層ビルみたいのはあったの?」

「中央の小高い丘に神殿があって……それは大きかったかな?でも高層ビルほどじゃなかった、その後ろに貴族街、領主の館……みたいのがあった気がする。王様は俺の生まれた町にはいなかったな違う街に居たような……」

「なるほど……ローマのポリスみたいな感じなのかな……?次は上下水道ね、水はどこから組んでた?後はトイレはどうたった?」

「水は井戸から、機械式のポンプで組んでたのと、城壁の外はつるべ式だったなみんな大変だった……ああ……俺は城壁の外の出身……だったと思う。下水は壁内はトイレから……地下道を通ってなんかしてたな……壁外は共同トイレ……汲み取り式で……たい肥にしてたのかな?」


 頭が段々痛くなってきた……変な感じだ、自分が経験していないのに経験したかのような映像が流れてくる。違和感がすごい。吐きそうだ……


「ああ、そうだ、俺は死に物狂いで頑張って勉強と鍛錬して……壁内に行きたかったんだ」

「壁外……はそのどんな感じ?……病気で動けない人がいるとか、奴隷とか……?」

「ああ、それは 外、町外だな……ああ、この世界だと下町……なのか?さらに外には壁があったけど、魔獣が来たら簡単に飛び越えられるくらいの高さだったと思う……」


「……家族は……思い出せる?」

「家族は……いるけど変な感じだったな……」

「……変?とは?」

「区画ごとに家族って感じになってて、この世界みたいに血のつながった人同士が家族って感じじゃなくて、産みの母さん、父さんはいるけど、みんなが父であり母であり……って感じだった。兄弟も……ああ、今の感覚で考えるとおかしいけど、竜族の兄と、猫族の妹もいたよ、滅茶苦茶だったなぁ……っつ……」


 頭がマジで痛い、冬のマラソンで頭が痛くなる時以上に痛い。ハチに刺されたときくらいか?


「あ、あなたは、ひ、人族……だった?」

「……うん、たぶん……人族だよな……チョット待って……頭が」

「!あ、ごめんなさい」


 何だこれ、超痛いんですけど……しばらく頭を抱えてひたすら激痛に耐える。心臓の鼓動の度に痛い……しばらく痛みに耐えてるとやっと頭痛も治まってきたきた。孫悟空の金冠ってこんな感じだろうか?と全く別の事を考えてしまう。


「痛み……治まった?」

「なんとか……」

「ねぇ、少しだけ記憶の話をしていい?」

「……お手柔らかに……」

「その……前世の兄弟はその後どうなったの?」


 ちょっと考え込む……あれは夢だったんだろうか……ちょっとあいまいだけど、あれしか思い出してないな……


「ああ、その後……途中の事は思い出せないけど……寝ぼけてたから夢かもしれないけど……焚火を囲んでごはん……食べてたのかな?野営してる時に二人ともいたと思う。ネコのレンジャー……猫族の妹だったんだな……子供の時と顔が似てるな……爬虫類の人……だと思ったけど、竜族の兄さんだったんだな……」


「……そう……なの……大人になれたんだね……」


 与謝峰さんの目が若干虚ろになる。かなり複雑な表情になってしまった。どうしたんだろう?


「チームを組んでたのかな……他にも人がいたし……おそらく学校みたいなところで勉強とか鍛錬した後、魔獣退治とかやってたのかなぁ……?」

「……他の……人?……」

「あーっと、他には犬族の戦士、耳長族の狩人、魔族の魔法使い……だったかな……?仲が良さそうな光景を見たのはよく覚えている」


 俺の話を聞いてる途中で与謝峰さんがくるっと向こうを向いてしまう。


「……そう……なんだ…………」


 与謝峰さんの肩が小刻みに揺れはじめる。


「……ひっ……ひっ……」

「え???どうした?」

「……ど、どいれ…………」


 与謝峰さんが振り返りもせずにダッシュで廃工場の入り口の方に走って行ってしまう。

え?……なんで泣いた??どこに悲しくなるポイントがあったんだろう?わからないな……


 それから、かなり悶々としながら魔法の練習をしてみる、うん、コントロールがめちゃくちゃだ、やめた方が良さそうだ。精神状態がもろに影響するみたいだね、魔法って。頭の中のイメージを具現化するようなものだから当たり前か?……それにしても、何回も会話の流れを思い出しても泣く要素がわからない。……俺の境遇に同情した?別に貧乏だったとか虐げられていたとかの話はしていないしな。ダメだな……どうしてもわからない。


 かなり時間が経ってから与謝峰さんがコンビニの袋を持って戻ってくる。俺が見ているのに気が付くとちょっと慌てたように作り笑顔をして歩いてくる。……作り笑顔は嫌だな…なんか似合わないよ……


「はい、これどうぞ」


 コンビニのコーヒーとケーキのセットだった。コンビニのデザートって割と高かった気がするんですが?


「え~っと……」

「どうぞ!!」

「わ、わかった……」


 与謝峰さんがキッと睨んできた。なにも質問するなってことか?それともさっき泣いた事を追求するなってことか……まぁ、恥ずかしいよな……人前で泣いちゃうのは……コーヒーとデザートを食べて落ち着いたところで、意を決したのか勢いのある声で与謝峰さんが言った。


「どうやら、同じ世界の住人だったみたいです」

「……え?まじで?」

「まじです!……それで……私的には、あなたの最後の記憶を知らないといけない状況になっちゃいました」

「……ごめん……まだ思い出せてない……え、どういう事?」

「……はぁ……どうすれば……バレないようにしたと思ったのに……」

「あの~?俺はどうすればいい?」


 ちょっと与謝峰さんが考え込む。吹っ切れた凛々しい顔も可愛いなぁ……


「私にとって一番良いケースは……もう本当に超楽観的なケースになるんだけど、羽雪君の記憶が戻る戻らないに関わらず、私の黒いモヤを完全に浄化してくれる。それなら誰も傷つかないし誰も悲しまないはず」

「おお!……って事は、悪いケースもあるんだな?」


 コクリと与謝峰さんが頷く。そして顔を俯かせてしまう。感情が抜けたような寂しそうな顔だった。


「後は……言えないや……」


「そうか……」


 俺が出来る事は黒いモヤの浄化一本って事だけはわかった。後は前に与謝峰さんが親父さんが黒いモヤに飲まれたら性格変わって悪い事をしたと言っていたからそれが起こってしまうんだろう……そして黒いモヤは親が死ぬと子に移っていく……転生して逃げたとしても転生先までまとわりつく……大変厄介な呪い……って事だな。

 特に子供に移るってのが厄介だな……俺が常に浄化をかけて黒いモヤを抑えられたとしても、俺が死んだら浄化できる人がいなくなるから必然的に子供は黒いモヤの影響を受けるだけ受けて回復しない……あ、子を作らないで一生を終えるという選択肢があるのか……それは嫌だな、俺は幸せな家庭をつつましく築きたい派だ。断じてその選択肢は選ばせたくない。


「俺は記憶を取り戻して完全に黒いモヤを浄化させるよ」

「難しいよ……」

「それでも俺はやるよ、協力してくれないか?」

「……うん……」


 与謝峰さんの目がウルウルしてる……泣き顔を見たくない俺は与謝峰さんを両手で抱きしめた。抱きしめられながら俺の胸で暫く泣いていたが落ち着いてきた様で泣き止んでくれた。


 もう夕暮れだった、暗くなると危険なので帰る事にした。帰り道は特に会話もなく2人で手を繋いて自転車まで歩いた。


 明日からも頑張るしかないな。

 

 俺は家に帰ると、記憶を呼び覚ましすぎたのか、魔力を使い過ぎたのかわからなかったが、眠気に勝て無かったので、与謝峯さんにお休みのメッセージを送ると直ぐに寝てしまった。





■とある空き地で……


 人型のなにか……ガーディアンと呼ばれたものは迷っていた


『邪神の残滓検出できず……巨大な魔力反応を検知……波長パターン……混成した波長のため特定できず……』


『魔力エネルギー補充不可のため残量に問題在りと推測、邪神の残滓を検出するまでスリープモードに移行します』


 ガーディアンと呼ばれたものは腕をドリルのような形状に変化させドリル回転を行い地面に潜り込んでいった。

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