転生者 失われた記憶を求める

 翌日からは特に周りからの突っ込みもなく普通の学校生活になった。鈴香の事が気になったが、今日は普通に振舞っているように見える。無理をしているのだろうか?

 与謝峰さんとの取り決めで平日は普通のスケジュール通りに動き、魔力の練習や相談事は土曜日午後に行う事が決まった。平日は与謝峰さんが兄弟の面倒やら家の事が入ってしまう事が多いので時間がとりにくいのと、移動時間を考えるとすぐに日没で効率が悪いからだ。俺も放課後は同好会活動に参加しながら自分一人で出来る練習などを色々行っていった。

 

 そんな感じで平日を過ごし約束の土曜日になる。


「なるほど、魔力の消費をあげたりすると記憶の戻る事がある……と」

「うん、思考超加速と身体能力最大強化をしてたら魔力硬化を思い出したからね」

「魔力硬化……前衛が相手の攻撃を避けれずに当たっちゃう時に使うあれだね、怪我が減るが使用している最中は動きが鈍るので使いどころが難しい……と聞いたかな」

「あ、それでぶつかる瞬間に使う……って思ったのか」


 与謝峯さんがちょっと呆れたような、不思議な顔をして俺を見る。


「ほんと曖昧な記憶の戻り方をしてるね……だけどその理論はちょっと不確定かもね?」

「? なんでだ?」

「使用した魔力量が多かったから、体がトラックにぶつかると言う体のピンチを脳が察知したから、思考超加速を限界まで使ったから、理由が3つ今のところあるかな?」

「ああ、そうか、一つの事に固執してたかも……」

「とりあえず、魔力使用量での変化を確かめてみる。……ピンチはちょっとダメだね……危なすぎる……思考超加速は私も使ってた事があるから分かるけど、思考スピードが上がるだけだった気がするんだよね……影響あるのかな?」

「それじゃ魔力使用量でテストして……思考超加速の順かな……ピンチはどれやってもダメだったらか……」


 確かにピンチを人為的に作るのもなんだかなぁって感じだもんな。与謝峯さんがしばし考え込んでから提案してくる。


「後は別の方法として、私が知っている魔法の使い方を片っ端から実践してみる事かな?新しい魔法を使ってみる事が記憶のトリガーになる可能性高いし」

「なるほど」

「あとは体術系を思い出しながら使ってみると良いかも、あとは……記憶の質問を用意してしらみつぶしに思い出す……かなり痛かったんだよね……あれ」

「うん……でもあれが一番効果ありそうなんだよな……」

「羽雪君は記憶を思い出そうと色々やってみたんだよね?」

「一人じゃどうも思い出せないみたい……会話が必要なのかな?」

「うーん、おそらく自分自身への質問だと質問と回答がセットになって答えやすくなってしまっているから効果が薄いのかも。私がランダムな感じの質問考えて受け答えする……とかにした方が良さそうだね」


 なるほど……俺ってやっぱり頭のいい人と組まないとダメだなぁ……この辺は前世と全く変わらない。性格って言うのは転生しても同じなのだろうか?やっぱり魂が性格で脈々と引き継いでいくのだろうか?


「とりあえず質問の方はぱっぱと思いつかないから持ち帰りでいいかな?前回の質問の切り口を変えたり、全く違う事を入れたりしないとね……」


 うん。与謝峯さんが考えてくれるんだったらそれでいいや、それよりも新しい魔法使える方が面白そうでいいんだけど、そっちじゃなだめかな?


「ねぇ?面白そうだから、今日は与謝峰さんの新しい魔法の練習……でいいかな?」

「そうだね、折角だから楽しんでやろうね」


 廃工場のコンクリの淵に座っていて話をしていたが魔法の練習のために立ち上がった。楽しみすぎて、なんか気合が入ってきたぞ。

 

「そう言えば、職業狩人って言ってたけど、どんなものを武器にしてたかとか思い出せる?」

「剣、槍、弓、後は殴り?」

「あ~じゃぁこれはあまり意味なかったかな……」


 与謝峰さんがバックから刃渡り25cm位のサバイバルナイフを取り出す。現代日本ではかなりでかい部類のナイフだな……前世だと格闘、魔物や動物の解体用だな。ってか、なんで持ってんだろ?グリップをこちらの方に回して持ち替えて渡してくれる。刃物を渡すときの基本、なんか慣れてるな……


「パパの趣味がキャンプだったの……サバイバルグッズとかまだ残ってるんだ」

「そうか……」


 親父さんの遺品じゃないか、大事に使わないとな……俺はサバイバルナイフを受け取ると、懐かしい気分になった、カバーを外して記憶に従って構える。そして連撃の型、防御の型、そういえばナイフの舞もあったなとナイフをくるくる回したりしてみる。魂が覚えている様ですんなりと動きを再現できた。それと同時に現在の自分の体の貧弱さに違和感を覚えた……そりゃ命のやり取りをしていれば危機感からものすごい鍛えるだろうな……


「……すごいねぇ……別人みたいだった」

「動きは覚えているみたいだ」


 正直俺自身も驚いている。こんなにも動けるとは……


「そのナイフに魔力を込める方法の話をしたかったんだけど、なじみの武器とか道具を使ってみるのもありだね、なんだか記憶と言うよりも魂が覚えてそう、ものすごく練習していそうな動きだったし」

「他にも試してみるか……槍とか弓……剣……剣道とか弓道とか行くしかないかな……」

「うーん……似たサイズの何かを調達するしかないかな……身バレが怖いし」

「確かにいきなり熟練した動きで振り回し始めたら何者?って思うよな、見ず知らずの人に道場と道具をレンタル……なんてやって無いよね」

「聞いたことないなぁ……場所だけはレンタルしてそうだけど何かの団体じゃないと借りれないような?……目立ちたくない、有名になりたくないって所は変わらないんだよね?」

「うん、出来るならね……」

「それじゃ、出来る範囲で色々やっていきましょうか」


 それから与謝峰さんの教えもあり、魔法を使った色々な新規トレーニングを開始した。

手にしたものの威力、強度を増す魔法、バリアみたいな物理的な魔力の盾、精霊力を混ぜない純粋な魔力エネルギー弾、魔力を利用した気配遮断魔法……どれもそれなりに上手く発現させる事が出来た。新しい魔法を覚える?使うたびに記憶のロックが外れていく感じで、覚えた時の出来事、魔法を使用した時の事を思い出した。魔力の使用量が多いせいか、新しい魔法を沢山使ったせいか理由がどちらかは分からない……


「なるほど……向こうにも学校の様なものがあったのね」

「学校なのかな……教室……と言うより青空教室?寺子屋?の方が似ている気がする」

 

 専門の教育機関などが樹立したのって割と近代になってからだったはずだ。たしか日本の寺子屋って世界的にも進んでた……みたいのをどこかの番組でやってたような気がする。


「問題は何をやったとか、勉強した内容を思い出せるのに、文字とか言語がさっぱりわからない……」

「うーん、文字とかに置き換えずに映像で覚えてるのを引き出しているのかな?それだと情報量が少なくていい記憶を思い出せない……とかかな?あ、この文字読める?」


 与謝峰さんが木の棒で地面に記憶の中にある様な文字を書いて見せる。見たことあるがわからないな……頭がズキズキしてくる。これは思い出す傾向だ……と気にしないように耐える。


「わからない……いや……よく見る形の様な……」

「うーん、わからないかぁ……でもこれが分かったら私がいた世界と同じことが確定するんだよね」

「なるほど、そうすると後は場所と建物……地名、国名とかか……でも国ごとに言語違いそうだし、時間も違う場合が無いかな……こっちの世界も200年前の東京ってなると……江戸だもんな……文字も文化も異世界レベルに違うよね」


 与謝峰さんが考え込み、ふと独り言のように小さな声で漏らす。


「わたしに絵の才能があったらなぁ……」

「え?」

「……前世も含めて……絶望的にダメなの」

「そ、そうか……」

「羽雪君、絵かいてみる?前世の?」

「俺も……絵はちょっと苦手かも……」

「……あ、魔法陣なら書けるよ、こっちの方が分かりやすいかも……」

「俺がいない時に書くと黒いモヤが出そうだからやめとけよ」

「……う……確かに、遊びで結構書いちゃったかも……」


 絵の才能って魂に紐づくものなのだろうか……と疑問に思いつつ、与謝峰さんって、好奇心と知識欲に負けると暴走する気があるよなぁ……俺も注意しようとも思った。


 色々練習もしたので時間があっと言う間に経ってしまった。新しい事をやると本当に時間がたつのが早い。日が傾いてきたので日が暮れる前に帰る事になった。お互い明日の午後も大丈夫と言う事なので明日も会う事になった。非常に楽しみだ。


 そう言えば与謝峰さんは前世でなにやってたんだろうか?魔法使いとか学者だったんだろうか?あまり話せない……と言うからしつこく聞いていないけど魔法陣をかけるなんてかなりハイレベルな人だった記憶があるしちょっと気になってきた。

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