転生者 一夜明けて考える
与謝峰さんとは事故処理後に親御さんに連れられて帰宅する事になったので特に会話する事もなかった。メッセージも【明日ちゃんと話しよう】との連絡があっただけだった。別に告白の返事を聞くわけでもないのにソワソワして寝られなった……事故のショックがかなり強かったのだろうか?ちょっと俺は自分が変だと自覚した。
翌日は案の定酷い筋肉痛……を超え激痛で全く動かせなかったので仕方ないので体中に回復する魔力を流してみる……徐々にだが動かせるようになっていく。軽く筋肉痛を感じるレベルまで回復させる事にした。
朝のニュースに昨日の事故のニュースが流れる。対向車のドライブレコーダーの映像も流れるが、ちょっと遠めで不鮮明だったが中学生らしき人影が引かれたように見えた瞬間にトラックが不自然に大破する感じになっていた。やはり俺はブラーになって見えない感じになっていた。
暴走トラックに引かれたように見えた中学生はなんと軌跡的に無傷だった。みたいなナレーションとテロップが入る。運転者は軽傷で、飲酒した後の居眠り運転だったらしい、常飲してたらしく所属会社がやり玉にあげられている。本当に迷惑な話だ。俺たちがいなかったら弟君死んじゃってた気がする。
いつも通りの登校途中に海斗が話しかけてくる。
「昨日のトラックの事故すごかったな、映像見た?」
「ああ、見たよ」
「妹がサッカースクール行ってるんだけど、すごい音がしてみんなで見に行ったんだってさ」
「おお、妹ちゃんか……しばらく会ってないな……あ、俺、事故現場のコンビニにいたから思いっきり目撃したよ」
「聞いたよ、妹が警察と話してるの見たって……あと……チームメイトの与謝峰君も一緒にいたって言ってた」
「うん、いたな。与謝峰さんと分かれて弟君が練習場方向に走って行った時に、ドーン!だからなぁ」
「やっぱり弟かぁ、あれ?……怪我……しなかったんだよな?」
「おう、みんな怪我無く元気」
「それは良かった」
教室に入って海斗と雑談をしていると思わず時計をちらちら見たり、体が不自然に動いたりしてしまう。
「なぁ、優斗……もうちょい落ち着け、気持ちはわかるけど……」
「なんかソワソワしちゃってるよな……俺」
「見るからに……って感じだなぁ」
「海斗はいつもこんな感じだったのか……」
「う、うるさい。俺はそこまでソワソワしていない。俺は気長にいくと決めた……」
「熟練者はちがうなぁ」
「くっ」
考えてみると、ここんところ、病気になったり事故に巻き込まれたり……与謝峰家は踏んだり蹴ったりな感じだったんだなぁ……そんなことを考えていたら、いつもの様に鈴香と与謝峰さんが教室に入ってくる。いつも通りに俺と海斗が鈴香に手を上げて挨拶をする。与謝峰さんと目が合うと彼女の顔が赤くなりちょっとぎごちない感じで手をひらひら振ってくれる。こっちも振り返すが自分でもぎごちなくなってるのがわかる。鈴香が不自然に感じたのか与謝峰さんをチラッと見てあれ?と言った感じで一瞬固まった……鈴香と与謝峰さんの目が合い、与謝峰さんもあれ?と言った感じになる。取り繕うように鈴香が足早に自分の席に着く。
休み時間になると、噂を聞き付けたクラスメイトが何人か質問にくる。現場はどうだった?とか、警官から何聞かれたの?とか。サッカースクールに兄弟いる人は知っちゃうわなぁ……この分だと弟くんの方は質問攻めかな?軌跡的に無傷で生還した少年!になってるからな。
昼休みに与謝峰さんと話そうと姿を探すと、鈴香に連れられてどこかに行ってしまった。放課後に落ちあう連絡した方が良さそうだな。一応スマホで連絡を入れて置く、【放課後いつものコンビニ前で、ちょっと縁起悪いから別の場所の方が良い?】さてと、弁当でも食べますが。
午後の授業が始まっても与謝峰さんと鈴香が戻ってこない。どうしたんだろ?海斗の方を見ると視線に気が付いたのか不安げな目をこちらに向ける。6限目前の休み時間に二人は戻ってきた。鈴香の目が若干充血している様に見える。与謝峰さんはどこか落ち込んだような雰囲気だ。思わず魔力感知をして体調を見てみるが特に変化はなかった。魔力に気が付いた与謝峰さんがチラッとこっちを見るがすぐに目線を元に戻してしまった。
放課後になると与謝峰さんの方からスマホでメッセージがあった。
【今日は時間が無いから中央公園の藤園にしよう?部活は無いの?】
早速返信をする
【部活はちょっと休む、同好会だけどね……場所はOK】
さてっと、家に帰ってサクッと行きますか。
「鈍感!」
待ち合わせ場所の公園につくなり与謝峰さんにちょっときつい感じで言われた。普段は落ち着いた感じで話すからなおさらきつい印象を受けてしまう。
「え、?えっと?」
「もう、今日は鈴ちゃんと……なんと言うか変な感じになっちゃったよ!」
「ごめん、何が何だかわからない……」
俺は本当に心当たりが無かった、何の話をしているんだ今?与謝峯さんの話をする予定じゃなかったけ?
「……ふぅ……えっとね、あなたが鈍感なので私が巻き込まれた?のかな……」
「あ、あの、なにについて鈍感なんでしょうか?」
「羽雪君が、鈴ちゃんと海斗くんが相思相愛って自信満々に言うから色々こじれちゃったの」
「え?どう見てもそう……だよな?あれ違うのか?」
「海斗君のはバレバレだと思うけど、鈴ちゃんはちがったみたいよ」
「まじか……」
「まじです。ちょっと違うんじゃないか……と思いながら流された自分が恥ずかしいよ」
「うーん、鈴香にあやまらないとな……」
「それはやめて!絶対に止めて!」
「?……んー良く分からないけど分かった、なんでそこまで?」
そう言いながら与謝峰さんを魔力感知してみる。感情的になるとあの黒いモヤが出るのかな……と当たりを付けているので確認が必要だ。
「え、何で今、魔力感知?」
「感情が高ぶると黒いモヤが出るのかと思ってチェックしてた」
「ああ、なるほど……その辺は話しても大丈夫……かなぁ……?」
「そうしてくれるとありがたい。海斗と鈴香には悪いが、今はそっちの方が大切だと思う」
「ごめんなさい……私も親友が泣くの初めて見たものだから……」
「えっ?やっぱり俺、謝りに行った方がいいんじゃ……」
「絶対に止めて、泣いたと言った私も悪いけど、絶対に止めて、いつも通りに接してあげて、いい?」
「は、はい」
何か与謝峰さんの押しが強くなってきた気がする。結婚すると段々と尻に敷かれて行く感じってこんな感じなんだろうか?
「ああ、もう、どこから話せばいいか訳が分からなくなっちゃったじゃない!」
「落ち着いて」
「あっ!」
与謝峰さんの手を取って回復魔力を流す。うん、健康状態も良い様だ……
「よ、余計落ち着かないから!」
与謝峰さんが俺の手を振り払う。ちょっと悲しい。与謝峰さんがベンチに座り、バックの中から持ってきた水筒のカップにお茶を入れてお茶を飲む。
「ふぅ……」
お茶を飲んでちょっと落ち着いた様だ、俺も与謝峰さんの隣に座る。
「とりあえず、話せる範囲での事で良いから話してくれるかい?」
与謝峰さんがコクンと頷く。
「まず、私は前世の記憶をほぼすべて覚えてるの、あなたの話と魔力の使い方と種類、種族構成、神が実在する世界……等からかなり似た世界、もしくは同じ世界の可能性が高い感じ」
「何歳くらいから思い出したの?」
「私は最初から……生まれた時からあったの」
「それは、……いきなり喋りだす赤ちゃん……か、すごいな」
「あ、言語が全く違うから無理だったよ。あと赤ちゃんの時って体が自動的に色々動いちゃうから、記憶があると色々大変だよプライドもずたずたになるし……ちゃんと自分を認識できるのって6か月後とかだったと思うよ。喋ろうとしても体が出来てないから1年たたないと無理だったよ」
「後、前世の私は魔法を使っていたんだけど、この世界では使えないの、正確には使えるんだけど……」
「使うと、黒のモヤが発生してしまう?」
「そう……この世界で言う呪いみたいなものだと思ってくれれば……」
「俺の魔力で消せるみたいなんだけど……」
「それが不思議なの……神聖魔法、女神さまの力を借りた魔法だったら消せる可能性があると思うのだけれども……この世界に神様は現世に降りてきていないみたいだし……」
「うーん、与謝峰さんが魔法を使っても、黒いモヤが出るたびに俺が消す……ってやっていけば魔法を使ってもいいんじゃないの?」
与謝峰さんがちょっと考えてから、どうしたもんかな?と迷った顔をした。
「この黒いモヤ、心に影響があるの」
「?どんな感じで」
「前世の父親がこの……黒いモヤに巻き込まれたら別人の様な性格になってた。それこそ、人を人と……思わないような……残虐な感じに……」
「それで事故の後、やたらネガティブな感じになってたのね……」
「え、あれ?そうだったのかな?」
「いつもポジティブだから落差があってビックリしたよ」
「……そう言う事にしてくれると嬉しい……」
あれ?違うのか?まぁいいか……深い意味を探っても良くわからなさそうだな。
「それなら俺の魔法の先生をお願いできるな」
「多分……出来る気がする。見せてもらった魔法の原理は私の世界のものともの凄く似ているから……」
与謝峯さんが、ふと空を見上げて遠い目をする。
「後はその……あなたの魔力を……最初に気が付いたのは……登校の時なの」
「……魔法は使えないけど、魔力がわかる?のか?」
「うん、魔力を練らないでも体内に循環している普通の人が持っている気の様なものでも薄く目に集めるイメージで……これだとほんの微量で相手にも察知できないけど魔力を見る事が出来るの。後は魔力感知に慣れると魔力を使わなくても魔力を感じる事が出来る感じ、詳しい方向とか距離とかは分からないけど、そこにあるって感じが感じ取れるの、前世でさんざんやってた事だからできてたみたい」
なるほどなぁ……道理で与謝峰さんから魔力反応が感じられなかったわけだ、あれ?最初から魔力に気が付くんだったら?考えてみると最初の練習してた場所は魔力がある事をしらないと気が付かない距離だったなぁ……魔力を感じられたから見に来た感じか?
「それで、その、あなたがどちら側の人……私の敵なのかどうか?……と思って後をつけてみたの」
「それであの時話しかけてきたのか……」
「あ、その前の日の練習の時からいました……」
「え?そうなの?」
「あまりに……その、見ていてもったいないというか、まどろっこしいと言うか……」
「あ、見てられない状態だったのね……」
与謝峰さんが頷く。
「後は、どうせなら堂々と近づいて探らないとわからなさそうと思ったのと……」
「と?」
「羽雪君があまりに面白そうなことを、楽しそうにやってるので思わず……」
「……え?」
やっぱり与謝峰さんは好奇心で身を亡ぼすタイプだと思った……俺が悪人だったらヤバい事になっていたのではなかろうか?
「後はあなたも知っている通り、魔法を使えないフリをしてどれくらい魔法が使えるか、前世の記憶がどれくらいあるか探っていたの」
色々納得がいった。要約すると敵か味方かわからんから探ってたら楽しそうなので仲間になっちゃった……と、うん、頭がいいけど俺より馬鹿なのかもな……俺が無言で熟考に入ってるのを見て与謝峰さんが焦りだした……
「あの……私の事……」
「好奇心は身を亡ぼす的な奴を現実で体験できるとは思わなかったよ」
「うっ……」
「別に自衛のために色々やってて、俺を追い落とそうとか利用しようとかは思ってなかったんでしょ?」
「それは……そうね……」
「じゃぁいいんじゃない?」
「……いいの?」
「うん」
それよりも今の俺には重要な事があった、今が聞くいいチャンスだろう、と言うよりこっちの方が本題だ。俺の今後の人生を左右する大問題だ。
「それよりも大事な話がある、前世の記憶が完璧にあるんだよね?」
「う、うん」
俺の顔は大分怖い感じになってきている……と言うか緊張で顔がこわばっていく……くっ、こんなにも質問しにくいとは……前世を含めて一番緊張している気がする……
そんな俺につられて与謝峰さんの表情も固くなる。
「そっ、その、つ、付き合ってた人とか、けっ、け、結婚とかしてたの?」
しばらく与謝峯さんの思考が止まった様だ。一時停止ボタンを押したみたいだな……
「……えっ?……はい?……あっ、やっぱりそんな感じで……ああ!」
与謝峰さんが恥ずかしいのか顔を覆って俯いてしまう。うーん、そんなに恥ずかしいのか……前世の事を話してくれるだけでいいのに……ちょっと、いやかなりの間を置いて与謝峰さんが顔を覆ってた手をおろしチラッとこちらを見る。そしてまた目をそらす。手を顔で覆ったまま話し出す。
「……えっと……答えた方が良いのかわからないけど……」
「教えてほしい」
「う、うん……その、慕ってる人はいたけど……その、いろいろと経験する前に転生したの……」
俺の緊張が一気に解けていく……
「転生してもう15年も経つから…………」
チラッと与謝峰さんが俺の方を見る。顔を隠すのをやめて見上げてくる。
「……ものすごくうれしそうね……」
「……かなりうれしいかも……」
さすがに俺も、子持ちで既に大人になったくらいの人とはどうやって恋愛を進めて行けば良いか想像できなかった。転生前の事を覚えていると言う事は前世で付き合っていた人と比べられてしまうと言う事に他ならない。恋愛の経験がかなり不足している俺ではうまく行かないと思ったのだ。うまく与謝峯さんが俺をリードしてもらえればとは思うけど、どう見てもそういうタイプではないし……一番は恋愛経験がない状態とか、せめて未婚のまま終わったとか……そっちだったら恋愛経験が近いから何とかなるかなと思ってしまったのだ。
ちょっと間を置いて言いにくそうに与謝峰さんが口ごもる……
「……あの……気持ちは嬉しいのだけども……その、あたし……」
ちょっと待ってくれ、この振られそうな流れはなんだ……あれ?この先の発言は聞きたくないような??俺はちょっと慌てる。ものすごく悲しくなってきた……
「……だめなのか?」
また与謝峰さんがチラッと俺をみてビックリした表情をする。
「ああ、そんな顔しないで………そのっ、この黒いモヤがあると、こっ、子供が出来た時に移っちゃうの!」
「え?子供?」
「私が死んだら、子供に移る呪いみたいな感じで……」
「あ……ああ……」
俺は一瞬頭が真っ白になったが、ようやく理解した。要するに付き合っていくと子供が出来る。出来ちゃったら子供が呪われてしまう。か……与謝峯さんの思考もかなり飛んでいるな。いきなり結婚とか考えてるわけか?……あれ?そうすると与謝峯さんの黒いモヤの呪いも……確か狂って別人みたいになったと言っていたな。
「それ、親父さんから移ったものなのか……でも転生してるのに……?」
ちょっと間を置いて落ち着いてきた与謝峰さんが胸に手を当てて答える
「……ふぅ……魂への束縛……だって、転生してもヤッパリ付いてきたって感じ」
「末代まで呪う的なやつか」
「この世界だとそう言うのもあったね、そんな感じだと思って」
「それじゃその黒いモヤを何とかすれば問題無いんだね?」
「……そうだけど……無理だよ、前世の知識を総動員しても無理だし、呪った神様を何とかしないとダメだと思うのだけど、呪った神様この世界にいないし……」
「……俺がこれから頑張って記憶を取り戻して浄化の力が上がれば……ワンチャンスあるかな?」
「……わからない、分からないけど浄化の力……は可能性はあるかも……」
「それじゃ、これから頑張ってみようか」
「うん……あれ?わたし……こんな話をしに来た記憶がないんだけど……」
与謝峰さんがうれしいような困ったような複雑な表情を浮かべた。
それからしばらく二人で会話した。与謝峰さんが俺の知らない情報を教えてくれた感じだ。
この世界には異世界からの転生は結構あるらしく、微弱な魔力持ちはいる、これは与謝峰さん自身が色々なところを見て回ったときに気が付いたらしい。実際、身体能力強化を使ってるスポーツ選手などを見かけたらしいが、微々たる力でおそらく無意識で発動しているだろうとの事。
その他に、この世界にも神様が降臨されたりするのか調べてみたが、今のところそのような情報や気配は無いらしい。
文明や地図などを調べた上で、ここは前世のその後、つまり未来とかではないのを確認していて、一応前世から数億年たってたらまた話は違うけど星の並びなど全然違うからそれも当てはまらないだろうとの事。前世では天文学も行けるくらいの博識だったわけだ。
後は俺の魔力がすさまじい量で、前世でも見たことが無いレベルみたい。もしかしたらこの世界に転生した人が俺に気づく可能性がある事も教えてくれた。
浄化に関しては与謝峯さんも良くわからないからこれから一緒に実験していこうと言う事にまとまった。
そんな感じで話し込んでいる内に日も暮れてきたので途中まで他愛のない話をしながら一緒に帰り別々に家路についた。
まだまだ情報が足りない気がするのでまた後日相談だなぁ……さてどうやって浄化能力を強化するのか、もしくは記憶を取り戻すか……が今後の焦点だな。
家に帰ると両親にマッサージをせがまれたので程よく魔力を使って体調を良くしてあげる。妹もそんなに効くのならと試しにやってみたら「あったかくて気持ちい……」と言って両親と同じようにマッサージ中に寝てしまった。健康な人間に回復魔法流すとリラックス効果があるのかなぁ……気功法を使ったマッサージ院でも開くか……まぁ、俺がやると魔力法になるけどね。
風呂に入りリラックスして頭がスッキリしてきたので情報を整理してみる。魔法を使ったりすると何かの拍子に記憶の一旦を思い出したりするのは確定。
事故の時に限界まで魔力を流した思考の超加速、身体能力の限界までの強化を行った時にフラッシュバックの様に思考の中に前世の記憶がかなり蘇った。もしかしたら魔力の消費量に比例して記憶が蘇るのかもしれない。
与謝峰さんの前世の記憶への質問をして貰った時に不意にいくつかの情景を思い出したりしていた。記憶を辿ってある程度は思い出せるのかもしれない。でもアレ、めっちゃ頭痛くなったんだよな……痛くなく出来る方法ないかなぁ……自分だけで記憶を辿っても全然思い出せないもんな……明日、色々相談するか……平日はちょっと忙しくなるから、土曜日かな?
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