転生者 突然の急展開に巻き込まれる
待ちに待った土曜日の魔法練習日になる。待ち合わせ地点のコンビニに自転車をとめ、小腹が空いたのでおにぎりでも買って外に出る。今日もいい天気で良かった……雨の場合はどこで練習をすれば良いんだろうか?コンビニで買ったおにぎりをほおばりながらそう思った。
そんなことを考えていると与謝峰さんが自転車に乗って、その脇を弟君が走ってついてくる。弟君はサッカーのユニホームかぁ……この辺にサッカー練習場あるから一緒に来たのかな?懐かしいな小学校時代に、俺、海斗、鈴香の3人でよく一緒に行ったもんだ。
与謝峰さんが俺に気が付き手をひらひら振ってくれる。いつもの挨拶だ。自転車を止めるとカゴに積んであったスポーツバックなんかを弟に渡している。
俺はコンビニのゴミ箱におにぎりのゴミを入れてから二人に近づく。
「あ、こんちはっ、お兄さん」
「こんちは、サッカーやってるんだね」
「うん、お兄さんもやってるんでしょ?今度一緒にやろうよ」
「もちろん」
軽く手を上げてグータッチのポーズをする。弟君も気が付いてグータッチをする。
「ねーちゃんやっぱりデートじゃんか」
「……うるさい……」
確かに、週末のこの時間の与謝峰さんは、学校にいる時の雰囲気とは違っていて、いつも小綺麗な感じで俺の方も心が躍る。
「それじゃ~ね、楽しんでね!」
「もぅっ!」
へへッと笑った弟君がサッカー練習場の方に走って行き青信号の交差点を渡ろうとする。
ガァン!!
余りの大きな音にそこにいる全員が音の方向を振り向く。10トントラックが向こうのガードレールにぶつかった音だった。そのまま止まるかと思いきや、トラックが加速していく……えっ、ちょっと待て……その方向には弟君が……
その瞬間俺の周りの時間がゆっくりと流れ始めた。
俺は全身にありったけの魔力をまとわせ、身体強化を使い全力で走り出す。更に集中すると、周りの空間から色と音が消える。まるで水の中を走っている様だ足が鉛のように重い……このままだと間に合わない!……回転数の上がった頭で衝突位置と時間を演算すると弟君を直撃コースだ……くそっ!……更に追加で魔力を足に行きわたらせる。ゆっくりな空間で何回も移動ルートを頭の中で演算する。限界を超えた魔力をまとった状態のこのスピードならいける……が、俺の体に当たってしまうな……魔力硬化を使えば行けるか?……魔力硬化?……そんなの出来たっけ……やるしかないか……もっと考えろ!この状況で二人綺麗に助かる方法を!……あっ、運転手……寝てやがる、くそっ!ブレーキくらい踏めよ!
意識が加速した世界で弟君まで何とかたどり着く、ビックリした顔で固まっている弟君を両手で首を折らない様に後頭部に手を添えた上で抱きしめ全力で離脱する……くそっ!……下半身が間に合わないな……ゆっくりとした世界だけど当たったらとんでもない事になるのはわかる……畜生……諦めつつも俺の体を盾にして全力で魔力硬化をしてみた。
ドォオオン!
俺の背中で何か音がした……が、俺とぶつかった音ではない、このまま着地できるな……思考と意識を超加速させた世界で魔力を足に込めなおし着地をする。摩擦熱で靴のゴムから煙があがる。
振り返ると、ついさっき俺たちがいた場所の空間に『魔力の盾』が出来ていた。俺たちはどうやらあの盾に守られたようだ……良かった……弟君は突然の超高速度に突然さらされたため気絶してしまった様だが、魔力感知をする限りは大丈夫だ。さすがに身体強化をしていない状態ではあの超高速度に耐えられるわけがなく首の魔力の流れが悪くなっていた様なので魔力を流して治してしまう……
そう言えば与謝峰さんは……?
振り返ると目を見開いた与謝峰さんが手を掲げた状態で止まっていた。彼女の周りに大量の魔力を使用した痕跡と黒いモヤが大量に発生していた。
それからしばらくして警察と救急車のサイレンのが鳴り、辺りに野次馬が集まり慌ただしくなる。あれだけの衝突音と信号機をなぎ倒す音がすれば、それは沢山の人が集まってしまうだろう。トラックの運転手の救出作業が行われている様だ。トラックの運転席側ではない左前面が大破しているが運転手側はガードレールにぶつかった 時の軽微な破損しかない。魔力の盾が上手い事、俺たちと運転手を守ってくれたようだった。その代わり交差点の信号なんかはぐちゃぐちゃだけどね……
「どうする?逃げておくか?」
「対向車に目撃者何人かいるし、コンビニの監視カメラあるから無理じゃないかな……道路があまり映って無いと良いけど……」
与謝峰さんが目を下に向けて目を合わせてくれない……ちょっと悲しい。
俺はコンビニの方を振り返り監視カメラの位置を確認する。あの角度だと映ってない可能性が高いな……
「大丈夫な角度に見えるな……ドライブレコーダー次第かな……かなりのスピードだったから残像だけのはずだけど……」
対向車やトラックについているドライブレコーダーの性能がわからない俺には判断がつかない……ネットによく上がる運転動画は結構な解像度で映っていたような気もする。
顔を伏せたまま与謝峰さんが低く、不安そうな声で俺に問いかけてくる。
「ねぇ……聞かないの?」
「話したいなら……」
「……そう……」
「……それより弟さんの方が心配何だけど……大丈夫かな」
「あなたが樹を癒してくれたから……大丈夫。大きな心の病気にはならないと思う」
「そう言うものなのか……」
俺もさすがに今回の事はショックだったみたいで頭があまり働かない。
二人で何を言うともなくしばらく立っていると、気絶していた弟君が突然目を覚ます。大丈夫そうだな、良かった。
「え? あれぇ?」
弟君が辺りを見回しトラックの破壊具合に一瞬ビックリしたのか止まった後、自分の体を触ってみてどこもおかしくないか確認をする。
「あれぇ??? トラックが……あれ?」
「上手い事トラックが何かに当たって助かったみたいだよ」
「え、……あんなに近くに来てた……ような?」
「まぁ、とにかく助かったんだ、よかったな」
「え、あ、はい?」
ここにいる人全員、気が動転している状態だから、何言われてもわけわかんないよな……俺も動転して頭が良く整理できないし……情報が多すぎて頭がボーっとする。そんな中、警官が対向車のドライバー達に事情を聴いた後、こちらに向かってくる。面倒な事にならないといいんだけどね……
しばらく警官の事情聴取の受け答えをしていると、与謝峰ママが自転車に乗って慌ててやってくる。弟君を見て、ああよかったとほっとした表情をする。どうやらサッカースクールの方から連絡があったみたいだな……与謝峰さんの方にも近寄りぎゅっと抱きしめる。
「怖かったでしょう……」
「……うん……」
与謝峰さんの目から涙が流れ落ちる……そうだった、親父さんを事故で亡くしてるんだった……余りの事に配慮を忘れてた……頭が完全にオーバーフローを起こしてるな。
それから与謝峰ママが弟君を抱きしめようと近寄ろうとすると……
「ママ!、オレ、テレポーテーションしたみたい!」
「えっ??あなたなに言ってるの?」
弟君の発言に与謝峰ママが混乱する、周りの誰かに現状を聞こうと見回す。誰もが何が何だか良くわからない状況なので誰も答えられない。事情聴取をした警官も目をそらしている。聴取した内容をまとめると意味不明な事故になるだろうなぁ……ドラレコの映像にも突然何もないところで大破するトラックと引かれる寸前に突然消える歩行者……って感じでビックリ映像に流れるのだろうか……オレ映って無いよな?……
事故現場の雰囲気が落ち着いてきたところで、俺は与謝峰さんの肩をぽんぽんと叩いた。
「ちょっといいか?」
「う……うん」
与謝峰さんをコンビニの駐車場の離れた場所に連れ出す。与謝峰さんの足取りが重い……
「……今まで騙しててごめんね……」
「……」
「……理由とか聞きたいだろうけど……詳しく言えないの」
終始与謝峰さんが目を伏せて申し訳なさそうにしている。今までのきらきらした可愛い目とのギャップが激しい。それにしてもなんか黒いモヤがまとわりついて凄いことになっているな……
「……その、どの異世界から来たとか……その……確証がほしかったの……」
「……」
「……こんな不思議な世界だから、色々な並行世界があるかと思って……」
「……」
「あなたが私にとって……その……害悪な……存在かどうか……知りたかったの……」
「……」
うーん、黒いモヤが段々と激しくなってきた……これ割とやばいやつだよなぁ?そんな雰囲気がする……なんか感情とリンクしてるのかこれ?今くらいなら魔力流し込めば前みたいに浄化できるかな?とりあえず、ちょっと痛いみたいだから逃げ出さない様に抱きしめるか。
俺は与謝峰さんが痛みで逃げられない様に抱きしめてみた。
「……へ?えっ???え?」
「ちょっと痛いかもしれないけどがんばってね」
「えっ?」
俺は遠慮なく魔力を流し込む、よくわからない黒いモヤよ消えちゃえ!えいっ!
「あだだたたたたたたたたたたたった!」
与謝峰さんが痛みで体をよじる。
が俺は構わず魔力を流す。みるみる黒いモヤが小さくなって行く。もうちょいか……さらに魔力を流す……うん、浄化終了みたいだな。
「い、いいい、いたいって!って、あれ?」
痛いのは回復する魔力で和らぐかなぁ……と思い魔力を流し込んでみる。魔力感知をしてみても、与謝峰さんのメンタル部分の流れがなんかすごく悪いようだし……
「あ、あったかい……?」
「……落ち着いたかい?」
「……うん」
与謝峰さんがキョトンとした表情になった後、顔が真っ赤になる。与謝峰さんの顔が近いな……可愛いなぁ……って抱きしめてたんだった。ちょっと名残惜しいが拘束する腕を離す。
「あの……一応その……結構……意を決した懺悔の告白だったんだけど……」
「……俺は与謝峰さんに色々教えてもらってたから、騙されてるって感じ全然しなかったよ。むしろこれからもアドバイスお願いしたいのだけど」
「これからも……騙す事になっちゃうよ……」
「騙す、じゃなくて言えないんだろ?」
「……うん、そうだね……」
「後は、大事な事言い忘れてた」
「え?」
「俺たちの命を助けてくれてありがとう」
「……どういたしまして」
お互い見つめ合って、笑いだす。
なんか色々と謎が解けてスッキリした気分だった。俺が謎に思ったことに常に先回りして的確に色々と導いてくれてた……先に転生した事に気が付いた先輩だったんだね。
「な、やっぱり彼氏だったじゃん」
「コラ、茶化すんじゃないの、まだ微妙な時期みたいなんだから」
一部始終を家族に見られていたわけだ……俺だったら悶絶ものだな……
チラッと与謝峰さんを見ると茹でタコの様に真っ赤になっていた……多分、ちょっと早い気もするが夕日のせいだろう。
■とある路地裏で……
「うわわ、わ……なんだよあれ……」
走り去るチンピラ風の男、普通の人間より速く走っているかのように見える。
「なんでガーディアンがこの世界にいるんだよ!」
逃げようと路地を曲がろうとしたところ足に紐のようなものが絡まり転んでしまう。
「え、縄跳び……?」
男が足に絡まったものを取ろうとしてビックリして固まる。動きを止めて固まっていると第2、第3の縄跳びが手足に絡まりパイプに吊るされてしまう。
「くっ……なんなんだよ」
人型のなにか……その男にガーディアンと呼ばれたものは拘束した男にレーザーの様なものを満遍なく当てる。
『データスキャン完了、魔力反応軽微、対象の波長との適合……適合無しと判断、非該当者の模様、開放します』
「うっ……やっぱり向こうの言葉……なんでこっちの世界に……」
『!!!微弱な邪神の残滓を検知……優先度の変更をします。』
「え、ジャシン?なんだそれ?」
ガーディアンは向きを変えると人知を超えたスピードで移動し始めた。
「はぁ…ガーディアン……こっちでも見回りに来るの?魔法で悪さするのやめるしかないかぁ……」
吊るされた男はがっかりした様子だったが、逆さに吊られているので段々苦しくなってきた様だ。
「あー、そこのおまわりさーん、なんか変なのに絡まれて降りれないんですけど!」
男は体を揺らして下を歩く警官にアピールを始めた。
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